放射線治療の副作用で腸疾患になるか否かは腸内細菌にかかっているかもしれません

もし不運にもがんになってしまったら。

その進行度合いによって、我々には保険の適用される標準療法として、3つの選択肢が与えられています。

外科手術。
放射線治療。
化学療法。

ノーベル賞によって一躍有名になった免疫療法は、まだ保険診療ではないですが、第4の選択肢と言えるでしょう。

上述の治療法を一切しない、という第5の選択肢を取られる方もいます。

なぜ治療を拒絶する患者さんが現れるのかと言うと、3つの標準療法がとてもとてもつらいからです。
吐き気や脱毛、頭痛や腹部症状など、その副作用は計り知れません。

「がん細胞の縮小」というものさしで効果が認められているものなので、患者さんの肉体的負担は残念ながら二の次になっています。

さらに、すでにステージが進んでしまっている場合の5年生存率に差がないだとか、医師は自分や自分の家族には標準療法を受けさせないといった噂も、その傾向に拍車をかけているように思います。

わたしはありがたいことに、まだがん治療を受けたことがありません。

今日は、がん標準療法のひとつである放射線治療によって、副作用としての腸疾患になるか否かの分かれ道が、腸内細菌にあるかもしれないという研究を紹介します。

腸内細菌と、放射線治療による下部消化管への副作用に関する研究

Microbiota- and Radiotherapy-Induced Gastrointestinal Side-Effects (MARS) Study: A Large Pilot Study of the Microbiome in Acute and Late-Radiation Enteropathy | Clinical Cancer Research

英国がん研究機構のDavid P. Dearnaleyらによる論文です。

概要

  • 放射線性腸疾患と腸内細菌は何らかの関係があるのではないかと仮説を立てた。
  • 134名の放射線治療を受けた患者を3つのグループ(前期集団、後期集団、内視鏡集団)に分けた。
  • 全員から便の採取と、内視鏡集団から腸粘膜の採取を行った。
  • 治療後に消化器症状を訴えなかった患者のほうが、腸内細菌の多様性が高かった。
  • 放射線性腸疾患を発症した患者の腸内には、Clostridium ⅣやRoseburiaのグループが多かった。
  • 腸内細菌を見ることで、放射線療法における副作用を予期、予防、治療できる可能性が見えた。

内容としてはものすごい難しかったです。
ここで終わりたい。
あったかいお風呂に入って、ご飯食べたい。

でももう少し詳しく書きます。
いまのがん治療は、もっと変わらなあかんと思うから。

この論文書いた人らだって、放射線治療ってのはがん治療において大事やとは思うけども、その後の腸疾患発症なんかの副作用があることを悲しんでいて(たぶん悲しんでいる。論文ではそんな悲しい気持ちを押し殺してはる)、
だからこそ、放射線治療のあとに腸疾患を発症した人としてない人の間で腸内細菌になんらかの変化があったんじゃないかって思って、研究しはったわけやし。

英国がん研究機構の人たち、日本での報告はわたしに任せて。(むちゃくちゃハードル上げるやん)

今回の検証内容と方法

今回、放射線治療を受けた134名の方がこの研究に参加されました。
個人的なことやけど、患者さんを(n=)って数え方するのきらいやわぁ。

使用された検証方法は、MARSと呼ばれる観察型の非介入研究です。
なんやら難しい感じですが、要するに「研究のために患者さんに放射線治療受けてもらうなんてありえへんから、どのみち放射線治療を受けるor受けた患者さんに関してついでに便のサンプルを集めるという方法で検証を進めました」ってことだと思われます。

134名の方の内訳はこんな感じ。

グループ1:前期集団(32人)

患者さんは前立腺がんを患っておられる方々で、中でも前立腺と骨盤ノード (PLN-IMRT)への放射線治療を控えている方たちです。

前立腺だけに放射線治療をする場合よりも、骨盤ノードとセットで放射線を当てるほうが、放射線性腸疾患のリスクが高まるんですって。

便のサンプリングは、治療直前、2/3週間後、4/5週間後、12週間後、6ヶ月後、12ヶ月後に採取されました。

グループ2:後期集団(87人)

このグループに属する方たちは、前立腺と骨盤ノード (PLN-IMRT)への放射線治療を2年前以上に経験されている方たちです。

グループ3:内視鏡集団(患者さん9人、コントロール群として6人)

このグループに属する9人の方たちは、1年以上前に前立腺がん治療のための放射線治療を受けていて、近々内視鏡検査を受けるはずの人たち。

コントロール群として、放射線治療を受けていない人たちが6人参加しています。

評価方法

評価方法として、Clinician-reported outcomes (CRO) とPatient-reported outcomes (PRO)の2種類が採用されています。

CROは主に医療提供側が評価したもので、PROは患者さんの体感を重視して評価したものと考えてよさそう。

結果

ちょっと小ネタですけどね、英語の論文読むときに「で結局なんなん」ってのを近道で知りたかったら、わたしはまずここ読みます。
でもこの論文に関しては、そのずるい戦法が通用せんかった。
出てくる用語の定義をしっかり確認しておかんと、意味不明でした。

がっつり結果報告の前に、
前期集団の人は4/5週間の時点で一時的な消化器症状に見舞われた人がほとんどでした(84%/PRO, 92%/CRO)ってことと、
内視鏡集団の人に関して、便と粘膜上の腸内細菌の多様性にさほど差異がなかったことが添えられています。

放射線性腸疾患を発症した人は、腸内細菌の多様性が低下していた

前期集団に関しては、放射線治療のあとに消化器症状が出た人のほうが、腸内細菌の多様性が低かったことがわかりました。

意外なことに、一時的な消化器症状のあった人のほうが、継続的な消化器症状に見舞われた人よりもさらに多様性が低下していたという結果に。

そしてさらに意外なことに、後期集団においては、大した差が認められませんでした。ウソーン。

特定の腸内細菌が増加していた

放射線性腸疾患を発症した人は、Clostridium Ⅳ、Roseburia、Phascolarctobacteriumといった短鎖脂肪酸関連菌たちが増えていました。

このことから、研究者たちは患者腸内の短鎖脂肪酸産生量についても言及しています。

さらに、インターロイキンと呼ばれるサイトカイン(免疫細胞を起こす信号みたいなやつ)についても測定結果が示されていました。
この研究ではなんと29種類ものサイトカインを測定しています。

特に、インターロイキン15(IL15)という、ガンのときに活躍してほしいNK細胞やCD8+T細胞を活性化するサイトカインに差が見られ、その量がRoseburiaの増加具合とリンクしていたそうです。

腸内細菌が、がん治療に役立つ可能性

なんか今日は真面目すぎてつまんない記事になってしまったかもしれません。
すいません。

本気モードにならないと読み解けないほど、難しい論文でした。(まるで本気で取り組んだおかげで隅々まで理解できたような言いっぷり)

表のところどころに出てくる「焼き鳥に串を刺した」みたいな図は、具の部分が測定の数値で、串の部分が振れ幅だそうです。
それを最近知って、医療論文読むときに役に立つようになってきたんで誰か褒めてほしいです。

この研究チームは、腸内細菌を調べることで、がんにおける放射線治療の予後を予測し、腸内細菌の力を借りてその副作用を軽くすることができるのではないかと考えているようです。
お決まりのようですが、本研究では十分ではないことについても、最後のDiscussionで長々と書いてあります。

この人らの前の研究も引用されています。有料記事やけど
Microbiota and radiation-induced bowel toxicity: lessons from inflammatory bowel disease for the radiation oncologist – PubMed

シンバイオシスが考えるがんと腸内細菌

わたしたちシンバイオシスは腸内細菌の声を聞き、その力を借りる身として、腸内フローラ移植でがんを軽症化させたいと思っています。

ただ、今のところは腸内細菌の傾向によって、免疫療法の効果が左右されるとか、この研究のように「放射線治療後に腸疾患になってしまうかどうかを判断できるかも」、というところまでしか研究は進んでいません。

だからわたしたちはまず、いきなり腸内フローラ移植でがんを治すことを目指すのではなく、
例えば免疫療法向きの腸内環境にするとか、
放射線治療をしても腸疾患にはなりにくい腸内細菌の顔ぶれにするとか、
がんの痛みを軽減するとか、
そういうことをまずは目指していきたいなと思っています。

時間かかると思うんで、みなさんできるだけ、がんにならないようにしてください。ほんと。
自分に優しく。
自分に甘く。
自分を褒める。

それって、しんどい仕事頑張ったから、今日は暴飲暴食しちゃお☆ってのとはちょっと違って、というか正反対なんですけど、
今日だけは許します。

長い目で見て自分にプラスになることを、スマホ触りながらではなく、空でも見上げてゆっくり考えたいところです。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
個人ブログ→千のえんぴつ
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《特許出願中》
腸内フローラ移植

腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)