糖は太るの本当の意味と、腸内細菌のB/F比だけで肥満が測れないワケ

皆さん、食事制限ってしていますか?
間食をやめてみたり、
カロリーを減らしてみたり、
サラダだけ食べてみたり、
糖と名のつくものを避けてプロテイン飲んでみたり。
いろいろ努力なさっていることと思います。
健康に詳しい人界隈では糖質制限はそろそろブーム終わりそうですが、
まだまだ一般向けには低糖質食品が人気ですね。
そんな中、名古屋大学が面白い発表をされました。
High sucrose diet-induced dysbiosis of gut microbiota promotes fatty liver and hyperlipidemia in rats – ScienceDirect
The Journal of Nutritional Biochemistry Volume 93, July 2021, 108621
(名古屋大学プレスリリースはこちら)
(日本語解説:メタボにつながる脂質代謝の異常は腸内環境の変化が原因、名大が解明 | TECH+)
残念ながら無料で見れるのは要約だけですが、この要約だけでめちゃくちゃ興味深い点がいくつもあったので紹介します。
この論文の成果とポイント
- 糖の摂りすぎが腸内細菌の構成を変化させる
- 腸内フローラがつくる短鎖脂肪酸が、脂質代謝異常に関わっている
- 腸内細菌たちが、糖の摂りすぎによる脂質代謝異常などを防いでくれる
目次
糖の摂りすぎが腸内環境を変化させメタボを引き起こす

実は、脂肪肝や脂質異常症は長いあいだ脂肪(アブラ)の摂りすぎが原因と考えられてきました。
名前からしてそんな感じですもんね。
脂肪の摂りすぎで、汗とか体臭もアブラっぽくなるイメージ。
原始人の食べてたような骨付き肉とか食べてそうな。(失礼やんな、ごめん)
でも実はそうではなく、糖の摂りすぎが原因であることがわかってきたそうです。
ここで言う糖っていうのは、いわゆる人工的に精製された砂糖(ショ糖、ブドウ糖、果糖)のことです。
我々が糖を摂取すると、血の中の糖分(血糖値)が上がります。
それをインスリンが取り込んで、中性脂肪として蓄えてくれることで、上がった血糖値がちゃんと下がってくれるんですね。
実は脂肪肝や脂質代謝異常がもとになって引き起こされるメタボリックシンドロームっていうのは、おデブの病気じゃないんです。
2型糖尿病と同じ「インスリン抵抗性」を基盤としていて、つまりインスリンがちゃんと働いてくれない状態なんです。
糖尿病の方は脂肪を蓄えられずにどんどん痩せていくことを考えると納得できますね。
メタボは、痩せている人でも診断がつくんです。
そしてその原因は、人工的につくられた糖。
糖を摂るとなんでメタボになるのか、今まではよく知られていませんでした。(少なくとも論文という形では)
今回、そういった糖が腸内環境に影響を与えて、その結果としてメタボリックシンドロームが引き起こされるということが、ラット実験によって示されました。
糖を摂ることで腸内環境がどう変化したか

さあ、肝心な変化のところです。
腸内環境が変わったといっても、何がどう変わったのか?
いわゆるデブ菌(Bacteroides門)やヤセ菌(Firmicutes門)と呼ばれる菌たちは?
残念ながら名古屋大学のプレスリリースや、日本語のニュースには詳細は載っていなかったんですが、英語論文の要約にはありがたいことに載っていました。
最初からネタバレせなあかん、っていうのは論文界の常識なんですかね。
小説家が論文書いたら、すぐに干されそう。
結果、高糖分食を摂っていたラットたちは4週間で脂肪肝と脂質代謝異常の兆候を示したそうです。(あとでちゃんとダイエットさせてあげたんかな)
B/F比の変化
コントロール群と比較すると、高糖分食のラットの盲腸での腸内細菌叢におけるBacteroides門/Firmicutes門の比率が高くなっていたとのこと。
Bacteroides門の中には、Bacteroides属、Prevotella属などが含まれ、いわゆる日和見菌と呼ばれています。
Firmicutes門の中には、Lactobacillus目、Lachnospira科、Ruminococcus科、Clostridium属などが含まれます。
ちょっとイキって言ってみたけど、要はいわゆる乳酸菌、酪酸菌、Treg産生菌、クロストリジウム(アトピーに効くとか、自閉症で増えるとかいろいろ言われるやつ)が含まれています。
Firmicutes門の中にはいろいろ含まれすぎて、これをひとくくりにすることにいったいどれほどの意味が? と思ったりもしますが、ちょっと本題から外れるのでこの記事の最後におまけで詳しく書きますね。
α多様性の低下
わたしは「多様性」という言葉が嫌いです。
いや、多様性という概念はめっちゃ好きやねんで?
わたしなんて、多様性が排除される社会においては即刻投獄レベルやと思うし。
わたしが多様性が嫌いな点は、それを統計学的に示そうと思うと、めちゃめちゃ計算式が難しいからです。
で、α多様性とか言われてもわからんかったのでググったら、なんてことなはない簡単なことでした。
「ラットの個人的に持っている腸内フローラの多様性が低くなってた」って話です。
diurnal oscillationsの変化
diurnal oscillationsって何なん?
腸内フローラの「日周振動」ってなに?
軸がしっかりしてなくて、毎日のようにブレやすい腸内フローラになっちゃいました、って感じ?
毎朝、朝礼で「本日の企業理念」が発表される会社みたいな?
たしかにそれは嫌やな…(英語がわからんからって勝手に納得すな)
腸内細菌の代謝産物の変化
遺伝子解析がまだ今ほど発達していなかった頃、腸内環境は代謝産物を測定することで大まかな傾向を掴んでいました。
工場で誰が働いているかもわからんし、何人おるかもわからんけど、日々工場から納品される商品を見て社員の出勤状況把握するみたいなイメージやな。
真面目な人が損する仕組みや。(何の話や)
今回、その代謝産物もコントロール群と高糖分食群で変わっていました。
具体的には、高糖分食のラットたちはギ酸と酪酸(どちらも短鎖脂肪酸の一種)の産生が少なかったとのこと。
この短鎖脂肪酸が、糖の摂りすぎによる脂肪肝と脂質代謝異常に関わっているとの見方が優勢です。(突然のニュース口調)
抗生物質投与群
ちなみに、それぞれのグループの半数のラットには、4週間のあいだずっとお水で抗生物質治療が施されていたそうです。
高糖分食のラットたちのうち、抗生物質を飲んでいた方たちは血液・肝臓ともに脂肪の蓄積が抑えられたとのこと。
え?
脂質代謝異常に抗生物質?
って思いませんでした?
わたしも思いました。
でも調べてみると、抗生物質でメタボ増加が抑えられることがあるそうです。[1]Intestinal epithelial Toll-like receptor 4 prevents metabolic syndrome by regulating interactions between microbes and intestinal epithelial cells in mice | Mucosal Immunology
TRL4とかが関わっていて、調べだすとまた話が長くなりそうなんで割愛。
コントロールがでん粉(炭水化物)であることに注目

この論文自体は、「我々の研究によって、糖の摂りすぎによる腸内細菌叢の変化が、短鎖脂肪酸などの代謝産物の変化を通して、非アルコール性脂肪性肝疾患を引き起こすことが示された」で締めくくられているんですが、
ここで強調しておきたいことがあります。
それは、高糖分食のラットと比較するためのコントロール群が、でん粉を与えられていたということ。
これが何を意味するかわかるでしょうか?
「糖質はやっぱり何につけてもあかんねんな。糖質制限バンザイ」ってなったあなた。
あなたに向けて書いているんですよ。
つまり、この研究で示されたのは「食材にはもともと含まれない人工的につくられた単糖類、二糖類 VS 多糖類」での比較なんです。
多糖類といえば、お米やお芋、パンや麺類などいわゆる「主食」と呼ばれるものに多く含まれます。
糖質制限は食物繊維不足を招くのでほどほどに、という話はよく聞きますが、
そもそも糖質の全体摂取量が少なくても、穀物ではなく人工的につくられた糖を摂っていると、メタボになるリスクが高まるという見方もできるんじゃないでしょうか。
なんかそんな話してたら、めっちゃ焼き芋食べたくなってきましたね!
春やけども!
(おまけ)B/F比が一般的な肥満の指数と逆?

記事の途中で少し書きかけたんですが、今回わたしがこの論文をわざわざ独立した記事にしようと思った理由があります。
それは、一般的に太りやすさ・肥満の指標として使われるB/F比の比率が、逆になっているのではと思ったから。
つまり、一般的な腸内フローラ検査などで出されるB/F比(F/B比とも書かれる)では、こういう解釈になっています。
- B/F比が低い(F/B比が高い)と太りやすい
- B/F比が高い(F/B比が低い)と太りにくい
BというのはBacteroides門に属する菌たちのことで、ヤセ菌と言われてもてはやされたりすることもあります。
短鎖脂肪酸をたくさん出してくれるから、というのがその理由のよう。
FというのはFirmicutes門に属する菌たちのことで、デブ菌と言われて嫌われがちな気の毒な菌たちです。
でも前述したように、アトピーに効くと言われたり、長寿菌と言われたり、皆さん大好き乳酸菌の仲間たちも含まれているんですよ。
まあそれは置いておいて、この論文ではこう書かれています。(たぶん。わたしの英語力を信じるならば)
「高糖分食のラットの盲腸での腸内細菌叢におけるBacteroides門/Firmicutes門の比率が高くなっていた」
これ、なんか普通と逆な感じがしません?
メタボ予備軍で、一般的に「太りにくい」と言われるB/F比になっているんです。
このB/F比、再現性が取れないなどの問題も抱えているようですし、もしかしてもしかしたら論文の要旨が書き間違えてるんかもしれん。(自分の英語力も疑おうな)
でもね、わたしはこれ正しいんじゃないかと思うんです。
理由1:短鎖脂肪酸に貢献するのってBacteroides門の中のさらに枝分かれしまくったBacteroides属がメインなんです。
理由2:Bacteroidesの菌たちって、日和見菌と呼ばれるだけあって、いろんな条件が重ならないと良い働きしないんです。Bacteroides門が頑張ると増えるはずの短鎖脂肪酸も、高糖分食のラットでは減ってるし。
理由3:Bacteroides門の中のPrevotella属たちは、実は2型糖尿病患者さんにわりと高確率で見られる菌たちなんです。
理由4:脂肪肝や脂質代謝異常から起こるメタボがおデブ病ではなく糖尿病と同じメカニズムなら、B/F比の上昇は近い将来痩せていく(病的に)ということを示している可能性があるのでは。
なんかまとまってなくて伝わりにくいかな…
今回はあんまり一般向けの書き方をできへんかったかもしれん。ごめん。(大丈夫、あんたは誰よりも一般人や。よっ、一般人!)
このような理由からも、今までお伝えしているように「腸内細菌は備わる」「腸内細菌たちは、まず宿主のダメージを最小限に留めるためにバランスを歪める」という考え方は間違っていなかったように思います。
健康なバランスがあり、
未病など、健康が脅かされそうになると菌たちの努力によりそれが歪められ、
最後に菌たちが諦めると、また一見して健康そうなバランスに戻る。
そんな推測、科学の世界には妄想だと笑われてしまうかもしれないですが、わたしはけっこうあるんじゃないかなと思っています。
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)