脂質異常・高血圧に対する腸内細菌のアプローチ3つ

高血圧とひとくちに言ってもいろいろありまして、原因もいろいろあります。
太っている人や、塩分大好きな人だけがなるものではありません。
わたしのおじいちゃんなんて、がりがりで甘いもの大好き人間やのに、高血圧やもんな。上180とか。
ほんで病院で、「もう歳ですもんね〜」の定番のマジックワードをいただいてくる。
糖尿病性腎症でうまく腎臓が機能していないとか、心臓のポンプ機能に異常があるとか、もう原因はほんとさまざま。
スタバのカスタマイズぐらい、さまざまやと思う。
そんな高血圧ですが、最近わたしたち日本人に増えてきているのが、脂質異常による高血圧。
血管に脂肪が蓄積して、血管を圧迫してしまうことで起こる症状です。
欧米型の食事や睡眠不足、運動不足などの環境変化が原因だと考えられます。
わたしたちの身体は、年齢とともに代謝が下がってきます。
同時に、血管の壁に脂が蓄積し、固くなっていきます。これが代表的な動脈硬化です。
動脈硬化は自覚症状があまりないものの、高血圧を引き起こしたり、ある日突然心筋梗塞や脳卒中を引き起こしてしまう可能性があり、放置すると大変危険です。
とはいえ、脂質異常や動脈硬化、高血圧などは要因が複雑に絡み合っていてなかなかスッキリとは説明しづらいものがあります。
今日は、そんな脂質の代謝異常が原因の動脈硬化に対して腸内細菌たちがどのように作用し、結果としてどのように高血圧・突然死のリスクからわたしたちを守ってくれているのかというお話をします。
目次
アプローチ1 短鎖脂肪酸を出す腸内細菌

短鎖脂肪酸というのは、主に「バクテロイデス」というグループに属する腸内細菌たちが作ってくれる物質です。
具体的には「酪酸」「酢酸」「乳酸」「プロピオン酸」などのことで、このうち特に「酢酸」が肥満解消にいい働きをしてくれます。
わたしたちが食事をすると、糖や脂が腸から吸収され、エネルギーになってくれます。
その糖や脂が血液を通して全身にいきわたり、わたしたちは生命を維持できているのです。
血中に含まれる糖や脂の量が多すぎると、高血糖や脂質異常症になってしまい、高血圧や動脈硬化につながってしまっています。
ここですこし余談ですが、実は人間の身体の栄養となってくれるのは、たんぱく質と脂と糖だけです。
野菜などに多く含まれる食物繊維は、人間は直接吸収できません。
ではどうして食物繊維を摂るといいのかというと、腸内細菌たちのエサになるからなのです。
流れとしてはこうです。
バクテロイデスなどの腸内細菌が食物繊維を分解し、短鎖脂肪酸を出してくれます。[1]Shaping the Metabolism of Intestinal Bacteroides Population through Diet to Improve Human Health
その短鎖脂肪酸が腸から吸収されて血中を通り、脂肪細胞という細胞にたどり着きます。
脂肪細胞の働きは、万が一のときのために脂肪を身体にためこんでおくことなのですが、現代の日本ではそんな万が一は兆が一ぐらいです。
ほうっておくと、脂肪細胞もそれを持つ人間もぶくぶく肥えていってしまいます。
短鎖脂肪酸は、そんな脂肪細胞の健気な頑張りというか、ありがた迷惑な脂肪の蓄積にブレーキをかけてくれる人なんです。
例文:会うたびにキットカットのパーティーパックをくれる伯母に、兄がやんわり「妹は今ダイエット中なんです」と言ってくれた。
お兄ちゃん(短鎖脂肪酸)優しい。
しかも、短鎖脂肪酸は脂肪が過剰にたまるのを防いでくれるだけではなく、全身の代謝も活性化してくれます。
アプローチ2 エクオールを出す腸内細菌

エクオールって、どこかで聞いたことありませんか?
そうです、前回の記事「スーパーイソフラボン「エクオール」で、お肌ぷりぷりぷりん。」で出てきました。
このエクオール、皮膚の線維芽細胞を活性化し、コラーゲンの生成を促してくれることでお肌をぷりんぷりんにしてくれるんですが、それだけじゃなかったんです。
血管って筋組織じゃないですか。(3日前にはじめて知ったんですけどね)
で、エクオールって血管(筋組織)を狭窄させることなく、柔らかくしなやかにする働きをしてくれるんです。
しなやかな肉体を持った血管にしてあげることで、血管に蓄積した脂も燃えやすくなります。[2]Equol status and blood lipid profile in hyperlipidemia after consumption of diets containing soy foods – PubMed
なんか、人間のダイエットとほぼ一緒ですね。
そういえば、ジムに入会してそろそろ5ヶ月ですが、そろそろ退会しようかと思っています。
もう一週間以上行っていないし、なんか混んでるし、おかげさまで仕事も忙しいし、食欲の秋やし。(運動の秋でもあるけどな)
というわけで、2つめのアプローチは、エクオールを生み出してくれる腸内細菌たちを増やすこと。
もし、エクオール産生株の腸内細菌をたくさん持っているにもかかわらず、肌が荒れているとしたら、産生するエクオールが血管などの組織修復に使われちゃっているのかも。
アプローチ3 LDLコレステロール比率を下げる腸内細菌

LDLコレステロールとHDLコレステロールは、それぞれ悪玉コレステロール、善玉コレステロールとも呼ばれます。
健康診断をわりにまめに受けられている方には耳馴染みのある言葉かもしれません。
LDLコレステロール(悪玉)というのは、血管などの組織に脂を運び込む働きをします。
一方のHDLコレステロール(善玉)は、逆に組織(血管)から肝臓に脂を運び出し、分解するほうへ働きます。
これらの数値はそれぞれ独立して見るのではなく、LDLとHDLの比率として見ます。
HDLの比率が多いと、組織(血管)から脂肪が肝臓へ運ばれる割合のほうが高くなり、動脈硬化が起こりにくくなります。
コレステロールを作っているのは肝臓なので、肝臓がHDLコレステロールのほうをたくさん作ってくれればいいわけです。
そのとき、肝臓に「HDLコレステロール出してね」と指令を送るのも、腸内細菌の働きなのでした!
【2018.8.20追記】
読者の方よりご質問をいただきましたので、補足します。
HDL、LDLなどのコレステロールは、要はアブラです。
血液とは混じり合わないので、血液の中を運ばれるためには、ちょっとした工夫がいります。
そのときに重要な役目を果たしくれるのが、「アポリポタンパク質」という包み紙的な物質。
この子たちがアブラをぐるっと包んでくれて、血液の旅をしやすくしてくれます。
この、「アブラ+包み紙」=リポタンパク質となります。
リポタンパク質には、
カイロミクロン(キロミクロン)、超低密度リポタンパク質(VLDL)、中間密度リポタンパク質(IDL)、低密度リポタンパク質(LDL) 、高密度リポタンパク質(HDL) の各種類があり、比重が大きいほどアポリポタンパク質の割合が高く、逆に脂質の割合が低い。(byウィキペディア)
下記、「アブラ+包み紙」のイメージをしてもらいやすくするため、カイロミクロンの画像を載せておきます。

加えて、アポリポタンパク質には、AとかBとかいくつか種類があります。
つまり、アポリポタンパク質の割合や、その種類によって、LDLとかHDLとかの量が決まってくるわけです。
このあたり、詳しくお知りになりたい方は、「アポリポタンパク質」、「リポタンパク質」、「カイロミクロン」あたりを読んでみてください。
Wikipedia考えた人って、つくづく天才やと思うわ。
そしてそのアポリポタンパク質を作っているのは、肝臓です。
肝臓に「このアポリポタンパク質作りや〜」と指令を出しているのは、脳(脳下垂体)と長年思われていたのですが、
最近になって、「腸内細菌たちが、腸管神経系を通って、脳下垂体に指令を出しているのでは!?」と考えられています。
あくまでも一部の学説の段階なんですが。
そんな指令を出してくれている腸内細菌は、「主にバクテロイデス属と腸内フローラ全体のバランス」と言うに留めさせてください。
バクテロイデス属などの腸内細菌は、上記の短鎖脂肪酸を出してくれます。
そんな指令を出してくれている腸内細菌は、「主にバクテロイデス属と腸内フローラ全体のバランス」と言うに留めさせてください[3]Bacteroides vulgatus and Bacteroides dorei Reduce Gut Microbial Lipopolysaccharide Production and Inhibit Atherosclerosis | Circulation[4]The gut microbiota and its relationship to diet and obesity。
バクテロイデス属などの腸内細菌は、上記の短鎖脂肪酸を出してくれます。
これらの有機酸が、信号の役割を果たしてくれていると思われるのですが、ただバクテロイデスがたくさんいればいいというものでもありません。
乳酸菌やビフィズス菌、クロストリジウム属などのバランスが崩れていると、バクテロイデスは本来の働きができなくなります。
バクテロイデス属の菌が、「日和見菌」と呼ばれたりする所以ですね。
脂質異常症、高血圧を防ぐための腸内細菌的アプローチまとめ
- アプローチ1 短鎖脂肪酸を出す腸内細菌
- アプローチ2 エクオールを出す腸内細菌
- アプローチ3 LDLコレステロール比率を下げる腸内細菌
これら3つをうまく機能させることで、脂質異常症や高血圧を改善し、動脈硬化を防ぐ効果が期待できます。
腸内細菌バランスが崩れていると、この機能もうまく働かなくなってしまいます。
そこで腸内フローラ移植の出番です。
どの菌がどう作用するか、まだまだメカニズムが完全に解明されたわけではありませんが、それでも徐々に明らかになってきています。
ただ、どの患者様にどのような腸内フローラバランスの移植をさせていただくのがいいのかは人それぞれ。
頻度も回数も、ドナー選定も患者様ごとに変わります。
医療というのは、理論だけではなく、ひとりひとりの患者様ありきなのだな、と感じる日々です。
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
-
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
スタッフ紹介はこちら
最新の投稿
腸内フローラ移植2021.11.02FMT(便移植、腸内フローラ移植)の未来を真剣に考える会
腸内フローラ移植2021.10.26FMTのゴールは? 移植回数と事前抗生剤投与が菌の生着に与える影響
腸と健康2021.10.19ちょうどいい炎症状態って? 免疫のエンジンとブレーキ、Th17とTreg
腸と健康2021.10.12腸にいい食生活をお探しの方へ(レシピ付)
References

《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)
“脂質異常・高血圧に対する腸内細菌のアプローチ3つ”へ4件のコメント
この投稿はコメントできません。
とってもわかりやすい記事ありがとうございます。
もし、出来たら肝臓にHDLコレステロール作ってね!という指令の出し方をおしえてください!
そして、その働きをしてくれる優しい腸内細菌の種類も知りたいです。
江口さん
一般向けのブログのため、専門的な説明が不足していてご不便をおかけします。
ご質問の内容につきまして、ブログ内に追記いたしました。
お答えになっているといいのですが……
今後とも、ぜひよろしくお願いいたします。
めちゃめちゃ勉強になりました!
なるほど、善玉・悪玉の違いは油の違いでなく、包み紙の大きさもあるのですね!
しかも、腸内フローラのバランスから、下垂体へと伝達するなんて!!
まさに神秘!!
腸内フローラの大切さがさらに理解できました!
今後とも記事楽しみにしてます。ありがとうございました(^^)
お役に立てたようで、何よりです。
私こそ、いいご質問をいただいたおかげで、所長に質問しまくって自分でも調べまくって、さらに理解が深まりました。
本当にありがとうございます。
至らぬことばかりですが、よかったらまたコメントください。