腸内細菌と人類の歴史 ~ネアンデルタール人の腸内フローラ~
全部の学問が微生物で繋がると思うウィリアです。
なんで、腸内細菌ではなく微生物という言葉を使っているかというと、実は、腸内フローラに含まれるのは細菌、真菌、古細菌、ファージなど…
腸内細菌だけじゃなくて、とんでもなく多様な微生物がいるからです(腸内だけじゃなくて目や口や皮膚など、体のあらゆるところに微生物はいます)
なので、腸内細菌だけだと、他の微生物が含まれないので、腸内フローラという言葉を使っているのですが…
世界的にはマイクロバイオータ、マイクロバイオーム、ホロビオントなど、いろんな定義があるので、表現の仕方が難しいです…
僕もどこか間違って言葉を使ってしまっているかもしれないので、注意して発信していきます。
この言葉の定義も、どこかで解説したいと思っています。
今回はネアンデルタール人の腸内フローラについて書きたいと思います。
次世代シーケンサーが登場してきてから、人類学の分野にも、とんでもない影響が出ているのではないかと、個人的には思っています。
理由は、
「微生物って、こんなに人類の進化に関わってきてたの…?」
ということが、次世代シーケンサーが登場してきた、ここ20年くらいの間にわかってきたからです。
それまでは、寒天培地で培養できる微生物のことしかわかっていなかったので、何も微生物について、人類は知らなかったに等しいです。
ヒトの発達、認知、免疫、代謝、遺伝子の発現などの多くの生理機能に、体にいる微生物たちが関わっています。
この微生物たちが食べるものや環境の変化に対応するためのパートナーとして、人類の進化の歴史に組み込むことが注目されるようになってきています。
微生物というミクロな視点から見ることにより、僕たち人類のことだけじゃなくて、犬や猫や他の動物たち、植物、大地や海の物質の循環、マクロな宇宙のことまで全てが繋がってくる…
一見、無関係のものが繋がってくる、南方熊楠のいう「萃点」の発想を、微生物から知ることができます。
前振りが長過ぎて話が脱線してしまいそうなので、早速、ネアンデルタール人の腸内フローラについて書いていきたいと思います。
目次
1.化石から何がわかるか?
健康な食事とは?でも、チラッと紹介したのがこちらの論文、
スペインにあるイベリア半島の南東部にあるエル・ソルト遺跡から見つけた5万年前のネアンデルタール人の糞石(コプロライト)を次世代シーケンサーで解析して、腸内フローラの構成を書いた論文です。
今まで見つかった人類の糞の化石の中で、最も古いもののようです。
足跡や糞や歯石など生物が活動した痕跡が化石として発見される場合があって、それを生痕化石といいます。
「糞を調べて、何がわかるんだ?」
と思う方もいるかもしれませんが、
「便は生命現象のお便りで、本当に重要なことを教えてくれます」
例えば、何を食べていたかや、どういう栄養状態だったか、どのような病気を患っていたか、どのような認知機能を持っていたか…
などなど、本当に便から、たくさんのことがわかります。
なぜわかるかと言うと、便のなかにいる微生物の種類によって、微生物の代謝産物(短鎖脂肪酸、ビタミン、神経伝達物質(ドーパミンやセロトニンなど)、体内水素)がわかるからです。
どれも免疫や精神状態、人が生きるために必須の栄養や物質を微生物がつくってくれています。
2-1. ネアンデルタール人の腸内フローラ
ネアンデルタール人の腸内フローラを見ると、現代人の腸内で有益と考えられている常在菌、
Blautia
Coprococcus
Dorea
Fusicatenibacter
Roseburia spp
Ruminoccaeae
などが検出されました。
特にRuminoccaeae科には、Anaerotruncus属、Ruminococcus属、
Subdoligranulum属のほか、酪酸を産生するFaecalibacteriumが検出されました。
これらの細菌は難消化性炭水化物の発酵から短鎖脂肪酸(主に酢酸と酪酸)を生産することができます(シンバイオシス研究所では微生物の代謝のバトンリレーという表現をしています)
ここから、ネアンデルタール人は植物を食べていたことがわかります。
さらに、コレステロールをコプロスタノール(環境中における人糞の存在のバイオマーカー(病気の進行や薬剤の効果など、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標となる物質))にするコレステロール還元能力が高い腸内細菌たちが、ネアンデルタール人に多かったこともわかったようです。
コレステロール還元能力があると思われる腸内細菌は、
Bifidobacterium
Collinsella
Bacteroides
Prevotella
Alistipes
Parabacteroides
Enterococcus
Lactobacillus
Streptococcus
Eubacterium
Lachnospiraceae
Coprococcus
Roseburaceae
Coprococcus
oseburia
Ruminococcaceae
Anaerotruncus
Faecalibacterium
Ruminococcus
Subdoligranulum
などがいるのですが…
コプロスタノールの産生は論文でも意見がわかれているところなので、これから菌の種類は変わってくるかもしれません。
おそらく、ネアンデルタール人はコレステロールを多くとっていて、動物の肉も食べていたということがわかります。
草食と肉食
ネアンデルタール人は雑食であったことが腸内細菌から推測できます。
2-2. 虫歯や歯周病があった?
ネアンデルタール人の口腔内細菌を調べると、
Methanobrevibacter oral
Methanobrevibacter oralis
Scardovia inopinata
Streptococcus parasanguinis Streptococcus sanguinis Pseudoramibacter alactolyticus Catonella morbi, Johnsonella ignava Lachnoanaerobaculum saburreum Shuttleworthia satelles Stomatobaculum longum
Treponema maltophilum
T reponema medium
Treponema socranskii
T reponema vincentii
などが検出されました。
これらは現代のヒトの口腔・歯科疾患と関連があるとされているので、ネアンデルタール人も虫歯や歯周病に悩まされていたようです。
3. 現代人とネアンデルタール人の腸内フローラを比べて
ネアンデルタール人と現代人の全体的な腸内フローラの構成を比較すると、都市部の西洋人の腸内フローラよりも農村の農耕民や狩猟採集民の「祖先」の腸内フローラに似ているようです。
これにより、西洋文化圏では腸内細菌の多様性が大幅に失われて、腸内細菌叢異常(ディスバイオシス)による自己免疫疾患や炎症性疾患が増加しているという現代において、どのような腸内フローラが、
「健康な人の腸内フローラ」
になるのかのヒントになるのではないかと考えています。
ネアンデルタール人に、現代にも存在する腸内細菌がいたことがわかったことは、素晴らしいことだと思うのですが…
実は注意する点があって、
何万年と時間がたっているので微生物のDNAが劣化している可能性
採取時に現代人の菌が混じってしまった可能性
この2つの可能性があるため、必ずしも腸内フローラを正確に検査できなかったかもしれないと論文にも書いてあります。
この点には、十分な注意が必要だと思います。
ネアンデルタール人にもビフィズス菌がいたことや「旧友仮説」についても書きたかったのですが、またの機会に書かせてもらもらおうと思います。
次回は、火の使用による腸内フローラの変化か狩猟採集民の腸内フローラについて書きたいと思います(変わるかもしれませんが…)
最後まで読んでいただいて、ありがとうございますm(_ _)m
この記事を書いた人

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小学生の理科の授業の時に食物連鎖の図を見て、分解者になりたかったです。
その夢が叶ってか、菌のことを書くライターになれました。
菌に救われた身として、菌と人の世界を繋ぐような文章を書きたいです。
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