アレルギーの発症リスクは、胎便を見ればわかるかもしれない

ちひろです。

赤ちゃんが生後1〜2日のうちに出すうんちである「胎便」に含まれる代謝産物(有機酸とかビタミンとかそういうやつ)を調べると、赤ちゃんが1歳になるまでにアレルギーを発症するリスクがある程度予測できるかもしれないという研究報告が、カナダのブリティッシュ大学のCharisse Petersen氏を筆頭にした研究チームから出されました。

(原文)
A rich meconium metabolome in human infants is associated with early-life gut microbiota composition and reduced allergic sensitization: Cell Reports Medicine

ちなみに、この論文では「アレルギー」と「アトピー」をほぼ同義として扱っています。
日本語とはちょっとニュアンスが違うのかもしれませんが、いずれにせよIgE抗体を主軸に語られる、Ⅰ型アレルギーを指しているようです。

※Ⅰ型アレルギーというのは、卵を食べて発疹が出るとか、花粉症とか、そういういわゆる私たちが「アレルギー」と聞いて思い浮かべるやつです。
遅延型アレルギー、その他の型のアレルギーは含まれません。

結果要約

  • 1歳までにアレルギーが出た赤ちゃんは、腸内細菌叢の形成が未熟だった
  • アレルギーが出た赤ちゃんの胎便は、代謝産物の多様性が乏しかった
  • 特定の代謝産物が、アレルギーが出た赤ちゃんでは少なかった
  • 胎便の代謝産物が、腸内細菌叢の形成に影響している

(英語解説記事)
First Poop Study: What Does It Mean for Allergy Prevention?

(日本語解説記事)
生後最初の便で乳児のアレルギーリスクを予想できる? – Consumer Health News | HealthDay
乳児のアレルギーリスクに出生時の胎便中に含まれる代謝産物の多様性が関連? – QLifePro 医療ニュース

背景ー 増えるアレルギー人口と腸内フローラの関連

この半世紀ほどで、食物アレルギー、喘息、鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を持つ人は激増し、子どもたちの30%はアレルギーを持っているような状況になってしまっています。

一方で、胎便という生後1〜2日で赤ちゃんが排出する便があります。
胎児は妊娠16週くらいから胎便を溜めはじめ、産まれるまで排便しません。
そこで研究チームは、胎便に含まれる代謝産物を調べることで、その後の腸内細菌叢の形成をある程度予測したり、免疫発達を予測できるのではないかと考えたわけです。

ちなみに、赤ちゃんがどの時点で細菌と出会うのかについては諸説あります。
現時点では、子宮内では無菌状態で、産まれる時に産道を通り、膣や母親の便の細菌と出会うのが最初だという説が有力です。

加えて、胎便からはほとんど細菌が検出されないことからも、この説が支持されているようです。[1]新生児・乳児期の腸内細菌叢とその形成因子

それでも、もし胎便の代謝産物が将来の腸内フローラの形成に影響を与えているとしたら、赤ちゃんは子宮にいるときから何らかの「菌のメッセージ」みたいなのを受け取っている可能性もありますよね。

結果1:1歳までにアレルギーが出た赤ちゃんは、腸内細菌叢の形成が未熟だった

研究チームはまず、950人の健康な赤ちゃんが2歳になるまで便を集め続けました。
検査して余った便、ドナーバンクに溜めといてほしい。まじで。

そして研究チームは、腸内フローラの形成を予測するのに重要な15種類の菌たちカテゴリを見つけ出し、それらが生後3ヶ月、1年といったスパンでどう変化していくのかを観察しました。

生まれた時に健康だった赤ちゃん950人のうち、生後1年以内にアレルギーを発症した赤ちゃんは212人でした。
この「発症」というのは、SPT検査という特異的IgE検査と同感度の検査で陽性が出たかどうかで判断されています。多すぎ。由々しき事態。

そしてこの212人の赤子たち、前述した15種類の菌たちのうち、なんと13種類が少なかったということです。
アレルギー持ちの赤ちゃんは、正常な腸内フローラの形成が妨げられていることがうかがえます。

結果2:アレルギーが出た赤ちゃんの胎便は、代謝産物の多様性が乏しかった

950人の赤ちゃんの便からばらつきが出ないように100人分を選んで代謝産物を測ったところ、714種類もの代謝産物が検出されました。

そして驚くべきことに、
アレルギーを発症した赤ちゃんは代謝産物の多様性が乏しかったことがわかりました。

さらに、代謝産物たちは一様に乏しかったというわけではなくて、主に副腎皮質(ステロイド)、ビタミンとその補因子、アミノ酸、ヌクレオチドなど特定のものが減っていることもわかりました。

結果3:胎便の代謝産物が、腸内細菌叢の形成に影響している

さて、ここまでの結果だけでは、代謝産物の多様性が乏しいことと、その後の腸内フローラの形成に影響があることに直接の因果関係があるとは言えません。相関関係と因果関係は別物であるというのは、研究者がよく覚えておかないといけないことです。

しかし、胎児の便を1ヶ月にわたりプロクラステス解析というなんやら難しい解析をした結果、胎便の代謝産物がPeptostreptococcaceaeの菌たちやEnterobacteriaceaeの菌たちの形成に、特に相互関係しているということがわかりました。

この結果は、「経膣分娩をすれば母親の細菌叢がちゃんと赤ちゃんに受け継がれて、腸内フローラの形成は問題なし」という考え方に一石を投じるものになりそうです。

胎便が将来の腸内フローラの形成に関係しているならば、その胎便が作られる妊娠16週目からの過ごし方も重要になります。
胎盤とへその緒を通して受け渡す栄養の質を、ますます大切にしたくなりますね。

精度向上と活用に期待

この方法による予測精度は現時点で76%で、その数字は今後上がっていくでしょう。

IgE抗体に関連したアレルギーだけではなく、おそらくはその他の型のアレルギーや、自己免疫疾患などの免疫系の病気、さらには炎症性の病気にも関連性は見いだされていくでしょう。

そうなれば、生後すぐに便のメタボローム解析(代謝産物測るやつ)と腸内フローラの遺伝子検査をすることにして、
アレルギー・アトピーの発症リスクや腸内フローラの形成に問題が出てきそうだと判断された赤ちゃんには、腸内フローラ移植とかその他、腸内細菌叢の形成を促すなんらかの処置が施されるようになってほしい。

ほんま、赤ちゃんのうちに何とかすることが腸内細菌にとっては一番コスパ良いっていう事実をもっと知ってほしいし、
腸内細菌をボディガードに育てておかないと、この社会の荒波ではやっていけませんぜって話。

可愛い子には旅をさせよっていうけど、可愛い子にはじゃんじゃん細菌の波をかいくぐらせてほしいです。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
個人ブログ→千のえんぴつ
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