アトピー性皮膚炎 30代男性
日本では数年前に臨床治験が始まったばかりの「腸内フローラ移植(糞便微生物移植)」は、大学病院などで疾病、人数を限定して行われています。
当研究所では、35年以上前から続けてきた細菌の基礎研究をもとに、数年前から民間のクリニックとして腸内フローラ移植の臨床研究を行ってまいりました。
疾病を限定せずに行ってきたこと、腸内フローラ移植ができる民間で唯一のクリニックを運営していたこともあり、臨床例は国内最大です。
とはいえ、まだまだ保険診療として認められるほどの症例数には至っておりません。
今日は、患者様の数少ない症例のうち、アトピー性皮膚炎の症例をご紹介します。
移植前のフローラバランスも、移植回数などもあくまで「個人差」が大きいことをご理解いただいた上、ご参考になさってください。
患者様情報【アトピー性皮膚炎 30代男性】
10代の頃に発症し、皮膚科にて標準治療中。
顔や手足、関節、首、背中などの広範囲のかゆみと浸出液に20年以上苦しまれてきました。
移植情報
食事指導と並行しながら、約3ヶ月間で計5回の移植を行いました。
これによりフローラバランスが改善し、かゆみや浸出液が治まりました。
それから2年以上、症状の再発はありません。
移植は、リバウントに十分注意しながら行いました。
特にアトピー・アレルギーの患者様は、「リバウンド」という現象が起こることが多くあります。
リバウンドについては、下記の記事をご覧ください。
生着率が高いゆえに、複数回の腸内フローラ移植(便移植)が必要であること
腸内細菌の働きによって、手足や顔の皮膚バリアの再構築が促進されたこと、免疫系の過剰反応が緩和したことなどが挙げられます。
この患者様の移植前後の腸内フローラバランスは、以下のように変化しています。
移植のポイント
身体はマイナスの情報も記憶していくので、特にアトピー性皮膚炎の場合は罹患歴と治療期間が比例します。
長く罹っているほど治りにくい、ということです。
2〜3歳のお子さんは腸内フローラ移植で比較的すぐに治る方が多いですが、自己免疫力の教育が終わる胸腺の活動終了後(17〜8歳)に発症した場合は、個人差はあるものの、治りにくいという印象があります。
また、他の疾病では基本的にドナーは20〜40代の健康で若いドナーを選ぶことが多いですが、アトピー性皮膚炎の患者様の場合は、ドナーの年齢はあまり関係ないと考えています。
それは、アトピー性皮膚炎という病気が比較的新しい病気であることに関係しています。
このような免疫過剰系の疾病は、過剰に清潔を好む現代社会が産んだものとも言えます。
今のおじいちゃん、おばあちゃんの年代の人たちが子どもの頃、アトピーというのはクラスに一人もいないくらい珍しい疾病でした。
ひいおじいさんくらいの年代になると、「アトピーってなに」という時代です。
つまり、それだけ体内に侵入する「自分自身ではないもの」に対しておおらかに受け入れる素質をもっていたということであり、それはその人たちの腸内細菌にも同じことが言えるのです。
それは、「免疫力が過剰に働くのをなだめる細胞(制御性T細胞)」を出すのが腸内細菌の働きによるものであることと関係しています。
それぞれの菌がどのような働きをしてくれているのかについては、「書籍『うんちのクソヂカラ』清水真 著」で詳しく解説しておりますので、よろしければこちらもご覧ください。
他の症例も多数掲載しています。
移植ができる医療機関
この数年間は小さなクリニックで腸内フローラ移植臨床研究を続けてまいりましたが、このたび「一般財団法人 腸内フローラ移植臨床研究会」を発足しました。
これまでの研究に賛同してくださる臨床医と連携しながら、さらに多くの皆さまの健康づくりにお役立ちさせていただく体制を整えることができました。
これからは研究機関として、腸内フローラ移植菌液の研究開発をさらにすすめてまいります。
この記事を書いた人

- 研究員(菌作家)
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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
個人ブログ→千のえんぴつ
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《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)