妊婦さんの腸内細菌と、赤ちゃんのアレルギーリスク

ちひろです。

妊娠中は、いろいろ変わります。
見た目はもちろんですが、ホルモンバランスや性格、便の様子、体力、肌の調子まで変わってしまいます。

目に見えない菌たちも例外ではありません。

今日は、「この菌がいる妊婦さんは、赤ちゃんのアレルギー発症リスクが少ない」という研究をご紹介しながら、妊娠中に備わる菌たちのお話をします。

研究参加者と方法

Maternal carriage of Prevotella during pregnancy associates with protection against food allergy in the offspring | Nature Communications
(日本語要約版:健康:妊娠中の母親の腸内微生物が乳児の食物アレルギーのリスクを低減する | Nature Communications | Nature Portfolio

オーストラリアのディーキン大学、Peter J. Vuillerminさんたちの研究チームによる報告で、1064人のオーストラリア人のお母さんたちを対象としています。

お母さんたちは妊娠後期(29週から40週)の時点で問診に答え、赤ちゃんは1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月まで調査対象になりました。

赤ちゃんには、アレルギーの検査として牛乳、卵、小麦、ピーナッツ、ごまなどの食物や、ダニ、犬や猫などを対象としたSPTテストが行われました。

同時に、喘息やアトピー性皮膚炎の有無についても調査が行われました。

赤ちゃんのアレルギーリスクが下がる菌たち

結論から述べます。

妊娠中にPrevotella. copri(P .copri)がいるお母さんから生まれる赤ちゃんは、アレルギーの発症リスクが低かったという結果になりました。

正確には、OTUという分類学上のクラスターに分類される数字のうち、OTU41とOTU697という2つがその要素だったんですが、この論文ではそれをP. copriとして扱っています。

実は、次世代シーケンサーの癖(というが限界)みたいなもので、Prevotella属のほかの種が紛れている可能性がおおいにあります。この点については後述します。

一方、産まれた赤ちゃんの腸内細菌についてはどうなんでしょう。

新生児の腸内フローラは、ご存知のとおり生後1年ですさまじく変わります。

出産時にお母さんから受け継がれた腸内細菌は、生後しばらくは虫垂あたりに隠れて、その後の増殖に備えて必要な時期を見計らっています。

この研究では、生後6ヶ月頃にP. copriがいるかどうかが、赤ちゃんのアレルギー発症に大きく関連していました。

鋭い人は気づいたかもしれません。

そう、生後6ヶ月というと、離乳食が始まる時期。
初めて出会う食べ物たちへ誤ったアレルギー反応を起こさないよう、P. copriが増えてきていると考えられます。

深読みしていくと、面白すぎる事実。

ちなみに、P. copriの有無は、シャノンの多様度指数、Bacteroides門とFirmicutes門の比率と関連していることが多いらしいんですが、この2要素とも、アレルギーリスクには関連が見られなかったそうです。

食べるものの影響

お母さんの腸内細菌にP. copriがいるかどうかだけではなく、妊娠中に食べるものによるアレルギー発症との関連性についても示唆されています。

この論文のFig.4をぜひ見ていただきたいんですが、P. copriがいるかいないかに加えて、脂質と食物繊維をたくさん摂っているかどうかでも、アレルギー発症リスクは変化します。

アレルギーになりにくい順番に並べると、こうなります。

  1. P. copriがいる&脂質と食物繊維の摂取量が多い
  2. P. copriがいる&脂質と食物繊維の摂取量が少ない
  3. P. copriがいない&脂質と食物繊維の摂取量が多い
  4. P. copriがいない&脂質と食物繊維の摂取量が少ない

妊娠中って、食べ物の好みも変わりますよね。つわりのときは、やたらとジャンクフードが食べたくなったり。

妊娠後期ではつわりの症状が落ち着く人も多いですが、後期づわりと呼ばれる現象で、食べられるものや量が減ってしまう人もいます。

無理して食べる必要はないですが、自分の腸にP. copriがいるのかどうかわからない妊婦さんが圧倒的だと思うので、なるべく脂質と食物繊維を意識して摂るのが良さそうです。

家族構成、抗生物質の影響

研究では、妊婦さんのその他の環境についても問診しています。

マウス実験とは違い、ヒトを対象とした研究では、条件を揃えるというのがなかなかできません。
そのため、できるだけたくさんの条件を聞き出しておいて、あとでその条件ごとにデータを見比べる方法がよく採られます。

まず、家族構成。
大家族で暮らしている妊婦さんほど、P. copriの保有率が高いことがわかりました。

この要因は、家族間での菌の交換によるところが大きいのでは、と研究チームは考えています。

抗生物質とアレルギーの関連性についても、近年多数の報告があります。

研究に参加した妊婦さんのうち、妊娠後期に抗生物質を投与されたと答えた人は11人いたらしいですが、その中の誰一人としてP. copri保有者はいなかったそうです。

P. copriと次世代シーケンサー

さて、ここでP. copriという菌についてちょっとご紹介します。

実は、世間的にはP. copriという菌はいわゆる「悪玉菌」に分類されることの多い菌です。
心疾患の発症リスクを高めたり、インスリン抵抗性を高めたり、関節リウマチの患者さんによく見られる菌だという指摘もあります。

なんだか矛盾しているようですね。
結局、いい菌なのかわるい菌なのかどっちなんでしょう。それともこれは愚問なんでしょうか。

そしてもうひとつ。
実は、この論文で言及されているP. copriは、P. copriという種ではないかもしれません。

このことは論文内のDiscussionにも書かれているんですが、Miseqという次世代シーケンサーのV4を用い、OTUという単位を利用して菌を分類しようとすると、どうしても限界があります。

中でもP. copriはP. stercoreaなどの他の5つの種と非常に似通ったつくりをしていて[1]Prevotella copri sp. nov. and Prevotella stercorea sp. nov., isolated from human faeces | Microbiology Society、シーケンサーが読み間違えるおそれもあります。

さらには、P. copriが含まれるPrevotella属はMiseqのV4では検出感度が悪く[2]進化する次世代シーケンサーによる腸内細菌叢の解析、この問題に拍車をかけています。

P. copriのプロバイオティクス化についても言及されていますが、細かい種まで見るよりも、Prevotella属全体を補給してやるイメージのほうが合理的かもしれません。

妊娠中は常在細菌のバランスが変わる

妊娠中には膣内の細菌バランスが変わるというお話を、前にしたことがあります。
妊娠・出産における母から子への微生物リレーの神秘

ホルモンバランスのみならず、その他にもお腹で赤ちゃんを育てるために必要とされる材料を揃えないといけないので、非妊娠時とは常在細菌のバランスが変わっていても不思議ではありません。

実は、個人的な体験談で恐縮ですが、不思議な体験をしました。

妊娠してから月に一回フローラバランス検査をしているんですが、妊娠初期にうちの菌職人の清水さんにこんなことを言われていました。
「つわりが落ち着いて食べられるものが増えてきたら、まもなくC. clusterⅨとPrevotellaが増えてくるはずです」と。

そして先日(安定期ど真ん中の妊娠20週)の検査では、ほんまにC. clusterⅨとPrevotellaが増えていました。ちょっと鳥肌立ちました。

「なんでなん? どこの論文に書いてたん?」と問い詰めたくなりましたが、どの論文にも書いてないと思うし、書いてたとしても把握してないと思うんで、聞くのやめました。
昔の哲学者とか科学者って、こんな感じやったんかな。

しかも、増えていたPrevotellaの内訳は、上で「P. copriに非常に似ている」と書いたP. stercoreaでした。
コワイよ〜。腸が透けて見えるんだろうか。

さて、P. copriについて、いい菌なのかわるい菌なのかわからんという話をしました。

でも、妊娠中に腸内細菌のバランスが変わるのだとすれば、こんなふうに説明できるかもしれません。

「P. copriは、長期にわたり過剰に存在すると悪さをする、もしくは悪い病気を示唆する菌なのかもしれない。しかし、赤ん坊をアレルギー発症リスクから守るために、妊娠中は健康な妊婦の腸内でむしろ増える」

産まれてくる赤ちゃんを守るために一時的に頑張ってくれているPrevotellaたち。愛おしくてたまりませんな!

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
スタッフ紹介はこちら
画像をアップロード

《特許出願中》
腸内フローラ移植

腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)