酪酸菌は乳酸菌を超えるプロバイオティクスサプリメントになりうるか?

ちひろです。

菌やウイルスって、付き合い方によって敵にも味方にもなるじゃないですか。

ほんの一昔前まで、菌やウイルスは主に病気の原因と考えられていました。
その発見すら、パスツールやコッホのような細菌学者の貢献によって発見されたもので、それ以前の人々にとって、菌やウイルスってなんやったんやろな。

納豆とチーズの友達かな。

とにかく、長いあいだ「病原菌・病原ウイルス」に的を絞って研究されてきた細菌学が、21世紀になってやっと見直されてきました。

病原菌・ウイルス以外にもたくさんの微生物がいて、彼らはただ漫然とそこに寄生しているのではなく、宿主の健康維持・生命維持に欠かせない存在であるということがわかってきたんです。

この数年で「腸内フローラ」「善玉菌」なんてフレーズがわれわれ庶民の目につくところにあふれかえるようになったのがその証拠です。

消費者にわかりやすくキャッチコピー化されているとはいえ、これはいい傾向だったはずです。
意味不明なコロナ対策により、謎の殺菌・消毒ブームが訪れるまでは…

憂いていてもしょうがないので、今日はわたしたちを助けてくれている菌の紹介をします。

短鎖脂肪酸の3大巨頭のひとつ、酪酸

酪酸・酪酸菌というのをご存知でしょうか?
乳酸菌、ビフィズス菌は有名ですが、酪酸菌というのはまだまだ注目され始めたばかりの菌たちです。

わたしたちの身体が適切に維持されるには、脂肪が必須です。それを化学的に見ると、脂肪酸という物質であることがほとんどです。

脂肪酸は、結びついている炭素の長さによって長鎖、中鎖、短鎖脂肪酸などに分けられるんですが、酪酸は短鎖脂肪酸の代表的なものです。

短鎖脂肪酸って聞いたことあるわ〜、って方も多いかもしれません。
そう、腸活界隈で「短鎖脂肪酸最高!」キャンペーンがわりと目につくようになってきました。
食物繊維同様、短鎖脂肪酸も崇拝されがちなワードです。

腸に存在する短鎖脂肪酸の9割以上を占めるのが、酪酸、酢酸、プロピオン酸です。[1]Intestinal Short Chain Fatty Acids and their Link with Diet and Human Health

酪酸が健康に役立つのではという研究はもう60年くらい続いているんですが、研究によって矛盾した結果が出ることになり、なかなか結論が出ない状況が続いていました。[2]Role of butyric acid and its derivatives in the treatment of colorectal cancer and hemoglobinopathies – PubMed

大腸の細胞が必要とするエネルギー(ATP)の7割が酪酸を使って作られるという事実からも、酪酸がいかに大事かがわかります。[3]Butyrate, Neuroepigenetics and the Gut Microbiome: Can a High Fiber Diet Improve Brain Health?

酪酸をたくさん摂取したい!
そしてみるみる健康になりたい!
酪酸を含む食品を食べまくって、サプリも検索!

気持ちはわかります。
でも、残念ながら食品から摂取できる酪酸の量は限られているんです。
だからといって肩を落とす必要はありません。だって腸内細菌が作ってくれるんですから!
その名も、酪酸菌!
今日はね、この酪酸菌をなんと2億個も含んだサプリメントをご紹介します。テレビの前の皆さんだけに特別なご案内もありますからね、ぜひ最後までご覧くださいね。(テレビショッピングって、いつの時代もこんな感じやんな)

短鎖脂肪酸は腸の活動、人間の活動に絶対に欠かせないものです。
食事に配慮をまったく払わないひとが死んでしまわないように、腸内細菌が作ってくれる仕組みになっています。

しかも菌たちが酪酸を作るのに必要なのは、人間が消化できない食物繊維。
本来捨てられてしまうはずのものを再利用して、人間を生かしてくれているんです。
まじで神秘じゃない?
最近流行りのSDGsなんて、腸内細菌の前では恥ずかしくて言えませんわ。

そんな菌たちを総称して、酪酸菌って呼んでいるんですね。

酪酸菌が病気を遠ざける?

酪酸の働きを調べる研究は多数存在していて、たとえば腸粘膜における炎症やがんの発生を抑える働き、腸のバリア機能の増強、酸化ストレスの軽減なんかが認められています。[4]Review article: the role of butyrate on colonic function – PubMed

その他にも、様々な病気に対して良い働きをしてくれるようです。

アレルギー・アトピー

卵アレルギーの子は腸の中で酪酸産生菌が減っているそうです。[5]Decreased butyric acid-producing bacteria in gut microbiota of children with egg allergy – PubMed

また、301人の1歳の子どもたちの便を研究して、幼少期の酪酸・プロピオン酸が高濃度であることが、アトピーを防ぐ鍵であることもわかっています。[6]High levels of butyrate and propionate in early life are associated with protection against atopy – PubMed

酪酸の働きによって、免疫の働きを制御してくれるTregが作られるという報告もあります。[7]Metabolites produced by commensal bacteria promote peripheral regulatory T-cell generation – PubMed[8]Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells – PubMed

本来は自分を守ってくれるはずの免疫システムが暴走して、反応しなくてもいいものにまで反応してしまうアレルギーの場合、Treg細胞が全然足りていないか、存在しているのにうまく機能してくれていないということがあるので、これは朗報。

過敏性腸症候群(IBS)、クローン病、潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎の患者さん10人に2週間の酪酸ナトリウム投与を行ったところ、便の回数の現象や内視鏡所見の改善が見られました。[9]Effect of butyrate enemas on the colonic mucosa in distal ulcerative colitis – PubMed

過敏性腸症候群(IBS)の患者さん66人に300mgの酪酸ナトリウムを毎日服用してもらった試験では、4週間後に多くの患者さんの腹痛が軽減されました。[10]Microencapsulated sodium butyrate reduces the frequency of abdominal pain in patients with irritable bowel syndrome – PubMed

別の研究では、13人のクローン病患者さんに4gの酪酸を8週間服用してもらいました。
その期間の終わりには、13人中9人の方の症状が改善していました。[11]Oral butyrate for mildly to moderately active Crohn’s disease – PubMed

これらの研究は、いずれも酪酸菌を補充する、酪酸菌を元気にするのではなく、酪酸そのものを患者さんに飲んでもらっています。
菌たちが代謝活動によって出す有用物質(ここでは酪酸)をポストバイオティクスと呼んだりしますが、ずっと飲み続けなくてはいけない場合が多いようです。

がん

酪酸の影響はがんにも及びます。

ある研究では、大腸がんの患者さんに酪酸ナトリウムを投与したところ、大腸がん細胞の増殖を防ぐことができたうえ、細胞のアポトーシスも促せたことがわかりました。[12]Sodium Butyrate Induces Endoplasmic Reticulum Stress and Autophagy in Colorectal Cells: Implications for Apoptosis

上述したように、酪酸の投与だけでは一時的な効果に過ぎないことをこのチームは認識していて、酪酸を産生する菌たちを活発にするために食物繊維をしっかり摂ることも勧めています。

糖尿病

すい臓からインスリンが出なくなってしまうⅠ型糖尿病と、インスリンは出ているのにうまく血糖値が下がらないⅡ型糖尿病。

前者は主に先天性で、後者は生活習慣などから起こるとされ、まったく別の疾患と言ってもよいものです。

でもこのⅠ型糖尿病とⅡ型糖尿病の両方に、酪酸がいい働きをしてくれるようです。

Ⅱ型糖尿病の患者さんの腸内では酪酸産生菌が減っていること[13]Microbiota and diabetes: an evolving relationship – PubMed、食物繊維の摂取がインスリン抵抗性を改善したり、肥満を防ぐことも確かめられています。[14]Propionic acid and butyric acid inhibit lipolysis and de novo lipogenesis and increase insulin-stimulated glucose uptake in primary rat adipocytes

酪酸がTregを誘導することで、自己免疫疾患であるⅠ型糖尿病を改善する可能性も示されています。[15]Butyrate induced Tregs are capable of migration from the GALT to the pancreas to restore immunological tolerance during type-1 diabetes | Scientific Reports

酪酸・酪酸菌は多いほどありがたいのか?

ここまで見ると、酪酸や、それを出してくれる酪酸菌にはメリットばかりあるように思えます。

多くの臨床試験では、酪酸投与による有害事象は確認されていません。

ただ一部の研究では、妊娠中の酪酸ナトリウムの摂取が赤ちゃんのインスリン抵抗性や肥満リスクを高めるという報告も出ています。[16]Maternal butyrate supplementation induces insulin resistance associated with enhanced intramuscular fat deposition in the offspring

酪酸そのものではなく、酪酸菌を外部から補充するやり方ならどうでしょうか?
「ミヤBM」や「ビオスリー」なんて名前を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

酪酸を産生してくれる菌たちは山ほどいるんですが、その代表的なものにClostridium butyricumという菌種がいます。
この子をたくさん補充してやれば、酪酸もたくさん産生してくれるだろうということで、臨床現場ではプロバイオティクスとして盛んに使われている歴史があります。

実際、これで効果を感じる方もたくさんおられ、手軽に酪酸を腸に補充できる方法としてはとても有益な方法だと思います。

もう少し踏み込んだ方法ができるのであれば、FMT(便移植)も有効です。

菌たちは単一の菌で酪酸を作っているのではありません。
たくさんの菌が分担して酪酸を作っていて、さらに酪酸を作る菌たちは、その他の腸内細菌たちの働き(代謝、免疫など)との兼ね合いで、絶妙にバランスを変えながら暮らしています。

1つの菌だけを補充する方法は、「江戸時代にルンバを持っていく」みたいなもんではないかと個人的には思います。

確かに便利で重宝されるんですが、充電するために毎回現代に戻ってこなあかんし、家の中の掃除だけいびつに発達してしまって、なんかバランスが悪い。

ルンバが本来の力を発揮できるのは、充電できる環境で、庶民に「家電」というツールが十分に浸透している現代だからなんですよね。きっと。

FMTは、1つだけを増強するのではなく、システムと登場人物全体を含めた総体をインストールするようなイメージで、腸内細菌の生態系を立ち上げ直してくれる期待の星ではないかと思うんです。
手前味噌でなんか恥ずかしいですけどね!

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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References

References
1 Intestinal Short Chain Fatty Acids and their Link with Diet and Human Health
2 Role of butyric acid and its derivatives in the treatment of colorectal cancer and hemoglobinopathies – PubMed
3 Butyrate, Neuroepigenetics and the Gut Microbiome: Can a High Fiber Diet Improve Brain Health?
4 Review article: the role of butyrate on colonic function – PubMed
5 Decreased butyric acid-producing bacteria in gut microbiota of children with egg allergy – PubMed
6 High levels of butyrate and propionate in early life are associated with protection against atopy – PubMed
7 Metabolites produced by commensal bacteria promote peripheral regulatory T-cell generation – PubMed
8 Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells – PubMed
9 Effect of butyrate enemas on the colonic mucosa in distal ulcerative colitis – PubMed
10 Microencapsulated sodium butyrate reduces the frequency of abdominal pain in patients with irritable bowel syndrome – PubMed
11 Oral butyrate for mildly to moderately active Crohn’s disease – PubMed
12 Sodium Butyrate Induces Endoplasmic Reticulum Stress and Autophagy in Colorectal Cells: Implications for Apoptosis
13 Microbiota and diabetes: an evolving relationship – PubMed
14 Propionic acid and butyric acid inhibit lipolysis and de novo lipogenesis and increase insulin-stimulated glucose uptake in primary rat adipocytes
15 Butyrate induced Tregs are capable of migration from the GALT to the pancreas to restore immunological tolerance during type-1 diabetes | Scientific Reports
16 Maternal butyrate supplementation induces insulin resistance associated with enhanced intramuscular fat deposition in the offspring
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腸内フローラ移植

腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)