腸内細菌とのクロストーク
アミノ酸ってこんなにあったんだと思っているウィリアです。
慶應義塾大学、米国ハーバード大学、公益財団法人実験動物中央研究所、九州大学の共同研究で、
「腸内細菌由来のD-アミノ酸の代謝が宿主の腸管免疫を制御していることを発見しました」
らしいんです。
この論文を最初読んだ時、正直言って、何が書いてあるかわかりませんでした(笑)
なので読み飛ばしていたんです。
でも、僕の友達がこの論文を読んで「これはすごいことがわかった、感動している」って言っていたんですね。
だから、よくよく読んで見て、僕なりに解釈すると、
「遺伝子や免疫は、腸内細菌により後天的に、いかようにも変わる」
そう、とんでもないことがわかったんじゃないのかなと思います。
今回は難しい言葉がたくさん出てくるので、難しいのが苦手な方は最初と最後だけ読んでください(笑)
結論としては、やっと、腸内フローラ移植の有効性を証明できる論文が出てきた、だと思います。
目次
1 論文要約
この論文の要約は、
哺乳類の消化管に生息する腸内細菌は様々な代謝物を作っています。
我々ヒトを含めた哺乳類は、このような細菌の代謝物や断片構造を認識し、適度な免疫反応を起こしながら、細菌とうまくバランスをとって共生しています。
興味深いことに、細菌は哺乳類がつくることができない代謝物であるD-アミノ酸を利用して、自身の外壁となる構造を作り上げています。
しかし、この細菌に特徴的なD-アミノ酸が哺乳類の免疫にどう影響を与えるのか、さらに哺乳類と細菌との共生関係にどのような意味があるのか分かっていませんでした。
今回、研究グループはD-アミノ酸だけを認識して分解する哺乳類の酵素が、免疫グロブリンA(IgA)の量と質を制御して、細菌との共生を調節していることを発見しました。
IgAは粘膜バリアを形成する主要な免疫グロブリンで、腸内細菌との共生関係を調節し、病原性細菌やウイルスの感染から生体を守る役割を持っています。
哺乳類のD-アミノ酸代謝酵素が機能を失うと、腸内フローラに乱れが生じるとともに、D-アミノ酸が増加します。
これに反応して、免疫を担当するマクロファージとBリンパ球が活性化してIgAの産生を増やし、腸内フローラに対して過剰に反応してしまうことがわかりました。
つまり、宿主であるヒトは腸内細菌の合成するD-アミノ酸を認識することで免疫を調節し、細菌との共生関係を維持していることがわかりました。
ヒトと細菌との共生関係の乱れは、免疫・代謝・神経系など様々な疾患に関与することが明らかになりつつあり、本研究が発展することで、共生細菌の乱れが引き起こす病気の理解や新しい治療標的の開発につながることが期待されます。
いや~
難しいですね(笑)
重要なことは、この論文では「哺乳類」という言葉が使われているんですね。
マウス実験などで蓄積してきた知識が、「ヒト」でも同じことが言えるだろうということなんだと思います。
しかも、「ヒトと細菌との共生関係の乱れは、免疫・代謝・神経系など様々な疾患に関与することが明らかになりつつあり・・・」なんですよね。
免疫・代謝・神経系の疾患となると、もう、あらゆる病気の原因がヒトと細菌の共生関係にあるのでは?と思ってしまいます。
腸管免疫については、ちひろさんが書いたこちらのシリーズでおさらいしてみてください。
免疫の要、腸管免疫のしくみ【腸と免疫シリーズ6】
2 D-アミノ酸とは?
まずは、D-アミノ酸とは、なんぞや?というところを、僕なりに説明しようと思います。
アミノ酸はすべての生命現象をつかさどっているタンパク質の基本構成単位です。
自然界には500種類くらいのアミノ酸があるのですが、ヒトは20種類のアミノ酸から構成されています。
このアミノ酸20種のうち、グリシンを除く19種は光学異性体と言ってD-アミノ酸とL-アミノ酸があるんです。
光学異性体は、我々の住む世界が三次元であるため生じる異性体のようです。
D-アミノ酸はL-アミノ酸とエネルギー的には等価なんですけど、不思議なことに生命活動の多くは、L-アミノ酸優位に用いられるんですね。
これをホモキラリティといいます。
キラリティとは実像と鏡像が重なり合わない物質の特徴で、ホモキラリティとは実像または鏡像のどちらかに偏って物質が存在していることをいいます。
生命には多くのホモキラリティが知られていて、アサガオの蔓は多くは右巻きで、カタツムリの殻も多くは同じく右巻きで、ヒトも一見左右対称ですが、肝臓は右で胃は左にあるホモキラリティな存在です。
ホモキラリティの由来は謎に包まれていますが、分子レベルの生命活動にもホモキラリティが知られていて、DNAの右巻き螺旋やタンパク質高次構造など、生命活動に不可欠な分子の高次構造形成には、構成分子のホモキラリティが必須であり、分子のホモキラリティが生命活動の根底を支えているといっても過言じゃないんです。
その代表がD-糖とL-糖、D-アミノ酸とL-アミノ酸なんですね(単糖にもDとLがあるみたいです)
………いろいろと調べて書いたのですが、謎な部分も多く、難しいです(笑)
D-アミノ酸で大事なことは、
ほとんどの生命体はL-アミノ酸を用いているが、
「細菌」は、L-アミノ酸をD-アミノ酸に相互変換するアミノ酸ラセマーゼという酵素を持っていて、D-セリンなど例外的に特定の真核生物で合成されるものもあるがD-アラニンは細菌が特徴的に合成し、細菌細胞壁の材料として不可欠であり、
「ヒトは腸内細菌の合成するD-アミノ酸を認識することで免疫を調節し、細菌との共生関係を維持していること」だと思います。
さらに、D-アミノ酸の一部は脳内で合成され、神経伝達物質として神経活動に関係しているという発見もあるので、精神疾患とも関連していると思われます。
3 哺乳類の出すD-アミノ酸酸化酵素(DAO)
どうやって免疫を調節して細菌との共生関係を維持しているかというと、D-アミノ酸だけを認識して分解する哺乳類のD-アミノ酸酸化酵素(DAO)によってなんですね。
この前の研究では、腸内細菌叢が実際に腸内でD-アミノ酸を作るのか否かを、腸内細菌叢を持つマウスと持たない無菌マウスの腸内D-アミノ酸量を比較し、D-アラニン、D-グルタミン酸、D-プロリンなど、哺乳類が生合成できないD-アミノ酸を腸内細菌叢のみが大量に作っていることがわかり、DAOは腸内細菌によって小腸に発現誘導され、腸内細菌が作るD-アミノ酸量を調節していることを明らかにしたようです。
このDAOがどのような働きをしているのか調べるために、DAOの活性を欠損したマウス(DAO変異マウス)をつくりだしたところ、細菌に由来するD-アミノ酸が体内で野生型の10倍量にまで蓄積して小腸の形質細胞が増えてIgAを5倍以上産生するんですね。
そして、DAO変異マウスに抗生物質を投与して腸内細菌を減らすと、IgAの増加が認められなくなることから、DAOはD-アミノ酸調節のみならず、腸内細菌が誘導するIgAの産生にも関わっていることがわかったようです。
IgAは粘膜において細菌やウイルスを補足し、宿主への侵入を抑える抗体の一種で感染のない状況でも恒常的に産生され、いろいろな菌に緩く結合する型と、特定の菌やウイルスに特異的かつ強力に結合する型が存在するんですね。
そして、過剰産生によりIgA腎症などの「自己免疫疾患」の原因にもなりうる。
逆に、僕は潰瘍性大腸炎なのですが、便の成分を検査する総合便検査ではIgAがめちゃくちゃ少ないんです。
IgAの量や質で自己免疫疾患や炎症性疾患になってしまうのは、やはり抗生物質が原因の一端ではないかと、僕はここから推測しています。
4 D-アミノ酸とDAOが遺伝子、免疫を変える
IgAを産生する形質細胞は、もともとB細胞が成熟してできた細胞で、この成熟過程にはT細胞が関与する経路と関与しない経路があるんですね。
これを調べるために、T細胞受容体が欠損したDAO変異マウスを作成し実験したところ、
マクロファージは、D-アラニンを細菌による刺激と認識し、B細胞を増やす指令を出します。
そこへ粘膜刺激性の高い細菌群がTリンパ球を刺激することで、B細胞が形質細胞へ分化するのが促進され、IgAが産生されると考えられます。
DAOはD-アミノ酸を分解すること、粘膜刺激性の細菌を制御する、この2つの方法でB細胞の過剰な反応を抑え、腸内細菌との共生のバランスを保つ働きをしています。
ということがわかったんです。
見やすい図があったので、お借りしました。

( https://www.amed.go.jp/news/release_20210304-01.html ウェブサイトより引用 )
マウスの実験なので、ヒトにセグメント細菌がいるのか?などの問題はあるのですが、めちゃくちゃ興味深いのは「炎症性サイトカイン」なんです!
形質細胞になる前段階のB細胞は、T細胞の刺激の有無に関わらず増加していて、
これらのマウスの小腸粘膜の上皮組織の遺伝子発現を解析したところ、
炎症性サイトカイン(TNFα、IL1β、IFNγなど)を含め、
免疫応答に関わる遺伝子の発現が有意に増加していることがわかったんですね!
さらに培養したマクロファージの細胞を用いた実験で、
細菌がつくるD-アラニンがマクロファージを直接刺激し、
炎症性サイトカインの産生を増加させる結果、
B細胞数を増やすことを発見したんです!
いや~
素晴らしい!
炎症性サイトカインは細菌やウイルスが体に侵入した時に撃退して体を守る重要な働きがあるのですが、
これらが過剰に産生されるから、僕たちヒトは体中に辛い炎症が起こって病気になると言っても過言じゃないんですね。
(なのでほとんどの病気の治療ガイドラインの第一選択肢には非ステロイド性抗炎症薬やステロイドがあり、効かないとTNFα阻害薬など強い薬になっていきます)
その、炎症性サイトカインの免疫応答に関わる遺伝子の発現に「腸内細菌」が関わっている…
遺伝子や免疫の教科書が書き変わるほどの、本当に素晴らしい発見です。
5 あらゆる病気の原因
まとめると、
腸内細菌の出すD-アミノ酸だけを認識して分解する哺乳類のDAOが、IgAの量と質を制御して、腸内細菌との共生を調節し、宿主の炎症性サイトカインを含む免疫応答に関わる遺伝子の発現に関わっている。
遺伝子や免疫が後天的に、「腸内細菌」と「宿主」との共生関係により変わってしまう。
僕の推測なのですが、
D-アミノ酸とDAOはT細胞がTregやTh1、Th2に分化するのに関わり、B細胞が成熟してできる形質細胞が産生する免疫グロブリン(IgA、igG、igM、IgD、IgE)の種類と量と質を制御して、細菌との共生関係を調節しているのでは?
免疫・アレルギー性疾患、炎症性疾患、代謝性疾患、神経疾患、あらゆる病気が、
1. DAOの異常なのか?
2. D-アミノ酸を出す細菌の問題なのか?
この2択に絞られるのではないか?と思っています。
こういったことから、まだまだ解明されていない腸内フローラの多様性を抗生物質で安易に失わせてしまうのは、益よりも、圧倒的に害の方が大きいと、僕は思います。
また一つ、菌達の言葉がわかり、菌達の力を借りる「腸内フローラ移植」によって、病気を治そうとするシンバイオシス研究所は、間違っていなかったと確信する論文でした。
この記事を書いた人

- ライター
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小学生の理科の授業の時に食物連鎖の図を見て、分解者になりたかったです。
その夢が叶ってか、菌のことを書くライターになれました。
菌に救われた身として、菌と人の世界を繋ぐような文章を書きたいです。
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《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)