国内初の組織的便バンクが誕生。その全貌を公開します。

最近、どうしてもウンコが汚いと思えなくなってしまい、世間の認識とのギャップが埋まらずに社会生活に支障が出ているちひろです。
わたしは飲み会という存在を忌み嫌っているのですが、先日二年ぶりに飲み会なるものに参加しました。
大学時代の仲間の集まる場でして、そこでわたし、「下痢なんですよ〜!」と言ったんですね。
なんなら、「電車が遅れてたんですよ〜!」ぐらいのテンションで。
そしたら、先輩に「メシの場で下痢とか言うな!!」と、頭をどつかれました。
わたしからしたら、「えっ!?!?!?!?」(キョトン)なわけです。
常識にとらわれるのはつまらないけれど、ある程度定期的に世間の常識をチェックしておかないと、大変なことになるかもしれんと思いました。
世間の常識メルマガとかないんかな……
目次
国内初の組織的便バンクが誕生
※この画像、時間かけた割に絶望的なデザインになってしまって悲しい
世の中には、生体試料や臓器を他人から譲り受けるということが一般的に行われています。
血液、角膜、骨髄、心臓、肺、肝臓、腎臓。
人間の細胞、体液は常に入れ替わり続けていることや、構成分子が同じなこと、元素レベルで見れば太古からの使い回しであることを考えると別になんの不思議もありません。
近年、ここに「ウンチ」が加わりました。
そう、便移植とはそれだけのことなんです。
しかも、これはまだまだ長期的な検証が必要ですが、ドナーにも患者さんにも肉体的、時間的な負担がさほどありません。
それなのに、抵抗のある人がなんと多いこと。(そのあたりが、世間とのギャップやねんで)
基本的に、臓器移植などでドナーの情報が患者さんに伝えられることはありません。
もしドナーが街を歩いていて、「あ、先だってはどうも、ウンチをいただきまして……」と話しかけられたら、ドナーもびっくりです。
「いやいや、気になさらないでくださいよ! 毎日山程出るんで。あ、なんやったらちょっと持って帰ります? ゴソゴソ」
なんて気の利いた返しをできるドナーは、大阪出身の少数ドナーだけでしょう。(大阪がいかに笑いのスパルタ教育を受けているか、わかっていただけました?)
ただ、腸内フローラ移植(便移植)というのは、まだまだ新しい方法で、知名度も高くありません。
患者さん側も、ドナーのことが知りたいと思うのは当然の心境です。
そこで弊所では、ドナーに許可をいただき、検査結果の一部や自己紹介などの情報を患者さんにお渡ししていました。
しかし、この治療法に対する研究がすすむにつれ、
「ドナーはどんなふうに選んでるの?」
「どんな検査項目なの?」
「便って、どういうふうに保存してるの?」
など、皆さんのご質問もどんどん専門的になってきました。(もう、欲しがりさんなんだから)
そこで、ドナーの募集から移植菌液にするまでにどんな過程を辿っているのかを、すべて公開することにしました!
ついでにといってはなんですが、これまでシンバイオシスの中にあったドナーバンクを、「JapanBiome(ジャパンバイオーム)」として独立させることになりました。
某アメリカのドナーバンクの名前をパクったのではないか疑惑は拭えませんが、そのへんは、「ゆるしてやったらどうや」(よしもと新喜劇知ってる?)
お察しの通り、よしもと新喜劇の動画を最後まで見てしまって、2分22秒業務時間を無駄遣いしてしまいました。2分22秒サービス残業しよ。
組織的便バンクのメリット

大学病院などで行われている治験は、ほとんどが二親等以内のドナーを自分で見つけることを条件としています。
その理由は、「家族なら嫌悪感も和らぐし、感染症なんかも安心でしょ」という配慮からです。
けれど、生活習慣や遺伝情報の似ていない第三者をドナーにするほうが良いのではという報告が相次ぎ、便バンク方式を採用するところが増えてきています。
その多くは、「当院で用意したドナーを使用します」形式。
これ、ドナーの選択肢を増やそうとすると、めちゃくちゃお金かかってしゃあないと思うんですが、個人量産型なんかな…。
JapanBiomeは、一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会に所属する複数の医療機関で、ドナーバンクを共有しています。
これによるメリットは、大きくふたつ。
安全なドナー便の確保を容易にする

「安全なドナー便」という定義はまだまだ曖昧ですが、実は海外ではすでにある程度の指針が固まっています。
これにしっかり従おうと思うと、ドナーの検査、ドナーの管理、便の管理など、膨大なお金と手間がかかります。
「他の患者さんもいる医療の現場で、便を処理するのは難しい」という医療機関は、腸内フローラ移植が選択肢にすら入らなくなってしまいます。
これは自慢なんですが、[su_highlight background=”#fffe99″]JapanBiomeでは、これらの基準よりもはるかに多くの検査を実施し、ドナーを慎重に選んでいます[/su_highlight]。
日本と欧米では、注意すべき感染症などが違うために単純な比較はできませんが、[su_highlight background=”#fffe99″]世界最高レベルのドナー選定基準[/su_highlight]と言っていいかと思っています。
ドナーの方には、血をたくさん採ってしまって申し訳なく思っています。
1件でも事故が起こったら、この治療法の可能性が見いだされる前に「便移植は危険」というイメージが付いてしまうかもしれません。
そのため、検査項目も便の管理も、どこからも突っ込みどころのない体制を目指しています。
日本での腸内フローラ移植は、まだ臨床研究法の対象にすらなっていませんが(2019年6月現在)、近いうちに日本でも法整備がなされることは必至。
欧米では、「感染症さえなければ、あとはまぁ大丈夫でしょう」というスタンスのようですが、それでも検査項目は多くなります。
複数の医療機関でドナーを共有することは、安全面はもちろん、経済面、効率面、安定的な供給という側面からも、将来当たり前になるはずです。
[参考]
FMT Protocol ※FMT国内指針運営委員会(アメリカ国立衛生研究所、アメリカ消化器病学会)(外部リンク) European consensus conference on faecal microbiota transplantation in clinical practice | Gut ※欧州10カ国以上、28人の有識者会議で合意を得たFMTの臨床応用指針(外部リンク) Clinical Trial Protocol Template アメリカ国立衛生研究所、アメリカ食品医薬品局(外部リンク) |
様々なタイプのドナーを在籍させられる

上述したように、ドナーがひとり増えてくださると、検査や管理がとても大変になります。
そのため、理屈としては、ある程度健康で、ウンチいっぱい出るドナーならOK!ということになるかもしれません。
ただ、「一人の便で全患者さんに効くFMT(便移植)という概念そのものが無理があるよね」と気づき始めた研究者たちがいます。
マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学、ケンブリッジ大学の方々です。
The Super-Donor Phenomenon in Fecal Microbiota Transplantation
この論文はまだちゃんと読んでいないので、また改めて「論文感想文シリーズ」でお伝えするとして、ざっと読んだ感じこういうことをおっしゃっておられます。
便移植が注目されだして、スーパードナーの特徴を突き止めよう、みたいな動きがあるやん。
Abandoning the “One Stool Fits All” Approach
でも、たしかにドナースクリーニングで最低限の安全性の確保はいるんやけど、それ以上の特徴って、対象疾患とかによってバラバラやったりするんよね。
だから、「はい、この便で全部効きまーす」みたいな便を見つけようとするのはそろそろやめへん?
このことから、対象疾患や対象年齢を広げるなら、ドナーの選択肢はある程度多いほうがいいと考えています。
余談ですが、欧米の方のインタビューなどを関西弁でアフレコしている動画が好きです。
ドナーの募集について

では、ドナーは多ければ多いほどいいかというと、実はそうでもありません。
ドナーが増えるということは、それだけコストがかかります。
腸内フローラ移植を身近な治療法にしていくためには、パターンごとに2名ずつくらい在籍していただくことが理想的だと思っています。
そのパターン分け、パターン数などは目下研究進行中ですが、これもドナーを共有しているからこそできること。
さらに、日本人は欧米に比べて便の量が多いので、その分ひとりのドナーからたくさんの菌液が作れます。
これでも戦前の量から比べると半減したらしいので、皆さんもっと米を食べましょう。米は太りません。
※2019年8月現在、新規のドナーは募集しておりません。
実は「ドナーになってもいいよ!」と言ってくださる方が案外いらっしゃって、ありがたい極みです(T_T)
35年前に変態扱いされながらドナーを集めていたうちの菌職人が「時代は変わったなぁ」と遠い目をしていました。
ちなみに、JapanBiomeの詳細については、腸内フローラ移植臨床研究会のサイトで公開しています。
もっと真面目な文章で書いていますので、よかったら。
これから移植を検討される方の安心材料になれば、うれしいです。
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)