妊娠・出産における母から子への微生物リレーの神秘

ちひろです。

人間は本当にいろんなものを作れるようになりました。

腐らないパンとか。
高速道路とか。
ロケットとか。

そんな人間がまだ作れないもののひとつに、「人間」があります。

不妊治療は進んでいるけれど、望んでいるのに子供を授かれない人は増えている。
性別を予め決めたり、産まれてくる赤ちゃんの病気を完全に予測したり防ぐこともできない。

命を授かり、育むということは、人知をどこまでも超えたものなんですね。

わたしも現在妊娠中ですが、『あなたの体は9割が細菌』というベストセラーを読み返していると、「今知っておいてよかった」ということがたくさん出てきました。
今日は、そんなたくさんの中から一部を抜粋して皆さんに届けます。

出産時に母から子へ受け継がれる細菌

子宮の中で平和に羊水に浮かんでいるとき、赤ちゃんは細菌を含めた微生物から守られた状態にあります。
病原菌も有益な菌も原則として、赤ちゃんに干渉することはできません。

一部のウイルスや細菌が赤ちゃんに感染してしまうと、障害が残ってしまうなどのリスクがあります。

そんな保護のもとにある赤ちゃんですが、いざ産まれてくるときには「あえて微生物のシャワーを浴びる」ことになります。
赤ちゃんとしては、いつまでも守られた状態にいるほうが都合がいいかもしれませんが、そういうわけにもいかないですので、外界に対応するために微生物を学習・獲得してから産まれてくるわけです。

膣内細菌の受け渡し

子宮にいた赤ちゃんが産まれるとき、お母さんの産道を通ります。
この産道通過時、赤ちゃんの口や鼻から膣内細菌がたくさん入ってきます。

膣には、乳酸菌のグループであるラクトバチルス属と、糖の分解を担当するプレボテラ属の菌たちが多数存在しています。
ラクトバチルス属はわりと過酷な環境でも残っていられる菌たちで、病原菌が増殖するのを抑え込んでくれる役目もあります。

腸内細菌の受け渡し

産道を通って産まれてくる赤ちゃんですが、実はお母さんの腸内細菌もうまいこと受け継げる仕組みになっています。

これ最近まで知らなかったんですが、陣痛中や出産時にほとんどのお母さんはウンコをするそうです。
赤ちゃんが生まれる時は、ウンコをしたくなる感じと似ているらしく、ついでにウンコも出てしまうのかもしれません。

でもこれ、母親から赤ちゃんへ腸内細菌を受け渡すためのよくできた仕組みなのかもしれないんです。
その根拠になる理由を3つ挙げてみます。

根拠その1
赤ちゃんって、産まれてくるとき顔をお母さんのお尻側に向けて頭から先に出てくるんです。
つまり、どう頑張ってもウンコやお尻の穴についた腸内細菌に顔をなすりつけながら産まれてくる運びになります。

つらすぎ。
自我も記憶もなくてよかった。
これをつらいと感じるのは本能に反するんかもしれんけど、これを快感と感じるんも結構問題な気がせん?

根拠その2
肛門と膣があえて近くにあること。
赤ちゃんを守るために、子宮が体の真ん中かつ内側にあることは納得できます。

でも、わざわざウンコとオシッコの出口の間から出てこやんでも良くない?
免疫力の低い赤ちゃんが、なんでわざわざそんな菌だらけのところを通らねばならんのだ。

これも、赤ちゃんがお母さんから腸内細菌を受け取るための仕組みだったのかもと思えば納得できます。
予定日あたりの風呂は、お尻洗わんほうがいいんかな。(汚いからやめて)

根拠その3
子宮収縮ホルモンが直腸を刺激する。

生理前は妊娠中と同じような感じになるから子宮が弛緩する方向に行って、便秘になったりしますよね。
逆に生理になると、子宮が収縮するので人によっては下痢になったりもします。

出産って、もう収縮も収縮なんで、そらウンコのひとつやふたつ出ますよね。

「朝ウンコしておいてよかった〜」という体験談をたまに見かけますが、もしかしたらその人はアンラッキーなのかもしれんな。

陣痛中にウンコ出たら、「あ、それ赤ちゃん産まれるまでそのままにしといてください!」って助産師さんに言うかどうか悩むな。
バースプランに入れとこかな。

他の動物たちの細菌リレー方法

こんなふうに母から子へ細菌を受け渡す仕組みを持っているのは、もちろん人間だけではありません。

一番有名なやつでいくと、コアラ。
コアラはご存知のとおり、ユーカリを食べます。
ユーカリっていう植物は、食感、毒性、栄養面のすべてから三方悪しです。草食動物からの人気ワースト上位です。

その分手に入りやすいことは確かなんですが、コアラはこのユーカリから栄養を最大限ゲットするために、微生物の力を借りました。
生まれたてのコアラにはその微生物がいないため、母コアラは「パップ」という「消化しやすくしたユーカリ&腸内細菌」からできた離乳食を出して、子へ微生物を受け継ぐんです。

哺乳類のほかにも、ゴキブリやカメムシなんかも微生物の受け渡しを行っているというから、びっくりです。

出産後も母と子は細菌で結びついている

微生物を介した母と子のコミュニケーションは、出産時だけに限りません。
赤ちゃんがこの世に生まれたあとも、それは続きます。

そのコミュニケーションとは、「授乳」です。

そもそも、赤ちゃんの口から入って消化管に住み着くならば、お母さんの膣内細菌ではなく腸内細菌がメインで受け継がれたら良いと思いませんか?
けれど実際は、生誕直後の赤ちゃんの腸内細菌は、ほとんどがお母さんの膣内細菌だといいます。

実はこれ、おっぱいの消化のためなのでした。

膣内細菌に多く存在するラクトバチルス属は、乳酸菌です。
乳酸菌は、乳に含まれる乳糖を利用して、乳酸を作ります。

赤ちゃん自身の消化酵素が吸収しきれなかった母乳栄養を、腸にいるラクトバチルスたちが吸収してくれている。すごいですよね。

離乳食がはじまると、赤ちゃんの腸内細菌は一気に大人びていきます。
出産時にお母さんから受け取った腸内細菌たちは、実はこのときまで虫垂という隠れ家に潜んでいるのではないか、と本書の著者は考えています。

実は妊娠中から準備は始まっていた

赤ちゃんへの細菌受け渡し準備は、実は妊娠中から始まっています。
妊娠中のお母さんの膣内細菌は、多様性を狭める方向に移行します。

大人と違って、赤ちゃんの腸内細菌は多様性が少ないほうが望ましいのだそう。
赤ちゃんの未熟な免疫力をサポートし、感染症から守るためには少数精鋭のほうが都合がいいようです。

ちなみに、妊娠中は腸内細菌も変化するのでしょうか?
個人的感覚としては、おならが臭くなったり、食べ物の好みが変わっているので、腸内細菌も変わっている気がします。

今、月に1回腸内フローラ検査をしているので、n=1ではありますが近いうちに皆さんにレポートできるかもしれません。

帝王切開と経膣分娩はどれほど違うか

帝王切開の功罪について、本書ではかなり詳しく触れられています。

出産時に母子ともに危険な状態になったとき、帝王切開という方法が採られることで救われる命がたくさんあることは事実です。
けれど、痛みが少ない、計画的に出産できるなどの理由で気軽に帝王切開を選択する妊婦さんや、それを強制するような病院の体制が実際に存在しているようです。

帝王切開による出産でも、抗生物質のときと同じように、長期的な目から見たリスクが指摘されるようになってきました。
ここでは、帝王切開をせざるを得なかったお母さんが悲しい思いをするといけないので、あえてかかりやすい病気リスクなどを列挙するのはやめておきます。

ただ、産道を通らずに産まれてくることで、赤ちゃんの腸内細菌は違ったものになってしまうこと、
陣痛というスイッチを経ずに産まれた場合、その後の母乳の成分が変わってくること、
こういった事実を踏まえると、できれば経膣の自然分娩が望ましいということは間違いなさそうです。

母乳育児と粉ミルク育児はどれほど違うか

未だに信じられないんですが、母親は出産すると乳頭から白い分泌液(そう、母乳)を出すようになるそうです。
こんなところから液体が出てくるなんて、実際に出てくるまで半信半疑です。

今の時代は粉ミルクも発達していて、栄養成分としてはほぼ遜色ないものがあるそうです。
液体ミルクなるものまで出始めており、母乳の出にくいお母さんも、0歳から保育園に行く赤ちゃんにも、お父さんが授乳したいときも安心で手軽に赤ちゃんにミルクをあげられるようになっています。

食品メーカーの努力はほんまにすごいと思う。

さて、お決まりで申し訳ないんですが、やはり母乳育児と粉ミルク育児でも、残念ながら「同じように」というわけにはいかないようです。

人間が人間を作れないように、母乳もまた人間が完全に再現することはできないものなのかもしれません。

オリゴ糖という神様のような存在

オリゴ糖ってありますよね。
砂糖よりもヘルシー的な位置づけの、甘み成分。

実はヒトの体はオリゴ糖を消化できないんですが(まじかよ)、腸内細菌であるビフィズス菌たちはむしろ、オリゴ糖がないと生きていけません。
母乳にはこのオリゴ糖が山ほど含まれていて、赤ちゃんの腸内には当然のごとくビフィズス菌が繁栄しています。

前に乳児ドナーが在籍していた時期があったんですが、卒乳間近だというのに半分以上がビフィズス菌でした。

このビフィズス菌は、オリゴ糖を分解する際に、体に有益な短鎖脂肪酸をたくさん出してくれます。

しかもオリゴ糖がすごいのはそれだけじゃないんです。
母乳に含まれるオリゴ糖の種類はなんと130種類にものぼると言われていて、少なくともそのうち数十種類の菌たちは、特定の病原体が乳児の腸内で増えるのを特異的にブロックすることがわかっています。(鍵と鍵穴とよく言われる)

まだ免疫力の低い赤ちゃんを、母乳に含まれるオリゴ糖が守っているなんて。そら育休も取らなあかんわ。

母乳に含まれるオリゴ糖の量は、時期を経るにしたがって徐々に減っていきます。
これはおそらく、赤ちゃんの腸内でビフィズス菌以外の菌たちが適切に増殖できるようにするためかと思われる。
何に備えているかって? そう、離乳食。
まじすごくない? 神秘じゃない? スティーブ・ジョブズよりも、一個の母体のほうが賢いんちゃう。

母乳に含まれる微生物

オリゴ糖の量が変わるのは「赤ちゃんの腸内でビフィズス菌以外の菌たちが適切に増殖できるようにするため」と書きました。

それを後押しするかのように、母乳に含まれる微生物も変わります。
実は母乳そのものに微生物が含まれることがわかったのは最近になってから。

最新の科学技術を駆使して調べたところ、なんと母乳には母親の腸内細菌が含まれていることがわかったそうです。

そのルートは、

→腸にいる樹状細胞という免疫細胞が菌を取り込む
→樹状細胞が血液を通る
→乳房に運ぶ
という流れらしい。

感動しすぎて言葉にならんよな。
すべてが最初から仕組まれていたんや。
人間はそれを知ったか知らんかったかの差で、やってることは同じやったんや。

まったく、人間ってのはほんまに誰が作ったんやろな。賢く尊い存在であることは間違いないな。そら神でも信じたくなるよな。

ちなみに、初期の母乳には免疫抗体も含まれていて、赤ちゃんの免疫力アップに貢献します。

前置きが長くなりましたが、母乳にはこんなにもいろんな成分が含まれています。
いくら粉ミルクメーカーが優秀で努力家であれ、これだけのオリゴ糖と微生物と免疫抗体を、しかも時期によって使い分けるのはまず無理でしょう。

粉ミルクはほんまに無理なときのお助け、くらいに思っておくべきなんかもしれん。
粉ミルク育児による各種リスクについても、実際に本を読んでみてください。

本書執筆にあたって参考にした論文の情報も巻末にずらっと並んでいます。

自分と我が子のためにできること

今日ご紹介したのは、これから赤ちゃんを迎えるご両親が知っておくべきことのほんの一部です。
帝王切開せざるを得ん場合もあるし、母体の状態や、はよ職場復帰せなあかんなどの理由から母乳育児が難しいケースもあります。

話を微生物以外のことにまで広げると、妊娠中の両親のToDoリストやNGリストは、随分長いものになります。
ぜんぶ完璧にしようと思うと、大切なわが子を迎える前に疲弊してしまいかねないくらい、お父さんにもお母さんにも負担のかかるものになりがちです。

妊娠六ヶ月を迎えたわたしが今感じるのは、「とりあえずストレスにならないようにしよう」の一点です。

体重管理や口にするものに気をつけるのも、ストレスになったら逆効果なんです。
これ、言葉ではわかっていても、実際に腑に落ちるまでに時間がかかりました。

ジャンキーなものを食べるたびに襲う罪悪感や、
重いものを持ったらあかんという役立たず感、
すぐに疲れて適度な運動ができないという焦り、
そういう「努力」は別に不要やなと近頃思います。

仕事についてもそう。
わたしは必要以上に仕事に入れ込みすぎて、ストレスを感じることが結構あります。
会社を良くしたいがために、イライラすることもあります。

でも最近は、仕事で目につく「抜け漏れ」がどうでも良くなってきました。(これあかんよな、ほんま、社長すいません)
どのみちあと三ヶ月で産休なんで、自分がいなくなってできないことは、もうできなくていいやんと思うようになりました。そのほうがのびのび休めそうやし。

それで気づいたのは、健康管理も、仕事への態度も、自分がストレスなく取り組んでいるのが一番いい結果になるんじゃないかってこと。
これは妊娠している、いないに関わらず。

事実として「こうあるべきである」ってのは確かに存在するんですが、
それって「こうあるのが望ましい」って程度であって、ストレス抱えてまですることでもないんですよね、きっと。

話めちゃくちゃ逸れましたが、帝王切開も、母乳育児も、妊娠中の過ごし方も、産まれてからの子どもとの接し方も、
それぞれに自分の理想はあれど、ストレスなくにこにこして暮らせていれば、それが自分にとっても周りにとってもベストなんちゃうかなと思う今日このごろ。

ね、わたし最近丸くなったと思いません?

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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