FMT(便移植)とメラノーマ(皮膚がん)の関連など[2021.2.19]腸内細菌最新トピック

免疫療法が効かないがん患者に他人の便を移植してみると…

がんの治療法として、免疫療法というアホみたいに高いノーベル賞治療法があります。(悪意ある表現やな)

がんというのはもともと自分の細胞で、それが変異して(お前も変わっちまったな)、他の仲間細胞たちを悪の組織に導いてしまおうとします。
自分のことは自分がいちばんよくわかってる! ってなもんで、がん細胞は身体の免疫細胞が自分を攻撃しないようにいろいろ手を変え品を変え身を守ろうとしてきます。

それに一石を投じたのが免疫療法!
免疫チェックポイント阻害薬、といえばお聞きになったことがある方もいらっしゃるのでは。

これについてはわたしの過去記事でわかりやすくまとめておりますので(【後編】自分の細胞と闘う?共存する?(腸内細菌とがん免疫療法))、よかったらご覧ください。(専門家に勝つのではない。専門的な知識であると気づかせないことが肝要なのだ)

以前から、FMTをするとがん患者さんへの免疫療法の効果がアップするぜ! っていう論文はいくつかありました。
今回はがんの中でも皮膚がんの一種である「メラノーマ」に焦点を当てた研究報告です。

え、メラノーマってあれ?
タッキー&翼の、翼くんがなったやつ?(それメニエールや、たしかにややこしいけども)

Fecal microbiota transplant promotes response in immunotherapy-refractory melanoma patients | Science
(日本語版)免疫療法が効かないがん患者に他人の便を移植してみると…|日刊ゲンダイヘルスケア

糞便移植治療によって腸内細菌叢が機能回復するメカニズムを解明

日本人の患者さんは少ないとはいえ、じわじわ増えてきているクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)。

この病気にたいしてFMTがあまりにも効くので、米国では「とりあえず一般的に健康な人」をドナーにして、腸内細菌叢の中身にはあまり注目せずに(いやしてたと思うけどあんまりよくわからんまま)、治療が先行してきました。

「なんで効いてるかわからんけど、効いてるんやからとりあえずやろう!」ってところ、アメリカってすごいなって思う。
100人中100人の現状維持よりも、100人中95人治って5人悪くなる方がいいじゃないみたいな感じなんかな。
そりゃ日本は負けますわという前のめり姿勢。

今回、大阪市立大学大学院医学研究科と東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターのチームが、このブラックボックスに一筋の光を投げかけました。

Functional Restoration of Bacteriomes and Viromes by Fecal Microbiota Transplantation – Gastroenterology
(日本語プレスリリース)糞便移植治療によって腸内細菌叢が機能回復するメカニズムを解明~抗菌薬投与によって起こる再発性C. difficile関連腸炎の治療に光~|東京大学医科学研究所

論文は例によってお金が必要なタイプやねんけど(研究者だってカスミ食って生きてるわけじゃねえ)、重要なことはプレスリリースに書いてくれています。太っ腹!

糞便移植治療前のサンプルでは抗菌薬の使用に伴った腸内細菌叢の乱れが起こり、ガンマプロテオバクテリア綱の細菌が増加すると共に、カウドウイルス目のウイルスが増加していました。一方、治療後のサンプルでは、バクテロイデス綱・クロストリジウム綱の細菌とミクロウイルス科のウイルスの増加していました(図1)。また、治療後の腸内細菌叢およびウイルス叢はドナーの腸内細菌叢およびウイルス叢に近づいていることもわかりました。

糞便移植治療によって腸内細菌叢が機能回復するメカニズムを解明~抗菌薬投与によって起こる再発性C. difficile関連腸炎の治療に光~|東京大学医科学研究所

ガンマプロテオバクテリア綱って、えらいデカイ範囲なんやなと思いましたが、人によって多彩な腸内細菌叢は、そんなに細かく見ても統計的にはあんまり有用なデータは得られないという考えならagreeやわ。(恐ろしく上から目線)

その内訳を見てみると、エンテロバクター科(いわゆる大腸菌群)などが鎮座なさっていて、納得しました。
この子たち、培養が容易なことから馴染みの深い菌たちなんですが、裏を返せば過酷な環境でも生きられる菌たちということで、腸炎や下痢の患者さんには確かに有意に多く見られることを、当研究所でも確認しています。

逆に、治療後に増えたバクテロイデス綱・クロストリジウム綱の菌たちは、健康な人たちの腸内に一般的に多く生息している菌たちです。彼らがメインを張ることは別に不思議でもなんでもないのですが、C. difficileの患者さんたちの腸では、当たり前が当たり前じゃなくなってたんですね…

不妊治療の現場で注目されているのは子宮内フローラの改善

不妊。あまり外で気軽に発言できない言葉のひとつ。

厚生労働省の報告によると[1]不妊治療と仕事の 両立サポートハンドブック – 厚生労働省、日本で「不妊の検査・治療を受けたことがある」と答えたのは、なんと18.2%。

望んでも赤ちゃんが授からず、高い治療費を覚悟で不妊治療に望むカップルの割合が5.5組に1組!
これは衝撃的というか、ショッキングな数字です。

一方で、経済的理由やキャリアを優先したいなどの本人の気持ち、「こんなクソったれな世の中に赤ちゃん産んでいいことなんかない」と思っているタイプなど、子どもを望まないカップルも増えています。

たしかに人口は増えすぎた。多少減ったほうがいいかもしれん。
でも、不妊とか、赤ちゃん産みたくないとか、そういうネガティブなやつは悲しい。なんとかしたい。

周りでもちらほら聞きます。不妊。
ほんまにどうお声がけしたらいいかわからんくて、泣きたくなる。

さて、そんな中で不妊治療の保険適用が拡大されるとか、不妊治療用の保険商品が解禁になるとか、子どもを授かりたいご夫婦にとっては嬉しいニュースが出てきていますね。
個人的には日本で代理母出産できるようになってほしい。わたし立候補する。

一方、子宮内フローラを改善することで授かりやすくなるという研究も、徐々に進んできています。

不妊治療の現場で注目されているのは子宮内フローラの改善

子宮フローラの移植とかも、将来的に行われるようになるんかもしれませんね。

我々としてはその前に、すでに実用化されている腸内フローラの移植によって不妊を改善したいと目論んでおります。
妊婦ウンコが手に入る目処が立ったので、何年かのうちに小規模でも臨床研究したいなあと思っています。

新生児に抗生物質を使用すると男児のみ発育が遅れる

生まれたての子どもに抗生物質をホイホイ与えていたのは過去の話。
最近は新生児、幼児への抗生物質投与は、その後の健康に影響を及ぼすことがわかってきていて、投与には慎重になっています。

北欧のとある国では、帝王切開で生まれた赤ちゃんの口にお母さんの菌をガーゼで塗りつける試みもされているほど。
北欧最高。

さてこの度、フィンランドの研究チームが新生児12,422人を対象に「新生児時期の抗生物質投与と6歳までの発育」の関連性を調べました。これ、6年以上かかったってことですよね。すごい根気。

Neonatal antibiotic exposure impairs child growth during the first six years of life by perturbing intestinal microbial colonization | Nature Communications
(日本語記事:微生物学:新生児に抗生物質を使用すると男児のみ発育が遅れる | Nature Communications | Nature Research

結果はなんと、男児のみ発育が遅れたという衝撃的結果。
なんでや。なんでや。女はやっぱり強いのだろうか。
研究チームはマウス実験もしていますが、今回の報告だけでは断言できないと言っています。

ちなみに、新生児の時期を過ぎて6歳までに抗生物質投与があった場合は、男女ともにBMIが高いという一見矛盾した結果も。

抗生物質は、緊急時に命を救ってくれる神様やけど、使ったあとはFMTでフローラ回復するとか、そういう流れになってくれますように。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
個人ブログ→千のえんぴつ
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《特許出願中》
腸内フローラ移植

腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)