テロメアと潰瘍性大腸炎

遺伝子もすごいなと思うmrnnです。

論文の内容的には腸内細菌との関係は薄いのですが、潰瘍性大腸炎のことで新しい論文がありました。

「 潰瘍性大腸炎における粘膜組織異常の原因がテロメアであることを発見 」
― 粘膜完全治癒を目指した新規治療の実用化を目指す ―

潰瘍性大腸炎における粘膜組織異常の原因がテロメアであることを発見

一部抜粋しまして、

東京医科歯科大学の研究グループは、炎症性腸疾患における腸上皮再生不良・機能異常の原因がテロメア長の短縮によることをつきとめました。
また、テロメア伸長剤により炎症で障害を受けたヒト腸上皮幹細胞の増加や上皮細胞の増殖を認めました。
テロメア伸長剤を使用した細胞ではマウス大腸潰瘍への移植効率が大幅に向上し、腸粘膜のヒト大腸組織異型も正常化しました。
以上より、テロメア伸長剤による腸粘膜防御機能の回復が示唆されたことから、腸上皮自己再生医療への実用化が期待できます。

粘膜完全治癒…

潰瘍性大腸炎は、粘膜および粘膜下層を主体とした炎症性疾患であるため、粘膜の所見を詳細に観察することで疾患の病勢が推測できるんですね。

抗TNF-α剤などの生物学的製剤が出てきてから、潰瘍性大腸炎では炎症を抑えるだけではなく、粘膜治癒を治療目標にする時代になってきているのです。

そして、今までの抗炎症とは全く違う治療標的である「テロメア」が粘膜治癒に大事だと言うことがわかったんです。

1 粘膜治癒とは?

ただ、この粘膜治癒は定義が定まっていないんですよね…

2007 年 に the International Organization of Inflammatory Bowel Disease(IOIBD)は、
粘膜治癒を「内視鏡的に観察可能なすべての腸管粘膜において、脆弱性、出血、びらん、潰瘍を認めないもの」と定めているのですが、
組織学的に治っていることが必要ではないのかとか、いろいろな定義が出てきていて、
「粘膜治癒の判定については内視鏡による肉眼所見の改善が最低条件であり、そこに組織学的所見を加味するか否かについては議論が分かれているのが現状であると考えられる」
と言うのが、一番のおとしどころかなと思います。

(参考 
藤谷 幹浩, 高後 裕、『潰瘍性大腸炎と粘膜治癒』 日本消化器病学会雑誌 2013 年 110 巻 11 号 p. 1900-1908  https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/110/11/110_1900/_article/-char/ja/

今回の論文では「腸粘膜のヒト大腸組織異型も正常化しました」とあるので、組織学的所見を加味した一番難しい条件での治癒なので、「粘膜完全治癒」というタイトルになっているのだと思います。

2 オルガノイドとは?

「ヒト」という言葉が使われているので、人体実験をしているのか?とも思ってしまいますが、「オルガノイド」を使っているんですね。

オルガノイドとは、臓器特異的幹細胞及びその幹細胞から分化した細胞群を含む細胞塊で、器官に類似した組織構造体のことで、足場となるゲルに埋め込んで3次元培養により作製するらしいのですが…

難しいので、ヒトの細胞を使って「ミニチュアの臓器」を造ることができるようになったと考えればいいと思います。

なぜミニチュアかというと、今の技術だと実物大の臓器はつくれないからです。

実際の臓器の機能よりは単純なようなので、「本当のヒトの臓器と同じなのか?」「他の臓器との相関は?」「常在菌との関係は?」などの疑問は残るのですが、それでもヒトの体で起こっていることを今の時点でもある程度は再現できているのではないかと、僕は思います。

脳や肺や腎臓や脾臓や胸腺、様々なオルガノイドが造れるようになってきているので、
この技術が発展していけば、動物実験など非人道的なことをせずに、
様々な物質が人体に与える影響を調べることができるようになるし、
まだマウスなのですが「マウス大腸潰瘍への移植効率が大幅に向上し」とあるので、
オルガノイドによる臓器の移植ができるようになるかもしれないと、期待しています。

3 テロメアとは?

今回の論文のキーワードは「テロメア」なんですね。

なにせ「炎症性腸疾患における腸上皮再生不良・機能異常の原因がテロメア長の短縮によることをつきとめました」だからです。

ただ、このテロメアのことはよくわかっていないと言うのが現状ではないかと思います。

テロメアの役割の一番有力な説として、「細胞分裂の回数券」というのがあります。

正常な細胞が分裂をくりかえしていくと、やがて分裂しなくなります。(細胞老化という現象です)

細胞分裂の回数に上限があるしくみは、電車やバスなどの回数券に例えられていて、この回数券に相当するのが、分裂のたびに短くなっていくDNA(染色体)の端にある「テロメア」の長さであるという説が有力なんですね。(寿命とも関係があるのではないかというのもあります)

テロメアは「がん」とも関係してるかもしれないんてすね。

テロメアの長さをのばす「テロメレース(テロメラーゼ)」という酵素があって、多くのがん細胞ではテロメレースが過剰に働いていて、分裂をくりかえしてもDNAが短くならないので、際限なく分裂することができるんです。

後は、体の様々な臓器に備わっている幹細胞でも比較的活発にテロメレースが働いてると考えられてます。

幹細胞は自己複製能と様々な細胞に分化する能力(多分化能)を持つ特殊な細胞で、「失われた何かになれる細胞」と言われていて、ヒトの場合は体の場所ごとに、ことなる種類の幹細胞をもっているんですね。

この性質が「造血幹細胞」や、「表皮」、「小腸上皮」、「大腸上皮」などが上限を越えて常に分裂できる要因の一つであると考えられています。

こう書いてると、「テロメア」はすごい大事なんじゃないかと、僕は思っています。

造血幹細胞は赤血球、血小板、好中球、好塩基球、好酸球、マクロファージ、B細胞、T細胞、「全ての免疫細胞」をつくっていますし、潰瘍性大腸炎の粘膜組織異常の原因もテロメアなんですね。(もしかしたらクローン病とも関係するかもしれないです)

おそらく、テロメレースの働きに「腸内細菌」が関わっているんじゃないかな~?と僕は予想していますし、(無菌マウスが普通のマウスより長生きだけど老化が早い)慢性疾患のキーワードになってくるんじゃないかな~?と思っています。(長年炎症を起こした部位が瘢痕、線維化して元に戻らなくなる)

4 論文内容

めちゃくちゃ前振りが長くなりました、やっと本題です。

この論文ではヒト大腸上皮オルガノイドに炎症刺激物質を添加し、1年以上培養を行い潰瘍性大腸炎に類似した形質を獲得し、このオルガノイドをマウス大腸への移植にて疾患と類似した組織異常(杯細胞減少・腺管のねじれ)を認めたことからヒト体外疾患モデルとして「ヒト体外潰瘍性大腸炎モデル」としたようです。

画像をお借りしました。

「 潰瘍性大腸炎における粘膜組織異常の原因がテロメアであることを発見 」
― 粘膜完全治癒を目指した新規治療の実用化を目指す ―
(https://research-er.jp/articles/view/100961)より図2を引用

ヒト体外潰瘍性大腸炎モデルでも「潰瘍性大腸炎患者検体由来腸上皮オルガノイド」でも正常腸上皮オルガノイドよりもテロメア長が短いことが確認されたようです。

ここからすごいのですが、正常大腸オルガノイドに「テロメア短縮剤」のみを添加すると、杯細胞形質の抑制や細胞障害など 「IBD(炎症性腸疾患)形質」を獲得したんですね。

一方、IBD 様大腸オルガノイドに「テロメア伸長剤」を添加すると、「炎症環境」においても上皮幹細胞が増加し、細胞増殖を認めるのみならず、杯細胞形質を誘導し、免疫不全マウス大腸への移植にて、生着率の向上と杯細胞増加を伴う正常なヒト大腸腺管を構築しました。

たぶん、炎症性サイトカインや腸内細菌成分を除去しなくて、「組織学的に治癒」するという、一番難しい条件を満たしているんですよね…

しかも、「移植」効率も上がるかもしれない…

テロメア伸長剤…

…これは、僕もちょっと期待してしまいます。

※ この章での「移植」「生着」とは、オルガノイドのマウス大腸への組織移植であり、当研究所の研究テーマである腸内フローラ移植(FMT)のことではありません。(2021年8月18日、追加編集)

5 まとめ

潰瘍性大腸炎における粘膜組織異常の原因がテロメアであることを発見し、テロメア伸長剤で粘膜完全治癒ができるかもしれなくて、しかもオルガイノドを使った移植ができるようになるかもしれないので難治性の潰瘍性大腸炎にも希望が出てきた。

…かなり希望的に書きました。

まだまだ腸内フローラのこともわかっていませんから、テロメア伸長剤を本当に人に使ってみないとわかりませんし、テロメア伸長剤を使い続けないと効果がなくなるかもしれませんし、いろいろと不明な点は多いのですが…

でも、「粘膜構造の再形成においてテロメアが重要である」という新しい知見が得られました。

今までの抗炎症薬とは、全く治療標的が違うテロメア伸長剤は、もしかしたら他の「炎症疾患」にも効果があって、シンバイオシス研究所の「生着面積を広げる腸内フローラ移植」と相性がいいのではないか?と僕は思っています。

…腸内フローラに悪い影響がない薬であることに、期待しています。

この記事を書いた人

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mrnnライター
小学生の理科の授業の時に食物連鎖の図を見て、分解者になりたかったです。
その夢が叶ってか、菌のことを書くライターになれました。
菌に救われた身として、菌と人の世界を繋ぐような文章を書きたいです。
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