デブ菌とかヤセ菌とか言っている人に、腸内細菌の専門家として物申したい。

こんにちは。
どんなに体調を崩しても、食欲だけはなくならない。
ちひろです。
(登場のしかたが芸人やん)

むかし、エライ人がこう言ったそうです。
食べるために生きるな。生きるために食べなさい

いや、わたしは胸を張って、食べるために生きますけどね!!

幼少期は毎日フードファイト状態で、誕生日の何が嬉しかったって、肥満防止用のしらたきが入っていないご飯を食べられることやったもんな。

すでにまるまるとしている。出荷寸前の子豚ちゃんやな。

デブ菌、ヤセ菌とは

腸内フローラという言葉が徐々に世間でも受け入れられるようになりましたが、最初は美容的な位置づけでした。

そこで、腸内フローラとセットで語られたのが、「デブ菌」と「ヤセ菌」です。
まあなんと、商業主義的な呼び方ですが、これで一気に浸透した感があります。

ネットで検索してみると、いろいろと定義があるみたいです。
デブ菌、ヤセ菌とは

デブ菌の定義

ちょっと冷静になったら、デブ菌ってなんなん? って思いません?

1匹でもいると太りやすくなるのか、特定の菌が一定の割合を超えるとデブ菌という名前になるのか(「H2O」の集まりが「湖」と呼ばれるように)、全体のバランスから決まるのか。
そういうのをぜんぜん示してくれないくせに「お肉ばっかり食べていると、デブ菌が増えちゃうよ!」とか言って脅してくるやん。意味不明やわ。

エビデンスがない発想は許すし、大歓迎やけど、根も葉もない噂で人の恐怖感をあおるダイエット業界は嫌いやねん。(ダイエットにどんな恨みが)

デブ菌=悪玉菌である説

一般的な伝えられ方をするとき、デブ菌=悪玉菌である説が採用されます。
ひどい話ですよね。悪玉菌と言っても、いつもいつも悪いことばっかりするわけではないのに。

そもそも、悪玉菌ってなに? って話です。
先日NHKで「アトピーを抑えるスーパー腸内細菌」として脚光を浴びた「クロストリジウム」は、長らく悪玉菌として嫌われていました。

一昔前までは、腸内細菌そのものが、「病原菌」もしくは「役に立たないけどなんとなくそこにいる」菌だと思われていたんです。

私たち人間は、微生物たちの生命の善悪までも、その時の自分の常識内で決めつけてしまっているんですね。

ファーミキューテス門の細菌である説

続いて、デブ菌=ファーミキューテス門の細菌である説
これはワシントン大学のジェフリー・ゴードン博士がマウスの腸内フローラを入れ替えて行った実験で、この部類の菌たちが肥満マウスにバランスとして多かったというような話です。

この結果がダイエット業界で大幅に歪んだ表現をされて、「ファーミキューテス門は排除していこうぜ!」みたいな感じになっています。
ファーミキューテス門の中になんぼほどの「属」がいて、なんぼほどの「種」がいて、みたいな話って、テレビとかネットニュースでは華麗に無視されますよね。

言っとくけど、いわゆる「乳酸菌」もこのファーミキューテス門やからな。
乳酸菌って「善玉菌」やと思ってたやろ。だんだんこんがらがって来たやろ。

デブに住んでいるのがデブ菌である説

なんと横暴な理屈でしょうか。
びっくりしちゃいますね。

「大阪出身なん? じゃあオモロイ一発ギャグして」って言う人と同じくらい偏見です。

でも、いざ腸内フローラ移植を受けようとすると、「ドナーはスリムな人なんだろうか」と気になる人は多いはず。
ほらね、刷り込みってあるもんなんです。情報は正しく理解しよう。

ヤセ菌の定義

ヤセ菌やってさ。
勘弁してほしいよな。
やせてる人の努力を踏みにじるかのような言説やわ。(だからダイエットにどんな恨みが)

バクテロイデス属がヤセ菌説

これもジェフリー・ゴードン博士の実験で、痩せマウスに多く生息していた菌です。(厳密にはバクテロイデスやけど)

確かにバクテロイデス属は脂質代謝に有効に働いてくれます。脂肪の取り込みをブロックし、余った脂肪を優先的に燃やす働きをします。
ですが、「日和見菌」と呼ばれることもあるように、いつも良い働きをするとは限りません。

クロストリジウム鋼の菌たちや乳酸菌群などのバランスが悪いと、バクテロイデス属が7割を占めていても「悪い腸内フローラ」になってしまうこともあります。
ジェフリー・ゴードン博士もおそらく、「なんか思ったのと違う伝わり方してる。。。」と思っているかもしれません。

アッカーマンシア・ムシニフィラ説

2004年に新しく発見されたアッカーマンシア・ムシニフィラという菌も、ヤセ菌として注目されています。

この菌、腸のバリアを強くしたり、肥満や糖尿の改善、抗炎症作用などがある可能性が示されていて、いまのところ期待大です。
成人の腸内細菌の1〜4%程度を占めると言われていて、数にするとたくさんですが、比率にすると少なめ。

「ヤセ菌入れまくってください!」というリクエストは、「目の大きさを50センチにしたいんです!」みたいな要望と同じようなもんなんですが、よろしかったでしょうか。

痩せている人に住んでいるのがヤセ菌説

これもかなり無理のある設定。
たしかに、「食べても脂肪になりにくい体質」というのは、腸内フローラである程度決まります。

でも痩せている人の中には、太りやすい体質なのに、血の滲むような努力をして体型をキープしている人もいるかもしれないじゃないですか。
朝は豆乳だけ、昼はサラダだけ、夜は炭水化物抜き、みたいな生活を、もう何年も自分に強いているかもしれないじゃないですか。

そういう人からしたら、腸内フローラ移植するだけで簡単に何キロもすぐ痩せるなんて、甘いわ。食うな、走れ。
とか言われちゃいそう。

デブ菌排除、ヤセ菌至上主義の危険性

デブ菌排除

伝える側の都合によっていろいろと定義はあるわけですが、デブ菌を排除してヤセ菌をたくさん入れてほしいというご要望に素直にお応えすると、こうなりますよという話をします。

他の病気になる可能性

例えば、バクテロイデス属の多い腸内フローラを持つ人は、がんの免疫療法が効きにくいという論文があります。[1]Gut microbiome influences efficacy of PD-1–based immunotherapy against epithelial tumors

それからアッカーマンシア菌、まだ当研究所でも挙動を見守っているところなので確定的なことは言いにくいんですが、ある深刻な生活習慣病に結びつく可能性が否定できません。
なので、当研究所が腸内フローラ移植の菌液を調製する際は、あえてこの菌をたくさん入れるというようなことはしません。

カロリーゼロの食品を思い浮かべてもらうといいかもしれません。
確かにその時は痩せるかもしれませんが、実は他の臓器を傷めている可能性があるとすれば、慎重になりませんか?

免疫力を低下させる可能性

悪玉菌として忌み嫌われる菌の中には、免疫力をものすごく高めてくれたり、バランス次第で精神の安定を保ってくれる菌もいます。
がん患者さんには、免疫力をドーンと上げるためにわざわざそれらの菌の比率を高めることをしたりします。

せっかく免疫を守ってくれている菌を、排除することの危険性はわかっていただけるはずと思っています。
よかったら、「腸と免疫シリーズ」も読んでみてください。

菌のバランスが偏る

なんやかんや言っていますが、この一言に尽きます。
菌は、個々に働きを決めているのではなく、全体のバランスを見て自分の働きを調整しています。

すべてが日和見菌と言ってもいいくらいだと、わたしは思っています。
だって、得意先で接待せなあかんときと、大好きなおじいちゃんと喫茶店行くときと、家で一人でウンコしてるとき、テンション全然違うでしょ?

微妙で絶妙なバランスを保って、腸内細菌たちは良好な働きをしてくれています。
多少バランスが崩れても、戻してくれようとします。

それを、痩せたいだのなんだので、不自然に歪めてしまうと、病気を引き起こしてしまうかもしれないんです。

腸内フローラが整うと痩せるという本当の意味

腸内フローラが整うと痩せる

いろいろ言ってきましたが、腸内フローラの状態と肥満(太りやすさ)が大きく関係しているというのは、ほぼ間違いないと考えています。
ただ、それがダイエットの世界に持ち込まれると、話がおかしくなってくるのです。

これまでの経験上、腸内環境改善による脂質や糖質代謝の向上、筋肉の増強などは目指すことはできます。
長年の無理なダイエットや、投薬、不規則な食生活のせいで、臓器の機能が弱ってしまっていることによる肥満などは解消が期待できます。

あるいは、腸内フローラが整うことで精神的に安定し、どか食いややけ食いがなくなって結果的に痩せたという方もおられます。

ですが、あくまでも「身体の機能を正しい状態に戻そう」ということなので、すでに標準体重以下の方が「もっともっとヤセたい! あたし、ヤセたいのよ!」みたいな場合は、ちょっとほかを当たっていただいたほうがいいかもしれません。

人間はマウスよりもずっと身体が大きいので、目に見えて体重が落ちるなどの変化はより緩やかに現れます。
半年、一年とかけて、代謝効率のいい健康な体を目指したい方には、腸内フローラというアプローチはとても有効です。

ちなみに、いい状態のフローラバランスは、腸内細菌たちが健康になるための食事を教えてくれます。
腸内細菌の声に耳を傾けると、何を食べたらいいかがわかります。それが食べたいものになります。

これが、「移植をすれば食の好みが変わります」という意味です。
腸内環境が整うと、食の好みが変わり、「健康的な生活習慣も頑張ってみようかな」というやる気がわいてきます。真面目な人なら。(おい)

腸内細菌が喜ぶ食べかた

腸内フローラ改善のためにおすすめの食事ポイントは、いくつかあります。
(参考:腸内フローラバランスを食事で改善するための7箇条

腸内フローラ移植は栄養指導抜きには語れないのではないか、という意見もあり、うちの腸内フローラ移植は栄養のことをちゃんとわかってくださっている先生ばかりにおまかせしています。

ただ、なによりも腸内細菌たちが喜ぶ食事は、「食べ方」です。
その食べ方さえちゃんと守れば、フライドポテトでもカップラーメンでも、身体の中で滋養になってくれると思います。
毎日はだめよ。

それは、「ああ、おいしいなあ」、「食べられてありがたいなあ」と、全身で味わって食べること
デスクで「ながら食べ」なんて最悪です。わたしのように。(あ、キーボードに汁飛んだ。iMac、すまぬ)

自分が痩せたいとかそういう願望もいいとは思うし、身体に有害なNG食品リストを作るのも大事かもしれないんですが、
自分が飢えずに暮らせていること。
おいしく食べられていること。
一緒に暮らしてくれている腸内細菌たちのこと。
そういう「有り難さ」を忘れないでほしいんです。

だいたい、最近の女の人はガリガリ志向が強すぎるのではと思いますね。

女性は、生理とかそんなんですぐに変動しますし、そないピリピリせんでもよろしいやんと思いますが、このあたりは個人の自由なんで仕方ないですね。

先日参加した学会の懇親会で、提携クリニックの看護師さんに「ちひろちゃん、それ一人で食べるの?」って言われたけど、実は3回目のおかわりなんです、とは言い出されへんかったわ。(みんな逆になんであんなちょっとで生命維持できるん?)

長くなりましたが、今日の記事を読んで「あれあれ? デブ菌とかヤセ菌とか、特定の菌をもてはやしたり集中攻撃するのって、もしかして的外れ?」とちょっとでも思っていただけたら、書いた甲斐があります。

そしてこの記事を書きながら、わたし、食生活改めたほうがいいかもしれんと思いました。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
スタッフ紹介はこちら
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《特許出願中》
腸内フローラ移植

腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)

デブ菌とかヤセ菌とか言っている人に、腸内細菌の専門家として物申したい。”へ2件のコメント

  1. 匿名 より:

    痩せたいとおもって移植しましたが、一番変化を感じたのは、穏やかになれたこと(えっ?というスタッフの声が聞こえそうです)
    今日も美味しくご飯がいただけて、いつに間にか大好きだったパンは、お気に入りのお店に行った時だけになり、あずき入り玄米ご飯は炊いてから36時間以降が美味しいなあとか、甘いものも夜は欲しいと思わなくなりました!
    体脂肪がちょっとずつ減ってきて、なによりも元気❣️
    痩せたいという願望を逆手にとるようなことは、あきませんよと言いたいです。
    わかりやすい解説ありがとうございます

    1. ちひろ より:

      コメントありがとうございます。
      移植の最大の効果は、「痩せたい痩せたい」と常に思わなくて良くなったということかもしれませんね。
      長い人生、健康で楽しくお過ごしください。

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