嫌気性菌が空気中で生きられる仕組み 〜食中毒菌とバイオフィルム〜

人間社会というのは、いろんな集団で形成されています。

家族、町内会、学校、会社、国。
集団に所属するといろいろめんどいこともいっぱいありますが、それよりも圧倒的に助かることのほうが多いわけです。
一人で暮らしてたら、人間なんて一瞬でクマに食べられて死ぬし。

一人の人間を取ってみても、いろんな臓器や血球たち、組織がそれぞれの強みを持ち寄ってカバーし合いながら、奇跡的な仕組みを維持してくれています。もちろんそこに暮らしている腸内細菌たちの連携プレーも。

どんなに独りが好きな人であっても、人間である限りは、いや宇宙の中の生命体である限りは、避けがたく集団に巻き込まれていて、同時にその恩恵を受けているってことなんでしょうね。

さて、今日は細菌たちが集団で暮らすことで、自分たちの弱みをカバーしている事例について面白いニュースがあったので紹介します。

食中毒のウェルシュ菌、温度に応じてバイオフィルム形成を調節と判明-筑波大 – QLifePro 医療ニュース

ウェルシュ菌が食中毒をもたらすまで

ウェルシュ菌は、食中毒の場面でよく登場する菌です。
二日目のカレーとか、給食での集団感染がたまにニュースになったりします。

この菌自体は存在するだけで悪ってわけではなく(そんな菌はおらんけど)、
家畜やヒトの体内にも普通に存在して、腸内フローラ検査でもまれに検出されます。

ほかの食中毒菌と違って、ウェルシュ菌はそこにいるだけではヒトに不健康をもたらしません。

みなさん、芽胞って聞いたことありますか?
以前のブログで、酸素を嫌う嫌気性菌が空気中でどのように自分の身を守るのかという話をしたことがあります。

この中でも芽胞は最強でしてね。
細菌たちというのは、普段は細胞壁という壁で自分を包んでいます。
この時点で人間の細胞である細胞膜よりも強いんですが(ヒトって知能以外ほんまに無防備)、芽胞モードが発動するともう手も足も出えへん。

くるみの殻的な感じになって、100度で数時間加熱しても死滅せんので、再沸騰させたから安心ってわけでもない。
リスならともかく、人間にはもはや太刀打ちできへんよな。

そして芽胞モードになったら彼らとしてはしめたもんで、毒素を出して人間に下痢ピーを起こしたりします。
下痢ピーを起こさせないほうがウェルシュ菌にとっても排便されずに長く宿主の腸にとどまれるからいいような気もするけど、そこには我々には想像もできない複雑な利害関係が絡んでるんかもしれん。

菌たちはほんまはそんなに増えたくなかったのに、人間の不注意で増やさせられて、そのうえ悪者扱いされてるとしたら、まじで気の毒すぎ。

酸素環境下でバイオフィルムが菌本体を守る

菌が出す物質に、バイオフィルムってのがあります。
ひとことで言うと、ヌメヌメのやつ。

人間はバイオフィルムを出すことができないので、雨風をしのごうと思うと服なり傘なりおうちなりで自分を守らないといけません。
一方でウェルシュ菌は酸素を嫌いますが、バイオフィルムを出すことで自分を守ることができます。

今回、筑波大の研究チームが発見したのは、このバイオフィルムを形成するために必要なタンパク質をコードする遺伝子です。
BsaAという名前のこのタンパク質は、酸素からウェルシュ菌を守るだけではなく、界面活性剤や強酸にさらしても壊れない強固な構造をしているとのこと。

え…めっちゃシブくない…?
わたしが一生懸命マジックリンでごしごししたり、自分の指紋を溶かしながら塩酸かけたりしてる間も涼しい顔をしてて、
「お嬢ちゃん、そうやって頭でっかちな人間たちが発明した薬剤で俺が殺せると思ってるのかい? 自分自身の力で立ち向かってきなよ、ほら。へっ、効かないな」とか言われたら、もうイチコロなんやけど。

「君がどんな手を使っても、俺はその一瞬あとには対抗策を持っている。もう無駄な試みはやめなよ。ほら、おいで」って言われたら、ウェルシュ菌の胸に身を委ねてしまいそう。(重症すぎてコメントできへんわ)

このBsaAはヒトの体内に近い37℃よりも、25℃で豊富に産生されることもわかったそうです。
温度によって「あ、これは体外(=酸素のある環境)やな!」と検知して、身を守るためのバイオフィルムを出すと。天才かよ。

集団で守り合うウェルシュ菌

group of people standing indoors

さて、そんな最強のタンパク質BsaAですが、実はウェルシュ菌の中にもこれを産生できるやつとできへんやつがいるようです。

そんなウェルシュ菌たちが集団で酸素に曝露されたとき、何が起こるか?
BsaAを産生できる菌たちが、産生できない菌たちを覆って守ってあげていることが顕微鏡でわかったそうです。

あかん、男前すぎて死ぬ。
そしてウェルシュ菌はわたしを守るためではなく、同族のかよわいウェルシュ菌を守るためにBsaAを出してるんやな。
所詮ヒト科のわたしには、入り込むスキもないってわけや。(すね方が独特すぎる)

わたしも修行して、毛穴からバイオフィルムを分泌できるようになりたい。

人間にとっての「サイエンス」というのは要素の切り分けであり、他の条件を揃えた比較であり、原因と結果の究明であるかもしれません。
でもこんなふうに集団で活動することでその働きが大きく変わったり、ドミノの迷路のように複雑に作用しているいろんな仕組みがある世界に生きていて、個々の働きを解明することだけでその生命体の有り様を全部理解した気になってはいかんのやなということを肝に銘じるいい機会になりました。

腸内細菌の多くは、嫌気性菌で酸素には弱いとされています。
でも彼らもきっと、こんなふうに集団で守り合って支え合っているんでしょう。
わたしたちは、個々の菌の解明なんかではなくて、彼らが集団としてうまくバランスを取りながら活動できるように何ができるのか? を考えることにもっと力を注いだほうがいいのかもしれません。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
個人ブログ→千のえんぴつ
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