うんちはどこまで自分の「真の腸内フローラ」を反映しているのか問題
「なんでわたしだけが」って思う瞬間って、ありますよね。

いや、頭ではわかってるんですよ?
自分は恵まれているし、自分だけがしんどかったり特別だったりするわけじゃないし、そんなことを思うことはお門違いだってこと。
世の中いろんな職業の人がいて、
同じ会社でもいろんな業務分担をしてくれている人がいて、
正社員もアルバイトもいて、
みんないろいろある。
自分はそこに含まれていて、含んでいただいている。
それでも、「なんでわたしだけが」って憤ったり悲しんだり、自分に同情してみることでしか発散できないなにかってあるような気がします。
今日は、自分の人生や周りの人たちとの関係、
ずっと一緒にいてくれる人や、通り過ぎていく人たちのことについて、思いを馳せてみたいと思います。
あ、ちなみにここでいう「わたし」というのは、お腹の中の1匹の腸内細菌のことです。(いきなり何その設定)
前回の記事「腸内フローラ検査って何なのか、何がわかるのかを徹底解説します。」では、うんちを調べることで腸内フローラを調べるんだというお話をしました。
今日は、身体の中で働きを終えてうんちとして出てきた腸内細菌たちがどれくらい「真の腸内フローラ」を反映しているのかという問題と、健康志向の方のあいだで流行っている「菌活」が実際のところどうなのか、その意義を深掘りしてみましょう。
目次
人間の健康管理をする会社=腸内フローラの業務分担

わたしたちのお腹の中の腸内細菌たち(腸内フローラ)は、会社組織のようにそれぞれの役割を果たしながら人間の健康管理をしてくれています。
会社にいろいろな部署があるように、腸内細菌にもいろいろな部署が役割を分担しています。
- 免疫力を司る菌
- 糖質の代謝を行う菌
- ガンの遺伝子変異スイッチのON・OFFに関与する菌
- 食物繊維の分解を行う菌
- 精神的な落ち着きをもたらすホルモンの分泌を促す菌
などなど、あげればキリがないほどたくさんの働きを、チームでこなしてくれています。
うんちに反映される腸内フローラ

腸内細菌たちは、腸の中で絶えず増殖を繰り返しています。
そして、常に若い腸内細菌が活躍できるよう、一世代前の腸内細菌たちは、うんちとして排泄されていきます。
人間の定年はどんどん引き上げられていますが、腸内細菌たちは現役バリバリの働き盛りでも、お役御免になってしまうんです。
(参考:うんち(便)には、現役バリバリの腸内細菌がどっさりいた)
これを利用させていただいているのが「腸内フローラ移植」というわけです。
まだまだ働ける方たちに、もう一度活躍の場を。
腸内フローラ移植ってもしかしたら、「シニアの活躍」の最先端を行っているのかもしれへんな。
そういうわけで、うんちはわたしたちの腸内フローラの「卒業者年鑑」みたいなもので、うんちを調べるとわたしたちの腸内フローラがわかるというのは、ある意味正しいのです。
そして、腸内フローラは基本的に日々大きく変わることはないはずです。
よっぽど大きな予期せぬストレスを受けたり、よっぽど最低な生活習慣を送らない限り、お母さんから受け継いだ菌種・バランスを保つことができるはずなのです。
これは、移植を受けていただいた方にも同じように説明しています。
けれど、腸内フローラの検査を定期的に受けていると、普段の生活で案外自分の腸内フローラ検査結果が変わっていることに気がつくでしょう。
その理由は、腸内細菌にも「正社員」と「アルバイト」があるからなのです。
「正社員」腸内細菌と「アルバイト」腸内細菌
この図を見てください。

この色とりどりの丸が、腸内細菌な。
で、粘液層の中にいる、または腸壁付近に住み着いているのが、正社員フローラたちです。
この状態をわたしたちは、「生着している」と呼んでいます。
そして、腸管の中にいて、粘液層の中に入り込んでいかない(≒入り込んでいけない)のが、アルバイトフローラたちです。
前に、身体に腸内細菌が住み着けるかどうかは、人間の免疫力が選んでいる、という話をしました。
(参考:【免疫による選抜】定員は100兆、腸内細菌入学試験の実況中継です。)
めでたく人間の免疫力によって選ばれた腸内細菌たちは、粘液層の中に入り込んで正社員フローラになります。
腸内フローラが基本的に変わらない、と言っているのは、この正社員フローラたちのことです。
うんちには、生着できずに腸管を通り過ぎていくアルバイトフローラたちも含まれるので、腸内フローラが変わったように思えるのです。
食生活などの生活習慣が変わったり、サプリを飲んだりすると、比較的簡単にアルバイトフローラは変わってしまいます。
じゃあ、本当に正しい「真の腸内フローラ」を測るには、腸粘液を採取して正社員フローラだけを測定するのがいいのではないか? という声も聞こえてきそうです。
でもね、アルバイトも結構いい仕事してるんです。
郵便局の年末年始のアルバイトをしたことがありますが、アルバイトがいなかったら郵便局員さんは過労死しますよ、あれ。
ディズニーランドだって、アルバイトがいなくなったら、夢の国どころか廃墟になりますよ。

同じように、腸内のアルバイトフローラたちも、滞在時間は短くてもしっかり有機酸などの良い物質を出してくれているんです。
彼らを無視して、「真の腸内フローラ」なんて言えないと思います。
うんちに出てくる菌たち、みんなが「うちのスタッフ」として働いてくれていたんですから。
思うんですが、人間って何でもかんでも客観的に定量的に測りたがりすぎている気がします。
それよりも、「ここには正社員もアルバイトも含めて、スタッフみんながいる。この子たちみんなに働きやすい環境を作ってやりたい」というほうが、経営者のカガミやと思いませんか?
わたしはそう思う。(お菓子むしゃむしゃ。お酒ごくごく。デスクワーク。)
言うは易し、行うは難し。
菌活をすると腸内フローラが整う、の本当の意味

腸内フローラを整えるために、「菌活」なるものが静かなブームになっています。
菌のエサになる「プレバイオティクス」を摂ること。
身体で働いてくれる菌そのものである「プロバイオティクス」を摂ること。
その両方を摂れる「シンバイオティクス」なんてものまであります。
生きた菌を摂取しても、ほとんどは胃酸で死んでしまい、肝臓での解毒の洗礼も受けます。
それでも生き残って腸管まで届く菌もわずかながらいます。
よく耳にする「生きて腸まで届く」というやつです。
そしてめでたく腸に到達した菌たちは、アルバイトフローラとしてちょこっと活躍してくれて、そのままうんちとして出ていきます。
そう、決して意味がまったくないことはないのです。
場合によっては、そういう「腸にいい生活」を続けることで、摂取した菌が正社員採用される場合もあるんです。
一気に正社員を大量採用して、マンネリ化した社風をガラッと変えたい場合は、腸内フローラ移植ですね。(ひとことくらい、言っておかねば。)
腸内細菌、知れば知るほどおもしろいです。
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)