潰瘍性大腸炎(UC)に対する便移植(FMT)の効果と安全性を論文5本から読み解く

ちひろです。

「潰瘍性大腸炎(UC)に対する便移植(FMT)の効果と安全性を論文5本から読み解く」なんてタイトルをつけておきながら、読み解いたのはわたしではありません。

中国の研究者Min Chenさんたちが、ものすごく専門的にまとめてくれたやつです。
なので信ぴょう性が高いと思われます。安心してください。

でもそれを読み解いたのがわたしであることで信ぴょう性が…(ええから本題いこ)

潰瘍性大腸炎に対する治療としての便移植(FMT)の効果をまとめる

論文タイトルは”Fecal Microbiota Transplantation as Therapy for Treatment of Active Ulcerative Colitis: A Systematic Review and Meta-Analysis”
[1]Liu X, Li Y, Wu K, Shi Y, Chen M. Fecal microbiota transplantation as therapy for treatment of active ulcerative colitis: a systematic review and meta-analysis. Gastroenterology Research and Practice.
とあります。

長ったらしいタイトルっていうのが医学論文の定石ですが、おかげでわたしたちは「ザーッ」とGoogleアラートで見ただけで、それが読むべき論文かどうか判断できるんで、めっちゃありがたいんですよね。

小説みたいに「夏への扉」とかがタイトルやったら、ページを開くまでどんな話かさっぱりわからんもんな。

このタイトルを直訳すると、「潰瘍性大腸炎に対する治療としての便移植(FMT):システマティックレビューとメタアナリシス」となっています。(後半どう訳したらいいかわからんかってんな。よしよし)

彼らの今回の目的はこうです。
「CDI(クロストリジウム・ディフィシル感染症)にはものすごく効く便移植は、他の疾患(炎症性腸疾患とか、過敏性腸症候群とか、自閉症とか)にも試されてるやん。
でも、潰瘍性大腸炎に対する便移植の効果とか安全性って、まだ論争の的になってると思うねん。
だから我々、エビデンスの質が高い文献だけをもとに、最新のシステマティックレビューとメタアナリシスをアップします!」

殊勝な心がけ。
みんな好き勝手研究して論文書いたりするけど、こうやってまとめてくれる人がいるから、全体として何が明らかで何が明らかでないかわかるし、研究も進めやすくなるわけやから、感謝せねば。

まとめた5文献を選んだ基準4つ

今回の分析では、4つの基準に沿って文献を選出しています。

1, FMT実施群とコントロール群の両方を用いて比較していること。
2, 18歳以上を対象としていること。
3, 症状の緩和、内視鏡検査での寛解診断、FMTの安全性に対する言及を含む臨床的有効性のデータがあること。
4, コントロール群として用いた方法が、プラセボか自家移植(自分の便を自分に移植する方法)のどちらか。

例えば投与経路が大腸内視鏡、経鼻チューブ、浣腸によるなど、もちろん文献によって細かな違いはありました。
ただ、上で記載した4つ以外の違いについては文献選出のポイントとはせず、あとで「サブアナリシス」と呼ばれる方法で比較されることになります。

すごいよな。
統計学が最強の学問やで! みたいな本が一時期売れてましたが、正しいかどうかはともかくとして、統計学っていろんな要素を加味して考えなあかんからめっちゃ難しそう。

彼らはまず、「便移植 潰瘍性大腸炎」でググりました。(あたりまえやけど、正確にはちょっとちゃうで。だって中国の人やし、たぶん英語でググってはるし、しかもGoogleじゃなくて論文検索専用のサイトで検索したんかもしれん)

ダブっている文献を除くと1,336件もヒットしたんですが、そこから今回の分析に値すると判断され、彼らが入手できた文献はなんとたったの5件[2]J. Crothers, Z. Kassam, M. Smith et al., “Tu1893 – a double-blind, randomized, placebo-control pilot trial of fecal microbiota transplantation capsules from rationally selected donors in … Continue reading[3]N. G. Rossen, S. Fuentes, M. J. van der Spek et al., “Findings from a randomized controlled trial of fecal transplantation for patients with ulcerative colitis,” Gastroenterology, vol. 149, no. … Continue reading[4]S. P. Costello, P. A. Hughes, O. Waters et al., “Effect of fecal microbiota transplantation on 8-week remission in patients with ulcerative colitis: a randomized clinical trial,” JAMA, vol. 321, … Continue reading[5]S. Paramsothy, M. A. Kamm, N. O. Kaakoush et al., “Multidonor intensive faecal microbiota transplantation for active ulcerative colitis: a randomised placebo-controlled trial,” Lancet, vol. 389, … Continue reading[6]P. Moayyedi, M. G. Surette, P. T. Kim et al., “Fecal microbiota transplantation induces remission in patients with active ulcerative colitis in a randomized controlled trial,” Gastroenterology, … Continue reading

え、その他の論文って何やったん? って思いますよね。そう、医学論文っていうのは案外そんなもんです。
ヒトの体のことが完全にはわからないから、病気が治せないわけです。
いつだって不完全で、不十分。
Perfectly imperfectって誰かが言ってました。それが人間の所業です。

とにかく、その5件を穴が空くほど読んで、分析してくださったのが今回の文献です。

文献の結果の判断ポイント

文献を比較して安全性と効果を見定めるために重視したポイントは、主に3点です。

  • FMT実施の12週間後における内視鏡検査での寛解判断
  • 臨床症状の緩和、内視鏡検査での寛解両方の判断
  • 有害事象の有無など、FMTの安全性における情報

潰瘍性大腸炎に対するものでもそうでなくても、FMTってまだプロトコルと呼ばれる「詳細なやり方」が決められていないんですね。

ドナーのフレッシュうんこをもらってきて、それを濾過して患者さんの腸にいれたらしまいやんっていう単純な話じゃないんです。
投与方法、使用ドナーの数、何回するのか、事前処置はどうするかなど、みんながいろいろな方法を試しています。

今回の論文でばらついたのは、下記の要素たち。

  1. 上から入れるのか(経鼻チューブや飲むタイプのカプセルなど)、下から入れるのか(大腸内視鏡、浣腸など)。
  2. ドナーは1人だけでいいのか、複数人(2〜7人)の菌を混ぜたほうがいいのか。
  3. 回数は何回したらええのか。(2〜3回のものから、6〜84回行うものまで)
  4. コントロール群はプラセボにするのか、自家移植にするのか。
  5. 事前に抗生物質の投与をしたり、腸洗浄をするか否か。

今回の論文では、このばらついた要素たちについても、サブアナリシスという形で比較検討をしています。
サブアナリシス。貪欲ですね。いいねえ。

臨床症状の緩和・内視鏡検査での寛解率の比較

潰瘍性大腸炎というのは、腹痛や下痢、血便などの臨床症状があるのに加え、実際に大腸に潰瘍ができてしまう疾患です。

そのため、本人への聞き取りなどから臨床症状の軽減有無を判断するのと、客観的に内視鏡検査で確認して寛解を判断するのと、2つの観点から治療効果が確認できます。

結果、その双方からの評価において、コントロール群の寛解率は9%だったのに対し、FMT実施群は28.6%でした。

低!
どっちも全然効かへんやん!
と思ったんですが、これといった根本的な治療法の存在しない「難病」とされる潰瘍性大腸炎において、3割近くの方が寛解される方法は「効果あり」となるそうです。

先日公開した潰瘍性大腸炎の方へのインタビューでも、「今の標準療法でも効き目は2割3割なのに、FMTが認められないのはおかしい」という言葉がありました。
健康なわたしからすると、病院に行けば病気は治る、病院に行かなくても気合いと睡眠で治ると思っているフシがあったんですが、それは風邪とか軽い腹痛の場合でした。
本当にすみませんでした。健康で。

でも、うちが技術提携している腸内フローラ移植臨床研究会ではもっと奏効率高いねんけどな…
ただメタアナリシスとかエビデンスとか、そういうふうにまだまとめていないので、あんまり言わんほうがいいんやろな…はよ論文にまとめなあかんな。

臨床症状の緩和と内視鏡検査診断で分けた寛解率も算出されています。
臨床症状の緩和だけで見ると、FMT実施群は40.8%が効果あり、対してコントロール群は22.1%でした。
一方で内視鏡検査のみで寛解診断をすると、FMT実施群は15.6%が寛解、対してコントロール群は5.8%でした。

気になる安全性評価ですが、有害事象の発生率においては、FMT群とコントロール群に差異は見られませんでした。

ばらつき要素における有意差比較

比較された5文献では、先に紹介した5つの要素について、ばらついた要素がありました。
著者たちはこれらの要素によって効果に差があるのかも分析しています。

まず投与方法において、経鼻チューブなどの上から投与の場合には、コントロール群と有意差が見られませんでした。これは推測になりますが、胃を通過する際に胃酸などによって投与した菌が影響を受けてしまったことなどが考えられます。
一方で、内視鏡や浣腸など、下から投与する方法では、コントロール群と比較して有意差がありました。

ドナーの数に関しては、1人ドナーor複数ドナーによらずコントロール群よりもFMT群が効果が高く、おそらくは複数ドナーのほうがより効果があるのではという分析でした。

FMTの実施回数に関しては、回数によらずコントロール群よりもFMT群が効果が高く、おそらくは何度も実施するほうがより効果があるのではという分析でした。

今後のプロトコルに役立ちそうな分析まとめ

  • 投与方法に関しては、下から直接大腸に投与する方法が望ましい。
  • ドナーの数に関しては、たぶん複数ドナーがいい。
  • 実施回数に関しては、たぶん何度もするほうがいい。

「たぶん」ってのはわたしがふざけているわけではなくて、実際に論文内で”may be”って書かれてるんですよ。

今後のFMT研究で明らかにしていくべきこと

論文は、こんなふうに締めくくられています。

Future RCTs are still required to address questions regarding donor selection, treatment prior to FMT, ideal stool or microbiota dosage, frequency of administration, predictors of patients most likely to respond, the most effective delivery route in different conditions, and cost-effectiveness, which remain controversial.

ドナーの選択、事前処置、理想的な調合、頻度、患者さんの反応の予測、状況に応じた効果的な投与方法、費用対効果など、まだまだ議論の余地があり、これらは今後の研究で明らかにしていくべきことです。

↑みたいなことが書かれている。

うまいこと締めくくりますよね。
だいたいの医療論文、とくにFMTなんかの治療に関しては、「今後の研究が待たれる」的な締めの言葉めっちゃ多いんですよね。

わたしもブログの締めくくりっていつも悩むんで、こういう便利な言葉がほしい。

今の気分は、「えびフィレオが食べたいな〜」です。
たぶんこの記事書いてて、エビデンスエビデンスゆうたからやと思います。(2回しか言ってへんで。)

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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References

References
1 Liu X, Li Y, Wu K, Shi Y, Chen M. Fecal microbiota transplantation as therapy for treatment of active ulcerative colitis: a systematic review and meta-analysis. Gastroenterology Research and Practice.
2 J. Crothers, Z. Kassam, M. Smith et al., “Tu1893 – a double-blind, randomized, placebo-control pilot trial of fecal microbiota transplantation capsules from rationally selected donors in active ulcerative colitis,” Gastroenterology, vol. 154, no. 6, pp. S-1050–S-1051, 2018.
3 N. G. Rossen, S. Fuentes, M. J. van der Spek et al., “Findings from a randomized controlled trial of fecal transplantation for patients with ulcerative colitis,” Gastroenterology, vol. 149, no. 1, pp. 110–118.e4, 2015, e4.
4 S. P. Costello, P. A. Hughes, O. Waters et al., “Effect of fecal microbiota transplantation on 8-week remission in patients with ulcerative colitis: a randomized clinical trial,” JAMA, vol. 321, no. 2, pp. 156–164, 2019.
5 S. Paramsothy, M. A. Kamm, N. O. Kaakoush et al., “Multidonor intensive faecal microbiota transplantation for active ulcerative colitis: a randomised placebo-controlled trial,” Lancet, vol. 389, no. 10075, pp. 1218–1228, 2017.
6 P. Moayyedi, M. G. Surette, P. T. Kim et al., “Fecal microbiota transplantation induces remission in patients with active ulcerative colitis in a randomized controlled trial,” Gastroenterology, vol. 149, no. 1, pp. 102–109.e6, 2015, e6.
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