Akkermansia muciniphilaが、前立腺がんに対抗する免疫力を高めるのに一役買っている可能性

一部ではファンクラブが結成されるほどのAkkermansia muciniphilaが、また人気を上げそうな報告が上がってきました。
題名のExtracellular vesiclesというのは細胞外小胞(EV)のことで[1]Extracellular vesicles: an introduction 細胞外小胞とは | アブカム、腫瘍マーカーとしての利用や、がん治療への活用も期待されているそうです。
今回の研究チームは、Akkermansia muciniphila由来のEVと前立腺がんの関係をマウス実験によって調べています。
がん細胞というのはもともと自分の細胞出身のグレてしまった子たちというのはご存知のとおり。
通常の遺伝変異した細胞なら、アポトーシスといって、これ以上自分が増えると体に悪いので空気を読んで自殺します。
しかしがん細胞は、免疫細胞が自分を排除しようとする働きを抑えることで、どんどん増殖してしまいます。
今回の実験結果
- Akkermansia muciniphila由来のEVが、CD8+という免疫細胞と、攻撃性のM-1マクロファージという免疫細胞を増やしてくれた
- Akkermansia muciniphila由来のEVが、免疫の働きを穏やかにするM-2マクロファージという免疫細胞を減らしてくれた
- これにより、がんが緩和した
免疫の働きを穏やかにする細胞は、アトピーや自己免疫疾患から人体を守る大切な仕事をしています。(Treg、制御性T細胞のこと)
けれど、がん細胞は自分が殺されたくないがためにそれを悪用しちゃうので、今回の実験は実はすごい発見なのだと思います。
使われている用語があまりにも専門的すぎて、理解に苦しんだのが悲しいところ。
専門家の方にも、一般の方にも伝えたくてなんとか記事にしてみました。
個人的に今回の実験が大きな進展だと思った理由は、腸内細菌が主役になったということ。
どういうことかというと、これまでもAkkermansiaとがんの関係性は報告されてきました。
けれどそれは、「Akkermansiaを多く腸内に持つ患者さんは、免疫療法が効きやすい」といった内容で、相関関係はあれど因果関係があるかまではよくわかっていませんでした。
今回、Akkermansia由来のEVが患者マウスの免疫細胞そのものを活性化させることが示され、がん治療において腸内細菌の活用がまた一歩近づいたのではと思っています。
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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