腸内細菌が粘膜の内側まで行っていいタイミングとあかんタイミング

ちひろです。

めっちゃいいことを考えついたとするじゃないですか。
「自分で光合成をする方法」とか。

頭の中では、素晴らしい構想がまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされていって、
光合成をするために必要な物質をどのように身体に蓄えるのか、太陽エネルギーをどのように取り込むのか、夜間と雨の日に自身が排出する二酸化炭素をどのように溜めておくのか、考えが広がります。

「え、わたし、めっちゃエコな人間になれるんちゃうん。企業のCO2削減目標なんか、一瞬で到達やん」っていうアイディア。

ほんでそれを、忘れへんうちにメモっている最中に、話しかけられたとします。
しかも「この鶏肉ってレンジでチンして食べたほうがいいんかな」とかいう、すさまじくどうでもいい内容で。

せっかくのアイディアが霧散していきます。
人類と地球の未来とともに。

さすがの仏のわたしも、キレていいですよね。
「喋りかけんなやあ! アホ!」って。

でもそれって、「永遠に喋りかけんな」って意味ではないし、「鶏肉の温め要否についての質問が気に入らない」ってわけでもないんです。

大腸粘膜上皮細胞もおんなじ気持ちです。
菌たちに入ってもらっていいタイミングと、あかんタイミングがあります。

今日はそういう話です。(このたとえ話、いる?)

腸内細菌は外粘液層にしかいないという常識

腸の中は、菌や食べ物、水分などの通り道としてホース状の空洞になっています。
ホースの内側がいきなり大腸の細胞になっているわけではなく、粘液と粘膜層が外と内を隔てています。

粘液層の中にも、菌たちが比較的自由に出入りできる外粘液層と、より粘度の高い内粘液層があります。

基本的に「健全な腸内では、菌は外粘液層までしか入り込めない」という常識があります。

何らかの原因で粘液層が薄くなったり破壊されると、菌たちが大腸の細胞付近にまで押し寄せてしまいます。
その結果、腸の細胞が炎症を起こしたり、最悪の場合は血液に菌が入り込む菌血症を引き起こしたりしてしまいます。

Muniz, Luciana & Knosp, Camille & Yeretssian, Garabet. (2012). Intestinal antimicrobial peptides during homeostasis, infection, and disease. Frontiers in immunology. 3. 310. 10.3389/fimmu.2012.00310.より引用

他にも、大阪大学の研究チームが面白い研究結果を発表しています。[1]Okumura, R., et al. “Lypd8 promotes the segregation of flagellated microbiota and colonic epithelia.” Nature, vol. 532, no. 7597, 2016, pp. 117-121, … Continue reading

Okumura, R., et al. “Lypd8 promotes the segregation of flagellated microbiota and colonic epithelia.” Nature, vol. 532, no. 7597, 2016, pp. 117-121, doi:10.1038/nature17406.より引用

Lypd8という遺伝子が欠損しているマウスでは、内粘液層まで菌たちが侵入してしまうという結果に。

この常識、ちゃんと意味を理解すればとっても正しいんです。
菌たちが右も左もなく、わらわらと内粘液層、そして粘膜を通り抜けて大腸の細胞に入り込んでしまうのは、決して健全な状態ではありません。

でも、この認識のおかげで、ちょっとした誤解が巻き起こっていることも事実。

菌たちが内粘液層、粘膜下へ入るタイミング

実は、健全な状態で、いやむしろ健全な状態だからこそ、菌たちがあえて内粘液層や粘膜下に入るタイミングもあるんです。

大腸粘膜上皮細胞の側からしても、大歓迎っていうタイミングでね。

M細胞を経由した能動的輸送

Muniz, Luciana & Knosp, Camille & Yeretssian, Garabet. (2012). Intestinal antimicrobial peptides during homeostasis, infection, and disease. Frontiers in immunology. 3. 310. 10.3389/fimmu.2012.00310.より引用

腸の中は、まっすぐな壁になっているわけではなく、こんなふうに「絨毛」と呼ばれるびらびらがいっぱい生えています。

これは腸の表面積を増やすためなんですが、絨毛を構成する大腸の細胞たちには、いろんなメンバーがいます。

中でも、赤く光ってるM細胞に注目してみましょう。

M細胞は、菌たちが大腸組織内に入るための門みたいな存在を果たします。
でも門番のように、悪者を追い返したりする役割はあんまり果たしてくれません。

菌たち「ピーンポーン。すいません、入りたいんですけど〜」
M細胞「はいはい。ちょっとここ狭いんで、一人ずつお願いできます?」

こんな感じで、菌(抗原)を樹状細胞という免疫細胞に引き渡します。

もし敵やったとしても、一人やったらなんとかなる。
むしろ一旦取り込んで情報を聞き出さんことには、相手が敵かどうかも判断できへん。
菌たちにとっても、自分が悪い存在ではないことを知ってもらわんといけません。

そんな感じで、菌たちは細胞に自分たちの情報を引き渡すことに成功します。

能動的輸送と書いたのは、菌たちがドアベルを自分らで押すからです。
このスイッチのメカニズムは明らかにはなっていませんが、TLR(トルライクレセプター)や、菌たちの出す短鎖脂肪酸や、菌とヒトの酵素のやり取りがキーになっているのではないかと思われます。

ちょっと余談ですが、短鎖脂肪酸のうちの酪酸は、粘液の生成を促す役目もあります。
自分らの仲間たちが一斉に押し寄せず、ちゃんと大腸細胞と距離を保てるよう、自分たちで環境をつくるんです。えらい!

T細胞のサイトカイン、B細胞のIgAによる受動的輸送

M細胞から情報を聞いた樹状細胞は、その菌が敵かどうかを判断して、T細胞やB細胞を活性化します。[2]特殊な腸管上皮細胞、M細胞の生物学

Antimicrobial peptides (AMPs), including defensins and cathelicidins, constitute an arsenal of innate regulators of paramount importance in the gut.

「病原菌や!」となれば、Th17細胞による炎症性サイトカインの発令や、キラーT細胞の出動により、菌を排除する方向へ働きます。

逆に「この菌にはぜひ腸に残っていただきたい!」と判断されれば、TregやIgA抗体が出されて、菌たちが腸に留まれるように計らいます。

腸陰窩と杯細胞による菌の輸送?

自分が村に滞在する条件として、特別なキノコを採ってくるっていう指令が出されたとします。
特別なキノコを採るために山に登らなあかんとき、もしこの2つのコースがあったらどっちを選びますか?

  1. 遠回りな上に、崖をよじ登るコース
  2. 近道で、ゆるやかな坂道コース

ぜったい2番ですよね。
どう考えても2番。
わざわざ1番を選ぶ人がいたら、その人はほんまは村に滞在したくないか、重度のハイカーでしょう。

同じように、菌たちにも大腸組織内に入りやすい入り口とそうじゃない入り口があります。

冒頭の大阪大学の研究チームの別の論文で、わかりやすい画像がありましたのでお借りします。[3]領域融合レビュー, 5, e007 (2016) DOI: 10.7875/leading.author.5.e007
Ryu Okumura & Kiyoshi Takeda: Crosstalk between intestinal epithelial cells and commensal bacteria.

領域融合レビュー, 5, e007 (2016) DOI: 10.7875/leading.author.5.e007
Ryu Okumura & Kiyoshi Takeda: Crosstalk between intestinal epithelial cells and commensal bacteria.より引用

この凹んでるとこ。陰窩ってとこ。
ここ、ほんまはもっとみっちり詰まってて、粘液も分厚くて、しかもPaneth(パネート)細胞が抗菌ペプチドっていう菌が嫌がるやつを出してるおかげで、菌たちにとってはめっちゃ入りにくい環境になっているんです。

M細胞とか、絨毛の出っぱってる部分とか、他にも入り口がいっぱいあるなら、そっから入りますよね普通。

というわけで、この「陰窩」には菌はいないと長年考えられてきました。

けれど、この陰窩に特定の菌が大量に住み着いていることがわかってきました。[4]Pédron, Thierry, et al. “A Crypt-Specific Core Microbiota Resides in the Mouse Colon.” mBio, vol. 3, no. 3, 2012.

陰窩は確かに入りづらいけれども、一旦入ってしまうと粘液によって守られているし、胚細胞という細胞が食事(ムコ多糖類を豊富に含んだ粘液)を提供してくれるし、菌たちにとっては住みやすい環境に変わるようです。

もしかしたら、このエリアからも菌の取り込みがあるのかもしれません。

NanoGAS™による菌の輸送

さて、最後に少しだけシンバイオシスだけのオリジナルな内容も入れておきます。(参考:《特許出願中》NanoGAS™水を使用した移植菌液

腸内フローラ移植の効果的な方法はいろいろ試されていますが、うちの移植菌液はNanoGAS™というウルトラファインバブル(UFB)を溶媒としています。
通常の生理食塩水を溶媒とするのに比べ、他人由来の腸内細菌の定着を助ける目的です。

このメカニズムも、実はこの記事に書いた内容と大いに関係しています。

菌たちが腸に残っていいかどうかを判断するために叩く扉、M細胞は狭き門です。
まずは移植した菌たちがこの扉までスムーズにたどり着けるよう、NanoGAS™がお手伝いしています。

菌たち同士の生物活性電位、NanoGAS™の持つウルトラファインバブル(UFB)特有の電位などが関わっているのですが、まだまだそのメカニズムは検証段階です。

わたし自身、これを理解するために菌の世界にどっぷり浸かりながら、まる4年かかりました。

生化学と、生物学と、物理工学と、理論物理がぜんぶ混ざったようなメカニズムですね。
知れば知るほど奥が深く、面白い世界です。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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References

References
1 Okumura, R., et al. “Lypd8 promotes the segregation of flagellated microbiota and colonic epithelia.” Nature, vol. 532, no. 7597, 2016, pp. 117-121, doi:10.1038/nature17406. Lypd8は鞭毛をもつ細菌と大腸上皮とを分け隔てる : ライフサイエンス 新着論文レビュー
2 特殊な腸管上皮細胞、M細胞の生物学
3 領域融合レビュー, 5, e007 (2016) DOI: 10.7875/leading.author.5.e007
Ryu Okumura & Kiyoshi Takeda: Crosstalk between intestinal epithelial cells and commensal bacteria.
4 Pédron, Thierry, et al. “A Crypt-Specific Core Microbiota Resides in the Mouse Colon.” mBio, vol. 3, no. 3, 2012.
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《特許出願中》
腸内フローラ移植

腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)