便移植におけるスーパードナー現象
やあ、スーパードナーだよ
こんにちは。
スイカの季節が終わり、夜間の排尿が5回から2回に減ったちひろです。
ついでにウンコも赤から茶色に戻りました。(どんだけ食べててん)
腸内細菌にも衣替えとかあるんかな。
クロストリジウムとバクテロイデスとビフィドバクテリウムがマフラー巻いて、たき火囲んで焼き芋とかしてたらめっちゃ萌えません?
えー!わたしも入れてー! ってなる。
自分の腸に入るという、だまし絵的な感じになりそう。
便移植のドナーについて徹底的に考察した論文

2019年1月21日、マサチューセッツ工科大、ハーバード、ケンブリッジなどの名だたる大学が共同で出した論文があります。
それがこれ。
The Super-Donor Phenomenon in Fecal Microbiota Transplantation | Cellular and Infection Microbiology
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcimb.2019.00002/full
そう、今日の題名と一緒ですね。
この論文の何がすごいかって言うと、とにかく参考文献の数がすさまじいんです。
とりあえず今の時点での便移植(FMT)に関するドナーのことは、この論文1本読めば全部わかりますよって感じ。
さすがのリサーチ力にひれ伏すしかない。
というわけで今日は、この論文の感想を述べたいと思います。
そもそもFMTにおける「成功」とは
本題に入る前に、論文ではFMTの成功を2段階に分けています。
- まず移植した菌たちが腸に生着すること
- ほんでその後に臨床症状が改善すること
この2つはできたら分けて考えたほうがいいみたいですね。
CDIにおけるFMT

CDIとかFMTとか、英語ってとりあえず頭文字並べとけみたいなところありません?
KFC(ケンタッキー)とか、
QED(証明終わり)とか。(←それ英語?)
さて、CDIとはクロストリジウム・ディフィシル感染症のことなんですが、それについては前のブログで書きました。
この疾患で劇的に効いたため、FMTは注目を浴びることになりました。
なんせ、抗生剤を使っても使っても死なず、むしろ他の菌だけ死んでいってしまう恐ろしい病気だったんですから。
腸内細菌がそれなりの種類存在する健康なドナーであれば誰でもよく、多くのケースで1回の移植で治っていたんです。
この論文でも、こんなふうに述べられています。
ドナーが誰であるか、例えば親戚とか配偶者とか第三者のボランティアとか、そういう要素は結果の差に影響を与えなかった。
FMT for Recurrent Clostridium difficile Infection
英語も喋られへんのに外国行くと、日本ではこんなやつと絶対仲良くならへんわみたいな人でも、日本人ってだけで親しげに喋ってしまいません?
これと同じように(例えが無礼)、CDIの状態の腸には、ある程度どんな腸内細菌でも多様性の回復には一役買ってくれるみたいです。
様々な疾患でFMTが試され、ドナーの優劣が見えてくる

さて、CDIでこれだけ効いたんだからと、今度は他の腸疾患や、かねてから腸内細菌との関わりが指摘されていた疾患にもFMTを応用しようという流れが出てきます。
ここまではよかったんですが、CDIの時ほど劇的には効かないケースがほとんどでした。特に慢性疾患の場合、効果の個人差や、効果が出るまでのタイムラグが目立つようになります。
これ、とりあえず多様性を回復させればよかったCDIと、
腸内細菌がいろんな代謝産物を出して、全身と通信して、組織が修復されていく様々な物質が補充されて、それが組み立てられて初めて治るというプロセスをたどるその他の疾患では差が出て当然なんです。
でもやってみないとわからんかった。
なにごとも、最初にやった人がえらい。
あとからあれこれ理屈言うのは、誰でもできる。
話をもとに戻すと、どうやらドナーによって効く効かないが分かれている可能性があるなということになってきたわけ。
あれ、これはもしやスーパードナーが存在するのではないか、という流れになってきたわけです。
そして優秀なドナーとそうでないドナーを引き当てる確率を均すために、便のブレンドも試みられています。
余談ですが、わたしは個人的にドナーの優劣をつけるのが好きではありません。
Japanbiomeという大それたドナーバンクを作って、ドナーを面接したりしているのですが、せっかく協力してくれようとしている人たちを断るの、まじで申し訳ない。
だって、家族にドン引きされながら便を取ってくれているお父さんもいるかもしれないわけじゃないですか。
「違うんだ、父さんはこれ、人助けのためにやっているんだよ」とお尻丸出しで、高校生の娘から浴びせられる冷たい視線に弁解しているかもしれないじゃないですか。
それやのに定期検査でドナーを断らないといけなくなった日には、申し訳無さでいっぱいになります。
患者さんたちも、ぜひドナーへの感謝を忘れずに。
スーパードナーの特徴を探る

じゃあ、スーパードナーってどんな人なのか?
どんな腸内細菌を持っているのか?
当然、こういう話になってきます。
実はこれについて、様々な検証がなされた結果として一定の見解が出てきています。
スーパードナーの条件1:多様性があること
そんなん当たり前やんってお声、わかります。
ただ多様性というのは定義がなかなか難しくて、単に種類の多さだけでは表せません。
偏って存在していないかを見るために、シンプソンの多様性指数とか、シャノン指数とか、いろいろあります。
それでも、腸内細菌の観点から見た多様性の測定法というのは実はまだ存在しません。
スーパードナーの条件2:○○の菌が多い
善玉菌、悪玉菌は存在しないと常々言っていますが、スーパードナーと思われる方に多い菌があるようです。
それがClostridium cluster 4とClostridium cluster 14aです。
Clostridium clusterというのは、Clostridium鋼とそれから派生した菌たちという定義があるんですが、一言でいうとこんな感じ。
今まで培養が難しくて存在すら知らんかったけど、シーケンサーができて次々見つかって、もう分類もクソもないほどたくさんの菌たち。
その中でも4はルミノコッカス科、14aはラクノスピラ科が主に分類されます。
この2つのグループは酪酸を多く産生する菌で、酪酸は免疫の調整(免疫寛容)に一役買っていると言われています。
は?鋼?科?なに?って方は以下を参照。
ウィキペディアの分類のところ
ちなみに、アメリカ最大の便バンクOpenbiomeでもこの基準が使われているらしい。
あと補足ですが、前に書いたシンバイオシス的スーパードナーの考え方の記事もよかったら。
腸内フローラ移植(便移植)のスーパードナーの条件を公開します
遺伝的な相性があるんではないか

菌の問題ではなく、患者さん側の遺伝的な要因が効き方を決めている可能性についても検討されています。
つまり「移植が奏功した」という背景には、ドナーだけの問題ではなく、ドナーと患者さんとの遺伝的な相性の問題があるのではないかという考え方です。
それによって、ドナーからもらった腸内細菌が、患者さんの免疫力に排除されてしまうことを防げるのではないかと。
これを検証するため、こんな実験が行われています。
潰瘍性大腸炎の患者さんから分離したリンパ球を、3人のドナーの腸内細菌たちとそれぞれ一緒に培養してん。
ほんで、炎症誘発性のインターロイキンの産生が一番少なかったドナーで移植したら、成功してん!
すごない?
The Influence of Host Genetics: Immune Response to FMT
うん、たしかにすごいな。
でもこれやとコストかかりまくりやし、あんま現実的ちゃうよな…と筆者の方はヘコんでおられました。
全部に効くウンコっていうのは無理がある

筆者は、ある答えにたどり着きます。
うん、1個のウンコで全部効くっていう考え方は捨てなあかんわ。
特に慢性疾患の場合とか、腸内細菌が関連してるって一言で言っても、その乱れ方って色々なわけやし。
ほんでドナーのスクリーニングだけでFMTを成功させようってのも限界がある。
これからは、ドナーと患者さんのマッチングが大事なんやわ。知らんけど。
事前にできることと言えば、免疫寛容なドナーを選ぶのがいいんちゃう。たぶん。まだ確定的なことは言われへんけど。
Abandoning the “One Stool Fits All” Approach
筆者の結論
4世紀からFMTは行われているけど、まだまだわからんことだらけや。
ほんまに奥の深い世界やで。FMTの成功を左右する要素も、ありすぎて意味不明やし。
とりあえずこれだけは確実っていうのは、
Conclusion
多様性大事ですねってこと!!
ここまで調べておいて、結論はまだまだ出ないそうです。
大きな大学が意見を述べるとそれがスタンダードになってしまうから、慎重になっている様子が伺えます。
筆者の結論おまけ
この他にも筆者はいくつかの可能性を紹介しています。
- 疾患によって足りない菌とかわかってきてるけど、一種類だけの菌を入れるよりも、腸内細菌全体を入れるほうがいいっぽい。全体で機能してるっぽい。
- CDIに限って言うなら、菌と食物残渣を取り除いた液体を入れるのも効果的やったらしい。
- 移植後の効果持続のキーは、食生活の改善と、抗生剤の使用有無が関係しているっぽい。
これからのFMT

さて、ここまでかなりボリューミーでしたね。
わたしも疲れました。
こんなに大量の参考文献をまとめた論文ははじめて読みました。
他にも抗生剤で菌を弱らせてCDIと似たような状態にしてから移植する方法や(こわい)、
腸内洗浄で一旦腸を綺麗にする方法なども模索されています。
じゃあ、これからのFMTはどうなっていくの? ってところを、我々シンバイオシスの取り組みと一緒に考えていきましょう。
実は、
スーパードナー探しも、
便のブレンドも、
免疫寛容ドナーを採用するのも、
すべて通ってきた道です。
それでも効き方に差がある。
この論文でも出てきたドナーと患者さんのマッチングが大事というのはかなり真を突いている気がしています。
そのマッチングというのをより客観的にするために、この論文ではリンパ球によるインターロイキンを見ていました。
でももっとコストがかからず、マッチングができる方法があるのではないかと思っています。
名付けて、
仲人方式。
今でこそ自分で結婚相手を探す方式が取られていますが、ちょっと前までは仲人さんに紹介してもらうのが当たり前でしたよね。
腕のいい仲人さんなら「あ〜この子、斉藤さんの次男くんと相性良さそうだわ」とか思っていたんでしょうか。
どうなんでしょう。
FMTの成功には、この感覚がとても大切だと思うんですね。
「あー、この子自信ないから、自己肯定感を高めてくれる優しいドナーにしよ」
とか、
「この人頑固すぎるから便秘やねん。さらに濃いキャラぶつけてみよ」
とか、
「だらしな!意思よわっ! 自分を律している釈迦系ドナーにしよ」
とか。
冗談ではなくてほんまに。
患者さん側の情報を診察と問診票から集め、ドナーの情報を面接と日頃のウンコから集める。
将来的に主治医がドナーを選ぶ時代がやってくると思いますが、そこで問われるのはこういう「仲人力」ではないかと思います。
それでは今日も長くなりましたが、このへんで。
この記事を書いた人

- 研究員(菌作家)
-
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
個人ブログ→千のえんぴつ
最新の投稿
腸内フローラ移植2021.01.21米国で大規模な便移植の有効性・安全性調査が開始
腸内フローラ移植2021.01.20自閉症スペクトラムにおける腸内フローラ移植が及ぼす消化管症状と腸内細菌叢の変化【セミナー情報あり】
お知らせ2021.01.16中小機構の「新価値創造NAVI」に掲載されました。
お知らせ2021.01.15製造業向け常設Web展示会「TechMesse」へ掲載されました。

《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)