前編|腸に住んでいる菌たち(嫌気性菌)は空気に触れると死ぬのか
風邪をひいています。
もうかれこれ6日目。
熱は下がりましたが、声がまだオッサンのままです。
というわけで、他の仕事がたまっていたこともあり、体調が悪かったこともあり、ブログ更新が滞っておりました。
(チゲ鍋とアイスクリーム食べて元気そうにしてはりましたよ)
風邪をひいたのなんて、ほんま何年ぶり? って感じでしたが、ここのところウンコの調子が悪いです。(便秘がち)
体調とウンコって、如実に関連してるんですね。
ところで、腸に住んでいる菌たちは、お肌や土にいる菌と違って「空気の苦手な」菌が多いと聞きます。
それって、ウンコとしてお尻から出た時点で、死ぬってことなんでしょうか?
そうやとしたら、ドナーの便から腸内細菌たちを取り出して菌液を作っているわたしたちも、
腸内細菌バランスを便から検査しているわたしたちも、かなり危うい立場に立たされます。(自分らだけかい)
目次
細菌の好む環境はさまざま!
わたしたち人間は、火星や金星では繁殖できません。
なんなら、水の中でも生きられへん。
他にも、砂漠や南極など、永住はあんまりしたくない場所もあるし、
民族によって好みの気候も違うでしょう。(スウェーデンの冬はほんまに死ぬかと思った)
同じように、細菌たちにはそれぞれ得意な環境と苦手な環境があります。
代表的なものが、「空気(酸素)があるかどうか」です。
細菌たちは、空気(酸素)の必要度合いに応じておおむね下記のようにわけられます。
- 偏性好気性菌
- 偏性嫌気性菌
- 通性嫌気性菌
- 微好気性細菌
- 耐酸素性細菌
このうち、わたしたち人間の腸に住んでいる細菌たちは、一部の通性嫌気性菌を除いてほとんどが偏性嫌気性菌です。
通性嫌気性菌とは、「空気(酸素)があってもなくてもどっちでもいいですよ〜」という柔軟な方たち。
次に偏性嫌気性菌の定義を見てみると、「偏性嫌気性菌とは酸素分子20%を含む環境(大気)中では全く発育しない細菌のこと」とあります。
(参考:岐阜大学医学部附属 嫌気性菌実験施設)
ちょっとちょっと、腸内細菌ってそんなにセンシティブやったんか!?
わたしたちの腸内にある気体
お腹の中で彼らが元気に増殖してくれているということは、酸素がない条件ということですね。
ホースの空洞のような腸管内には、うんちの原型のほかにどんなもの(気体)があるんでしょう?
おならを想像してみてください。
臭いあなたは、ちょっと生活習慣見直しましょね。
大丈夫、わたしのおならも臭いときは臭いから。
生物兵器みたいな臭いするから。
全然恥ずかしいことじゃないからね。安心してね。(聞いてるこっちが恥ずかしいわ)
そういうわけで、腸の中には主に腸内細菌たちが作り出すガスが充満しています。
アンモニア、メタン、水素、わずかな窒素などが含まれます。
これらの気体と、腸粘液というネバネバの大海原に守られながら、偏性嫌気性菌たちは元気に増殖します。
それでは、いよいよ本題。
うんちとして出た時点で細菌は死ぬのか?
うんちとして出てくる腸内細菌たちが、まだまだ現役の元気な方たちであることは、繰り返しお話してきました。
さて、わたしたちがブリっとうんちをした時点で、腸内細菌たちは空気に触れて死んでしまうのでしょうか?
ここで偏性嫌気性菌の定義を思い出してください。
偏性嫌気性菌とは、酸素分子20%を含む環境(大気)中では全く発育しない細菌のこと、でした。
つまり、死ぬのではなく増殖を止めるということなんです。
そのへんを歩いていたら、犬のうんちに出くわしたことはありませんか?
明らかに昨日のウンコやろってくらい乾燥してても、モコモコとうんちそのものが大きくなってはいないですよね。
これ、うんちに含まれる腸内細菌たちが増殖していないからです。
(犬のうんちは持ち帰りましょう)
増殖を止めているあいだ、菌たちは様々な方法で自分の身を酸素から守っていました。
空気(酸素)が嫌いでも生きられるように進化した細菌?
偏性嫌気性菌たちが誕生した当時、地球には酸素が存在していなかったそうです。
約30億年前にシアノバクテリアが誕生し、光合成によるO2発生が開始されると、大気中のO2濃度が徐々に上昇し始めました。
そういうわけで、今の地球に存在する大気には、おおよそ21%の酸素が含まれることになりました。
早い子は20分で1回増殖する細菌たちが、酸素環境下に適応するために進化していないと考えるほうが不自然ですよね。
この点について、下記の東京農業大学からの論文が非常に面白い考え方を示唆してくれました。
つまり、現代の偏性嫌気性菌たちは、「酸素があると生きられない」のではなく、「酸素のあるところでは増えてやらないぞ」という、好き嫌いの多い子供のような子たちではないかということです。
この、「偏性嫌気性菌たちが酸素のあるところでいかに生きながらえるか」問題が、徐々に明らかになってきています。
次回は、代表的な菌たちを例に挙げながら、見ていきましょう。
この記事を書いた人

- 研究員(菌作家)
-
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
個人ブログ→千のえんぴつ
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