腸内フローラ移植(糞便微生物移植)で性格は変わるのか?

性格を変えたい、と思ったことはおありでしょうか?
昨日までの自分を脱ぎ捨てて、生まれ変わりたい!! みたいな。
昨日までの意志の弱い自分を脱ぎ捨てて、脂肪もついでに脱ぎ捨てたい!! みたいな。(話がダイエットに変わっとる)
わたしは「性格を変えたい」と何度か思ったことがあります。
今となってはそんな性格も悪くないかなと思うんですが、
基本的にネガティブやし、
でもネガティブなキャラクターってうざいかなって思って妙にテンション上げたりするし、
完璧主義すぎるし、
寂しがりややし、
でも群れるの苦手やし、
アイスブレイク的な日常会話とかできへんし(本題から入って本題が終わるやいなや去る)、
ピザ屋さんに電話するだけで脇汗かくし、
…………やっぱり性格変えたいわ。
どんな性格になりたいかっていうと、
ポジティブで、
でも相手のことも思いやれて、
笑顔がキュートで、
一人でも別に大丈夫で、
でも友だちともいい関係続けてて
自律的な女性。(その欲張りな性格をまず変えろ)
近年、肉体的な面からだけではなく、精神的な面からも腸内細菌たちが健康に深くかかわっていることが知られるようになってきました。(そして突然のニュース口調)
2015年のNHKスペシャルで「腸内フローラが性格を決めている」といった内容が放送されてから、より多くの方がこの認識を持たれるようになったと感じています。
実際、患者様からもよく「性格は変わりますか?」というご質問をいただきます。
ご質問にお答えする前に、まずは腸内フローラと性格のことについてお話しましょう。
目次
腸内フローラとわたしたちの性格

そもそも、性格ってどんなふうに決まっているんでしょうか。
遺伝もある程度あるでしょうし、育った環境ももちろん関係しているでしょう。
わたし自身は、父にも母にも全然似ていない性格だと思っていますが、人類全体の分布で見ればだいたい同じ分類に位置している気もします。
もしくは、わたしという肉体に宿った「ソウル(魂)」的な影響かもしれないし、脳の働きの一部が表層化したものが性格かもしれない。
今回は、この「脳の働き」が性格に関係しているんだという視点でお話します。
脳腸相関=脳「腸内細菌」相関?
脳と腸が関係していることは、古くから医療の現場で知られていました。
緊張したり、嫌なことがあったりしてストレスを感じるとお腹が痛くなった経験はないですか?
逆に、わけもなく気持ちが沈んだり、いらいらした経験とか。
これも、腸の状態とかかわっていることが多いそうです。
そしてその「腸」と言っているのが、腸内細菌たちの働きであることがわかってきました。
▼以前こんな記事も書きました▼
腸は第二の脳ではなく「第一の脳」と言っていいかもしれない
腸内フローラと性格の相関を裏付けるマウス実験
NHKから出版されている『やせる! 若返る! 病気を防ぐ! 腸内フローラ10の真実』という本に、興味深いマウス実験のお話が載っていました。
無菌状態で育ったマウスと普通の環境で育ったマウスの性格の違い、異なる性格のマウスの腸内フローラを入れ替える試みが紹介されています。
無菌マウスと脳の発達
1990年代のこと、まだわたしがセミの抜け殻を大量に収集していたころのお話です。(大丈夫か)
九州大学心理内科教授の須藤信行さんが、無菌マウスのある傾向に気が付きました。
それは、どの無菌マウスも落ち着きがなく、少しの刺激にも過剰に反応していたのです。
そこで試しに普通のマウスの腸内細菌を移植すると、マウスの行動に落ち着きがみられるようになりました。
その変化が見られたのが子どものマウスだけだったため、腸内細菌が「脳の発達」に関係しているのではないか、と考えられるようになりました。
マウスの性格入れ替え実験
一方カナダのベルチック博士は、マウスによる腸内細菌入れ替え実験を行いました。
マウスにも活発な性格や臆病な性格というのがあるそうです。
普通の環境で育った活発マウス・臆病マウスの腸内細菌を、それぞれの性格を持った無菌マウスに移植します。
詳しいことは本をお読みいただきたいのですが、腸内細菌移植後では性格が変わるという結果になりました。
これにより、性格は遺伝子だけではなく腸内細菌の影響も受けていることがわかったのです。
人間の場合、性格は変わるのか?

おまたせしました。やっと本題です。
人間が腸内フローラ移植をした場合、果たして性格は変わるのか?
そもそも性格を変えることがいいことかどうかの議論は、ちょっと横においておきます。
残念ながら、この答えははっきりと「Yes」か「No」でお答えできるものではないのです。
(さんざん引っ張っておいて本当にすみません。ビスコあげるので許してください)
まず、移植方法の問題があります。
自分の腸内細菌たちを抗生物質などでかなり押さえ込んだ後で腸内フローラを移植した場合は、変わることがあります。
これは、前述の「無菌マウス」に移植する場合に似ているからです。
けれど、自分の腸内細菌を殺さずに移植をする場合、もともと持っている腸内フローラと競合が起こるため、そう簡単にすべての腸内細菌を入れ替えることはできないのです。
もっと言うと、腸内細菌を壊滅状態にして移植しても、細菌が住み着けるかどうかは人間の免疫のジャッジを通過する必要があるので、完全には入れ替えられないのですが、免疫の話をすると長くなるので、このあたりはまた別の機会にお話します。(免疫の要、腸管免疫のしくみ【腸と免疫シリーズ6】)
このような理由で、少なくとも当研究所の腸内フローラ移植でもともとの人格が変容するということはありません。
ただ、うつなどの精神症状が治ることで、結果的に外から見ると性格が変わったように見えることはあります。
わたしも移植を受けてから、
「明るくなったね」
「おおらかになったね」
と言っていただくことはあります。
それでも、もともとの「性格の幹」のようなところは変わってないなあ〜と感じます。
わたしはわたしのまま。
人との接し方や、ものごとの捉え方が変わっただけ。
そう考えると、「性格ってなんなんやろう?」と思えてきます。
人間って、奥が深いなあ。
この記事を書いた人

- 研究員(菌作家)
-
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
個人ブログ→千のえんぴつ
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《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)