ASDと便移植、肥満と栄養失調の双方に腸内細菌[2021.4.19]腸内細菌最新トピック

聞いてください。
わたし、腸内細菌界隈の最新トピックの収集方法のひとつとして、Googleアラートを大量に設置しているんですが、
「なんか日本語のしょうもないニュースばっか引っかかるなあ。論文とかもっと出てるやろ」
って思ってたんです。

結局、論文はいくつかの科学・医療系の雑誌を検索して探してて、「Googleもまだまだやな」とか思ってたんです。

その原因が先週判明しました。

英語のキーワードやのに、日本語の記事しか引っかからない設定になってた。

みんなもあれやで。Googleを責める前に自分の愚かさを振り返ったほうがいいで。
というわけで、あれからわたしのgmailアドレスには、毎日大量の腸内細菌ニュースがなだれ込んでくるようになりました。
さっと目を通すだけでもめちゃくちゃ時間かかりますが、腸内細菌の研究ってすっごいことになってたんですね!(今更)

ASDの子どもの便をマウスに移植すると、マウスの行動が変化した

Fecal Microbiome Transplantation from Children with Autism Spectrum Disorder Modulates Tryptophan and Serotonergic Synapse Metabolism and Induces Altered Behaviors in Germ-Free Mice | mSystems

(↓要旨よりまとめ)
腸内細菌とその代謝物がASD(自閉症スペクトラム)にどんな影響を与えているのかを調べるため、ASDの子どもと発達が通常の子ども(TD児)の便をそれぞれ、無菌マウスに移植した実験。

結果

無菌マウスへのFMT(便移植)により、下記の結果が見られた。

  • ASD児便移植、TD児便移植ともに無菌マウスのトリプトファン・セロトニン分泌を変化させた。(腸内、脳内ともに!)
  • 腸内細菌叢の構成を変化させた。
  • 無菌マウスの行動がASD児のような行動に変化した。

(研究員からのコメント)
ASD児に下痢などの消化管症状があることや、ASD児へのFMTがASD症状軽減に有効であることはこれまでも示されてきましたが、
逆にASD児の便を無菌マウスに移植することで、マウスの脳内ホルモン分泌量や行動までも変化することが示され、ASDと腸内細菌が分かちがたく結びついていることが明らかになりました。

世界最大の便バンクOpenbiomeの運営について最新レポート

Frontiers | Stool Banking for Fecal Microbiota Transplantation: Methods and Operations at a Large Stool Bank | Cellular and Infection Microbiology

アメリカにある世界最大の便バンク、Openbiome
シンバイオシスが技術提携する一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会の直属便バンク、JapanbiomeでもOpenbiomeの運営を参考にさせていただいています。

Openbiomeのウェブサイトや、アメリカや欧州の有識者会議でもFMTのドナーバンク運営に関する方法や指針は出されています。
↓(参考リンク)

  1. FMT Protocol
    FMT国内指針運営委員会(アメリカ国立衛生研究所、アメリカ消化器病学会)(外部リンク
  2. European consensus conference on faecal microbiota transplantation in clinical practice | Gut
    欧州10カ国以上、28人の有識者会議で合意を得たFMTの臨床応用指針(外部リンク
  3. OpenBiome
    アメリカ最大の便バンクのスクリーニング項目(外部リンク

今回の論文では、Openbiomeで実際に何人のドナーがどのくらいの頻度で便を提供し、そのうち何%が実際に使用されたかといった報告がなされています。

母乳を通してベタインを摂取すると、幼少期肥満リスクが下がる

Lower risk of childhood obesity by adding betaine to the maternal diet during breastfeeding – Explica .co

スペイン料理って美味しいですよね。
つい食べ過ぎちゃいますよね。

留学してたときにスペイン人の女の子が作ってくれたスパニッシュオムレツ、最高においしかった。
致死量かってくらいのオリーブオイル入ってたけど。

そういう事情も手伝っているのか否か、スペインでは実に41%もの6〜9歳児が肥満なんだそうです。
肥満といえば、大人になってからの糖尿病や心臓病リスクを高めるなど、けっして推奨される事態ではありません。

Science Translational Medicine誌に掲載された今回の研究では、授乳期に摂取する「ベタイン」という栄養素が肥満リスクを下げるということが報告されました。

ベタイン (betaine) とは、正電荷と負電荷を同一分子内の隣り合わない位置に持ち、正電荷を持つ原子には解離しうる水素が結合しておらず(四級アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどのカチオン構造をとる)、分子全体としては電荷を持たない化合物(分子内塩)の総称である。

ベタイン – Wikipedia

まったくもって意味不明です。
話を簡単にしましょう。

全粒粉、ほうれん草、ビーツ、キヌアなんかに多く含まれているので、それを食べればいいようです。
ただお察しのように、これはスペイン人の話なんで、日本人は何食べたらええねんって話になります。
キヌアとかビーツを日常的に食べてる日本人が、どれほどおると思う?

我々に馴染みの深い食材で言うと、タコ・イカ・エビ・カニ・貝・米・きのこなんかに多く含まれているそうです。
「海鮮系のサブキャラと、きのこご飯」とおぼえましょう。

サブキャラとか言ったら、カニ好きに張り倒されるかもしれんな。
わたしは鯛とカツオのたたきが好きです。

ちなみに、ベタインを多く摂取した乳児は腸内にAkkermansiaという菌たちが増えていたことも明らかになりました。
このAkkermansia、糖尿病や肥満界隈では「ヤセ菌」と呼ばれることもある菌です。
これがあるから痩せるかどうかはわかりませんが、何らかの関連性はありそうですね。

栄養失調の子どもにはカロリーではなく腸内環境ケアを

For malnourished children, a new type of microbiome-directed food boosts growth – Washington University School of Medicine in St. Louis

世界には、5歳以下だけで1億5千万人もの栄養失調の子どもたちがいます。
飽食や腸内細菌による肥満や糖尿病に苦しむ先進国の民なんて、みんな飢えればいいのかもしれないといった類の議論はここではしないでおきましょう。

今回、ワシントン大学の研究チームがバングラディシュである実験を行いました。
一言でいうと「カロリーベースではなく、腸内細菌に焦点を当てた栄養療法で栄養失調を治療する」といったコンセプトのものです。

片方のグループの子どもたちが食べたのは、腸内細菌を整えるための食事。
内容はひよこ豆、大豆、バナナ、ピーナッツなど、事前の研究で腸内細菌を回復させることが確かめられた食べ物から構成されています。

もう片方は、これまで用いられていた、米とレンズ豆を主体とした食事。こちらは上記の食べ物よりも20%多めのカロリーを設定されました。

結果は前者の圧勝。
カロリーをベースとした栄養療法よりも、腸内細菌を改善させる食事のほうが子どもたちの成長に貢献したのです。

研究者たちは、妊娠中の女性にも同様の食事を提供する計画を考えているそうです。
彼女たちが将来的に産む子どもたちに良好な腸内細菌叢を引き継がせ、この負の栄養失調連鎖を止めることができるかもしれないと考えているからです。

もし、肥満や飢餓が「人間が人間である以上避けられない構造である」みたいな悲しい類のものでないとしたら、
腸内細菌が世界平和に役立ってくれるという構想は夢ではないのかもしれません。

腸内細菌が、がん治療の次の柱になる

Changing the paradigm: Microbiome modulation may become the next ‘pillar’ in cancer treatment

腸内細菌とがんの関連については、まだ明確なことはわかっていません。

けれど、特定のがんにおける免疫療法の効き方に腸内細菌が影響していることなどが徐々に明らかになりつつあり、今がん治療の分野でも腸内細菌が注目されていることはけっして否定できません。

このたび、American Association for Cancer Research (AACR)の2021会合が開かれ、がん治療における次の柱として腸内細菌が挙げられました。

具体的な発言としては、
AkkermansiaやBifidobacterium、Faecalibacteriumなどの菌たちが豊富にいることで免疫療法の効果が上がる点や、免疫療法の前に抗生物質治療を施すと効果が下がることなどがありました。

がんは部位や病態によって挙動が違うこともあり、腸内細菌だけで治療することはまだまだ難しいでしょう。

けれど、患者さんの体を傷つけてしまう今の標準治療に限界が見えつつある今、希望の光として白羽の矢が立っているのもまた腸内細菌と言えるでしょう。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
スタッフ紹介はこちら
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《特許出願中》
腸内フローラ移植

腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)