ちょうどいい炎症状態って? 免疫のエンジンとブレーキ、Th17とTreg

ちひろです。

先祖の人たちの頑張りのおかげで、わたしたちには徒歩以外で移動するための手段がたくさんあります。
カゴ、馬、自転車、車、電車、新幹線、船、飛行機。

お気に入りの移動手段ってあります?
わたしは徒歩です。(先祖の努力が)

どんな移動手段にも共通するのが、前に進む力とそれを抑える力ですよね。
つまりエンジンとブレーキ。

エンジンかブレーキのどちらかがない車があったとしたら、たとえ無料でも売れないと思います。

というわけで今日は、免疫におけるエンジンとブレーキの話をします。(話の導入へたくそか)

T細胞ってどんな子たち?

この世界は天国ではありません。(何が始まった)

何者からも守られ、のんびりゆったりと暮らしていても決して病気にならず、怪我もしないなんてことはありえないわけです。

場所と時間を限定すれば、そんな夢物語も存在するのかもしれません。
でも、現実の世界は過酷です。
いろんな人がいて、いろんな菌やウイルスがいて、いろんな食べ物を食べる。

そんな中で、わたしたちの肉体が無事に生きていけるのは「免疫」のおかげと言ってもいいでしょう。

わたしたちの身体をつくる細胞には、免疫細胞(=白血球)という細胞たちがいます。
様々な種類が存在する免疫細胞は、チームを組んで免疫システムを構築しています。

白血球のうちの、リンパ球という仲間の中にT細胞たちがおります。
T細胞の中にもいろいろな種類がおりますが、みんな胸腺という組織で生まれます。胸腺は、17歳くらいまでにほぼその働きを完了します。

免疫システムについておさらいしたい方は、よかったら腸と免疫シリーズの記事をご覧ください。

Th17細胞と制御性T細胞(Treg)の絶妙なバランス

T細胞たちのうち、今日スポットを当てるのはTh17細胞と制御性T細胞(Treg)です。

T細胞の中でも「Th」という枕詞を持つ免疫細胞は複数あります。
これらはヘルパーT細胞と呼ばれ、Th1、Th2、Th17なんかがそれにあたります。

この子たちは、キラーT細胞などに見られる「病原体を直接攻撃する」という特徴は持っていません。
代わりに「炎症性サイトカイン(インターロイキンなど)」という信号を出して、他の免疫細胞たちを活性化(エンジン)させます。

制御性T細胞(Treg)は逆に、他の免疫細胞たちが暴走して自分の身体を攻撃し始めたりしないように、ブレーキをかけてくれます。

免疫システムがきちんと働くためには、このエンジンとブレーキの絶妙なバランスがとっても大事です。

特にTh17細胞とTregに関しては、わたしたちの友人である腸内細菌たちが重要な役割を担っていることがわかってきました。[1]デイビッドモントゴメリー, & アンビクレー. (2016). 土と内臓: 微生物がつくる世界.

免疫システム内で腸内細菌の果たす役割

免疫といえば、病原菌などの微生物が主な標的であるはずです。
それを守るのに、わたしたちの身体の微生物が一役買ってくれているなんて、なんかターミネーターみたいでわくわくしません?

ちなみに、シュワちゃんの筋肉具合、かなりタイプです。

菌同士で選抜を行う

ご存知のとおり、わたしたちの身体(主に腸)には、菌たちをはじめとする微生物がたくさん暮らしています。

彼らは宿主であるヒトの食べるもの、日々の生活、体調などに合わせて微妙にバランスを変えていきながら、基本的には安定したコミュニティを築いて暮らしています。

《もっと詳しい》免疫の要、腸管免疫のしくみ【腸と免疫シリーズ7】でも書きました。

そのコミュニティに暮らす菌たちが、わたしたちが分解できない食物繊維を分解して、糖として自分たちの増殖に利用し、
その排泄物としてビタミン、乳酸、酢酸、酪酸などヒトの身体に必要な成分を作って供給してくれています。

病原菌が侵入してきた場合、菌たちは自分たちの安定したコミュニティを崩されないように、できるだけその菌を排除する方向へ働きかけます。
えらいですよね。

まあ、この機能のおかげで、ヨーグルトとかサプリメントをせっせと摂取しても、腸内細菌コミュニティ内にはなかなか定着せんっていうデメリットはあるけども。

腸粘液層を分厚くする

消化管はちくわであり、腸管は身体の外側である。
そんなことがよく言われます。

わたしたちの身体には、細胞数にして数千兆もの菌たちが暮らしていますが、実は彼らが住んでいるのはちくわの外、あるいは空洞部分だけなんです。

ちくわの身の部分に菌が入ってしまうと、病気になってしまいます。

それにも関わらず、大腸の壁は細胞たった1つ分の厚みしかありません。
そのため、特に菌の数が多い大腸には、腸粘液・腸粘膜などの働きにより菌たちが大腸の細胞組織内に入り込めないような仕組みがあります。

病原菌を含む菌たちがヒトの身体の内側に入り込んでしまわないよう、腸内細菌たちはなんと腸粘液層を分厚くする働きも担っているんです。

つまり、自分たちが入り込むべきではない場所をちゃんとわかっていて、そのためのバリアを自分たちで作っているということ。えらすぎ。[2]Paone, P., & Cani, P. D. (2020). Mucus barrier, mucins and gut microbiota: The expected slimy partners? Gut69(12), 2232-2243. https://doi.org/10.1136/gutjnl-2020-322260

※ただし、一部の細菌は粘液層をくぐり抜け、腸陰窩・粘膜に入り込んで暮らしているという最新の発見もあります。今までの常識を覆す、画期的な発見ですね。[3]デイビッドモントゴメリー, & アンビクレー. (2016). 土と内臓: 微生物がつくる世界. P164[4]Pédron, T., Mulet, C., Dauga, C., Frangeul, L., Chervaux, C., Grompone, G., & Sansonetti, P. J. (2012). A crypt-specific core microbiota resides in the mouse … Continue reading

IgAを調節する

T細胞とは別に、B細胞という免疫細胞たちがいます。
この子たちは、直接攻撃ではなく「Igなんとか」という武器を作って病原体に対抗します。

このIgなんとかのうち、IgAに関してはちょっと他と働きが違います。
IgAは、仲間になってくれる菌を見分けて、他の免疫細胞たちが攻撃しないように守る信号を出します。

このIgAが働く上でも、腸内細菌との協業が欠かせません。[5]Pabst, O., & Slack, E. (2019). IgA and the intestinal microbiota: The importance of being specific. Mucosal Immunology13(1), 12-21. https://doi.org/10.1038/s41385-019-0227-4

Th17細胞、Tregのバランスを調整する

やっと今日の本題です。

免疫力が適切に働くためには、T細胞をはじめとする免疫細胞たちが過不足なく攻撃力を備えていることが大事です。
さらに、これまで書いてきたような、腸内細菌の役割も大切です。

免疫細胞と腸内細菌、この両者の橋渡しを担っているのが、Th17細胞やTregです。
彼らは「炎症レベル」を調節して、免疫細胞がどのくらい武装して出かけるのが、今身体にとって必要かということを免疫細胞たちに教えます。

このとき、Th17細胞とTregはまさに免疫細胞のエンジンとブレーキとして働くわけですが、彼らに病原体の情報を教え、武装の程度を裏で調節しているのも実は腸内細菌たちです。[6]Atarashi, K., Tanoue, T., Oshima, K., Suda, W., Nagano, Y., Nishikawa, H., Fukuda, S., Saito, T., Narushima, S., Hase, K., Kim, S., Fritz, J. V., Wilmes, P., Ueha, S., Matsushima, K., Ohno, H., Olle, … Continue reading[7]Gaboriau-Routhiau, V., Rakotobe, S., Lécuyer, E., Mulder, I., Lan, A., Bridonneau, C., Rochet, V., Pisi, A., De Paepe, M., Brandi, G., Eberl, G., Snel, J., Kelly, D., & … Continue reading[8]Ivanov, I. I., Atarashi, K., Manel, N., Brodie, E. L., Shima, T., Karaoz, U., Wei, D., Goldfarb, K. C., Santee, C. A., Lynch, S. V., Tanoue, T., Imaoka, A., Itoh, K., Takeda, K., Umesaki, Y., Honda, … Continue reading[9]Wu, H., Ivanov, I. I., Darce, J., Hattori, K., Shima, T., Umesaki, Y., Littman, D. R., Benoist, C., & Mathis, D. (2010). Gut-residing segmented filamentous bacteria drive autoimmune … Continue reading

数ある腸内細菌の免疫における役割の中でも、この機能がとても注目されています。
なぜなら、この調節がうまくいかなくなることによる病気の発症がすごく増えているからです。

急性炎症と慢性炎症

炎症は本来、免疫が正常に働いているサインでした。
怪我をして細菌が入り込んだ箇所が腫れるのも、風邪をひいて熱が出るのも、免疫細胞がしっかり働いてくれるための警報の役割を果たしているからです。

けれど、炎症のスイッチが入り続けている状態、いわゆる慢性炎症がわたしたちに新たな病気をもたらしています。

炎症のきっかけは、ささいなものです。

  • 腸内細菌のバランスが崩れることで、炎症のエンジンとブレーキのバランスが少しだけ狂った
  • 食べるものに含まれる人工的な物質に身体が反応した
  • 電子機器、化学物質などに身体が反応した
  • 日常生活でストレスを感じた

こういった、致命的ではない抗原(免疫の攻撃対象になりうるもの)がゆるやかに与えられ続けると、免疫のスイッチはずっとオンになってしまいます。

その結果、まったく何の問題もない自分の細胞を攻撃し始めたり(自己免疫疾患)、毒ではない食べ物に悪い反応を起こしたり(アレルギー)し始めます。

さらに、免疫が活性化するということは、異常が発生している細胞を殺して、新しい細胞を作ろうとする動きも活発になります。
通常よりも過度に速いスピードで複製を強いられた細胞はコピーミスを起こし、それが積もり積もるとガン化します。

免疫細胞と腸内細菌のチームプレーは、神がかっています。
彼らが本来の力を発揮して「ちょうどいい炎症」を起こせるよう、わたしたちにできることを真剣に考え始める時期かもしれません。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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References

References
1 デイビッドモントゴメリー, & アンビクレー. (2016). 土と内臓: 微生物がつくる世界.
2 Paone, P., & Cani, P. D. (2020). Mucus barrier, mucins and gut microbiota: The expected slimy partners? Gut69(12), 2232-2243. https://doi.org/10.1136/gutjnl-2020-322260
3 デイビッドモントゴメリー, & アンビクレー. (2016). 土と内臓: 微生物がつくる世界. P164
4 Pédron, T., Mulet, C., Dauga, C., Frangeul, L., Chervaux, C., Grompone, G., & Sansonetti, P. J. (2012). A crypt-specific core microbiota resides in the mouse colon. mBio3(3). https://doi.org/10.1128/mbio.00116-12
5 Pabst, O., & Slack, E. (2019). IgA and the intestinal microbiota: The importance of being specific. Mucosal Immunology13(1), 12-21. https://doi.org/10.1038/s41385-019-0227-4
6 Atarashi, K., Tanoue, T., Oshima, K., Suda, W., Nagano, Y., Nishikawa, H., Fukuda, S., Saito, T., Narushima, S., Hase, K., Kim, S., Fritz, J. V., Wilmes, P., Ueha, S., Matsushima, K., Ohno, H., Olle, B., Sakaguchi, S., Taniguchi, T., … Honda, K. (2013). Treg induction by a rationally selected mixture of clostridia strains from the human microbiota. Nature500(7461), 232-236. https://doi.org/10.1038/nature12331
7 Gaboriau-Routhiau, V., Rakotobe, S., Lécuyer, E., Mulder, I., Lan, A., Bridonneau, C., Rochet, V., Pisi, A., De Paepe, M., Brandi, G., Eberl, G., Snel, J., Kelly, D., & Cerf-Bensussan, N. (2009). The key role of segmented filamentous bacteria in the coordinated maturation of gut helper T cell responses. Immunity31(4), 677-689. https://doi.org/10.1016/j.immuni.2009.08.020
8 Ivanov, I. I., Atarashi, K., Manel, N., Brodie, E. L., Shima, T., Karaoz, U., Wei, D., Goldfarb, K. C., Santee, C. A., Lynch, S. V., Tanoue, T., Imaoka, A., Itoh, K., Takeda, K., Umesaki, Y., Honda, K., & Littman, D. R. (2009). Induction of intestinal Th17 cells by segmented filamentous bacteria. Cell139(3), 485–498. https://doi.org/10.1016/j.cell.2009.09.033
9 Wu, H., Ivanov, I. I., Darce, J., Hattori, K., Shima, T., Umesaki, Y., Littman, D. R., Benoist, C., & Mathis, D. (2010). Gut-residing segmented filamentous bacteria drive autoimmune arthritis via T helper 17 cells. Immunity32(6), 815-827. https://doi.org/10.1016/j.immuni.2010.06.001
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