炎症性腸疾患(IBD)の犬にも便移植(FMT)の有効性が示される

ちひろです。

人間以外に生まれ変わるとしたら、何になりたいですか?

鳥になって自由に飛び回りたいけど、ガリガリの足がなんか気持ち悪いし、芋虫食べなあかんのも気が進まん。
てんとう虫になってかわいい見た目になりたいけど、自分の背中って見られへんしなあ。
スイカになっても、スイカをお腹いっぱい食べることはできへんしなあ。

なかなかうまく行きませんね。(何の話や)

でも少なくとも、人間以外に生まれたら、政府に命を守ってもらえることもない代わりに、人間特有の病気もなくなりそうじゃない?

人を信じられない病とか。
人生の意味を見つけられない病とか。
学校に行かなあかん病とか。

糖尿病とか、がんとか、高血圧とか、うつとか、潰瘍性大腸炎とか。

なんて思ってたら、少なくとも人間の近くで暮らしているペットたちの場合は、そういうわけにもいかないそうです。
今日は、IBD(潰瘍性大腸炎、クローン病など)に悩む犬たちに、FMT治療を行ったらめっちゃ効いたという研究を紹介します。
(たぶん悩んでる。だって自分のマーキングしたところまでウンコ我慢できへんのはきっとつらい)

IBDに罹患した犬の新たな治療法としてのFMT

この研究は、日本獣医生命科学大学のチームより発表されました。
いつものように、ヒトのためにマウスに犠牲になってもらう動物実験とは違い、
犬の、犬による、犬のためのFMTです。(人による、やけどな)

(原文)
Fecal microbiota transplantation as a new treatment for canine inflammatory bowel disease

わたしたちには犬の言葉がわからないので、IBDの診断も難しそうに思います。
食べ物に反応しているわけではない、抗生物質に反応しているわけではない、などのいろんな指標をもとに、IBDを診断しているとのこと。

それともあれなんかな。
獣医系の大学の人は動物への愛が深いから、ある程度は犬語もわかるんかな。

この研究チームは、パイロット試験として以前にも1症例のみ、IBDの犬に対するFMTの報告を出しています。[1]Improvement in Clinical Symptoms and Fecal Microbiome After Fecal Microbiota Transplantation in a Dog with Inflammatory Bowel Disease – PubMed

今回はさらに規模を大きくして、9症例で行っています。

実験方法

被験者犬とドナー情報

IBDの犬たち9匹は、FMTの一週間前から抗生物質や下痢止めなどの薬剤投与を止められ、FMTの1時間前に便のサンプルを採取しました。

ちなみに9匹の犬種ですが、トイプードル、ミニチュア・ダックスフンド、ビーグルなどいろいろいらっしゃいます。

ドナーになった犬たちは5匹で、犬種は公開されていません。血液検査や便検査、レントゲン、聴診などをクリアした元気な犬たちです。

プロトコル、評価、分析

【プロトコル】
・体重に応じて10ml/kgの菌液を浣腸により移植
・FMT前に便を採取し、FMTを1回行い、2週間後にまた便を採取
・他の疾患である可能性を排除するためにqPCRを実施

【評価】
・臨床症状はCIBDAIという犬のためのIBD指標を使用
・ランダムに選んだ3匹のIBD犬、ドナー犬について次世代シーケンサーで腸内フローラを解析
・次世代シーケンサーにてFusobacteriumが顕著に増えていたため、9匹全員についてqPCRでFusobacteriumをカウント

結果と考察

【臨床症状】
FMTから3日後にはすべての犬において改善が見られました。
特に変化の大きかったのは、慢性的な下痢と嘔吐症状で、CIBDAIのスコアも大幅に減少していました。

【便の解析結果】
移植後はドナーの菌叢をおおむね受け継いでいます。
中でも、ドナーとFMT後の腸内フローラは、FMT前のIBD群よりもFusobacteriumが多く存在していることが確認されました。

いずれの犬にも有害事象はなく、FMTはIBDを持つ犬に対して安全でありかつ有効である、と研究チームは述べています。

Fusobacteriumが鍵を握っているのか

さらに続く考察で、筆者はFusobacteriumがIBD症状を左右しているのではないか、と注目しています。
以下、論文内の考察を主に引用しながら、Fusobacteriumを掘り下げていきます。

Fusobacteriumの役割

  • 酪酸を産生する菌として知られていて、酪酸は大腸の上皮粘膜を形成するのに重要な役割を果たす
  • 酪酸は大腸がんを防止し、細胞のアポトーシスを促す
  • 酪酸は炎症やアレルギーに関連する免疫細胞に関連し、炎症性サイトカインを抑える効果もある
  • 一方で、Fusobacteriumは腸の炎症を引き起こす病原体であるという報告もある
  • 一部の論文では、Fusobacterium nucleatumが大腸がんを促進すると結論づけているものまである
  • いろいろあるけれども、少なくとも犬のIBDにおいてはFusobacteriumが少ないと言える

ここだけ見ていると、Fusobacteriumは結局多いほうがいいのか、少ないほうがいいのかわからんという声が聞こえてきそうです。

実際、論文によって矛盾した結果が出ているのも事実。
この矛盾に対して、筆者は「異なる動物種間で、腸内細菌の構成が違うことが挙げられる」としています。

もちろんそのとおりやと思う。
むしろその線が一番濃厚やし、主な理由やと思う。

犬の腸内フローラと人の腸内フローラって、違って当たり前。
逆に、マウス実験の結果が人間にも当てはまりうる、みたいな風潮のほうが謎すぎる。

ただ、Fusobacteriumに関連する結果に実は矛盾はなくて、研究チームによって解釈が違うだけということもありえると思うんです。
そんなに膨大な量の論文を読んだわけではないけど、医療分野の論文って、ある程度は筆者の持っていきたい結論になるように実験や考察を書けるような気がしていて。

だから、Fusobacteriumが多いからいい、少ないから悪いということではなくて、別の角度で考えてみることも大事なんじゃないかと思う。

繰り返しになりますが、菌は備わります。
腸に問題を抱える宿主のダメージを減らすために、Fusobacteriumが増えるとしたら。

大腸がんを促進するとレッテルを貼られた菌たちは、宿主のがん細胞を減らすために増殖途中だったFusobacteriumかもしれない。

IBDの犬の方でFusobacteriumが減っていたのは、犬の腸内でもはやFusobacteriumが増えられないほど腸内環境が悪化しているとか、IBSの段階で解析すればかえって増えていたかもとか、そういう見方だってできるかもしれない。

矛盾を種別差や個体差で片付けることはできるけど、少し角度を変えてみれば、同じことを示していた、なんてこともあるかもしれない。
仮説段階でそういう視点を持つことも、大事だと思うんですよね。

ドナーは犬がいいのか?

さて、今回の実験ではドナーに犬を使っています。
同じ種類の犬だったかどうかまでは、言及されていません。

ヒト同士の場合には、人種間ごとに腸内フローラの特徴があることが知られていて、そのためにヒトのFMTのプロトコルでは、同じ人種のドナーを使用することが多いです。(便宜上の問題も大いにあると思うけど)

同じ理屈で行けば、犬の場合もトイプードルにはトイプードルのウンコがいいのかもしれません。

ただ、これとは全く逆に、異なる人種間、異なる動物種間のFMTの可能性もあると思うんです。

ペットを飼っている人の腸には、宿主保護の作用を強める腸内細菌が増えています。
家畜を育てる民族は、特定の腸内細菌が増えてアレルギーにならないという報告もあります。

そんなふうに、ヒトもその他の動物も、自然と菌たちを共有してきました。

実はいま、アレルギーのペットたちにヒト由来のFMTを行う臨床試験を、とある動物病院と連携して行っています。(逆はさすがにできへんからな…)
結果はまだ公開できませんが、上述したようなことを裏付ける結果が出始めています。

同じように、FMTは同じ人種のドナーであるべき、という概念も覆るかもしれません。
先進国の腸内フローラよりも、ジャングルの奥地にいる民族の腸内フローラのほうが健全であることがわかっている以上、彼らにドナーになってもらう可能性も十分にあるでしょう。

FMTの真髄は、元の状態に戻すことにあるのではない。
失われたものは取り戻し、もともと欠けているものを補うことにある。
そういう意味でも、今の医療のあり方とは一線を画するように思います。

日本人もかつては世界中を救えるウンコをする人ばっかりだったんですけどね。
今はほんの一握りになってしまいました。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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