うつの治療法として薬以外でよく知られている方法は、「生活習慣を改善すること」です。
正しい食生活、正しい睡眠、適度な運動でうつを克服した人もたくさんおられます。
反対に、食生活や睡眠、運動不足が原因でうつを引き起こすこともあります。
両者の関係には、「腸」が大きく関わっています。
今日は、「うつと腸内フローラの関係」についての最新学説を、かなり詳しく見ていきましょう。
▼前回の記事をまだ読んでいない方は、こちらからどうぞ。▼
うんちの重要性を真剣に語ります【腸内フローラ授業シリーズ1】
うんちと腸内細菌の関係【腸内フローラ授業シリーズ2】
(テスト付き)脳腸相関?人間は腸でものを考えていた!【腸内フローラ授業シリーズ3】
うつは長いあいだ心の病気とされてきたが、近年になって脳の病気であることがわかってきた。さらに、研究者や医療関係者の中には、うつは腸の病気ではないかと考える人も増えている。
それってさっきの、”ノーチョーソーカン”ってやつ?
勘がいいね。セロトニンという言葉は聞いたことあるかい?
あ、幸せホルモンってやつでしょ。
そうとも呼ばれる。脳内のセロトニンは、交感神経と副交感神経のバランスを調整し、興奮状態とリラックス状態を適切な状態に保ってくれる。
現代人は情報過多、光や音の刺激に始終さらされているから、このバランスが崩れてうつ状態を引き起こす人が増えているんだ。実は、体内で作られるセロトニンの90%以上が腸で作られるんだよ。脳で作られるのは、たった2%でしかない。
そんなに!? あ、わかった! 腸でたくさんセロトニンを作ったら、それが脳にも行き届くから、腸内フローラを改善したらうつが治るってことね。
うーん、惜しい。同じセロトニンという名前ではあるが、腸で作るセロトニンは、そのまま脳で使うことはできない。腸内でのセロトニンの役割は主に、うんちを肛門まで運ぶことだ。
じゃあ意味ないじゃない。
そう結論を急がないでくれたまえ。このあたりの分野はまだまだ研究途上だが、不足した脳内のセロトニンの働きを腸が間接的に肩代わりするのではないかという説も存在する。
直接使えないけど、間接的に肩代わり? そんなことできるの?
まだあくまで仮説の段階だ。セロトニンの材料となる物質を脳に届け、合成を促す信号を腸が発信している可能性が大いに考えられる。もっと言うと、腸内細菌が発信しているかもしれないんだ。
ではないか、とか、かもしれない、とか、随分あいまいな言い方ばっかりね。
痛いところを突いてくるね……僕の住む”うんち星”は、新しい研究になかなか予算がつかないんだ。優秀な研究者がどんどん他の星に引き抜かれていく。このままでは”うんち星”の住人たちの健康な未来が危ぶまれるよ。
あんたが頑張りなさいよ。
うっ、かしこまりました。腸内フローラとうつの関係性は、理屈ではまだ解明されていないことも多い。しかし、実験や経験からの研究が徐々に積み上がってきていている。例えば、無菌マウスは脳内のセロトニン量が少なかったり、乳酸菌の投与でマウスのうつ状態が改善したりする例も報告されている。
ふうん。人間もそうなのかしら。
どうやらマウスよりも人間の命は大切らしく、人間のほうで実験的なことはあまりできないのだが、僕がこれまで見てきたうつ患者は、うつのパターンによってある程度腸内フローラの傾向が明らかになってきている
うつのパターン?
前回の記事で、うつの簡易チェックテストがあっただろう。ABCのうち、チェックの多かったものを見てほしい。一般的な分類にはなるが、うつには原因別にいくつかのパターンがある」
このように、うつの原因には様々なパターンがあるが、現れる症状は似ていることが多い。運動をする気が起こらず、食欲がなくなってしまったり、反対に甘いものやジャンクフードばかり食べたくなることもある。
昼夜逆転し、良質な睡眠を取ることも難しくなるだろう。そうなると当然、腸内フローラも悪化する。うつはさらに悪化し、腸内フローラも悪化する一方なんだ。
なんとか自分で腸内フローラを良くすることはできないの?
食事、睡眠、運動が基本だな。中には、これらの生活習慣を改善する努力をして、うつを克服した人もおる。だが、もともと心身が弱ってしまっている人に、規則正しい生活はかえってストレスをかけてしまうこともあり、なかなか一筋縄ではいかないんだ。
なんかこう、最初の大きなひと押しみたいなものがあればいいのにね。そうしたら、あとは自分でいいサイクルになるように頑張れるのに。うつって、沼の中でアクセルを踏んでいるみたいな、空回りな感じがあるから、もう頑張ろうって気が失せちゃうのよね。
その最初の大きなひと押し、つまり腸内フローラを劇的に変化させることで、心と身体にブレイクスルーを起こす方法があるんだ。それが私たちが研究している「腸内フローラ移植」なんだよ。