米国で大規模な便移植の有効性・安全性調査が開始

米国で、腸内フローラ移植(便移植、FMT)の有効性と安全性に関する報告が発表されました。
クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)っていう、疾患がありまして。
日本ではまだあんまり馴染みのない名前なんですが、欧米では患者数が激増している上に致死率も高いということで、かなり問題になっています。
数年前、そんなCDI患者さんに希望の光が灯りました。
それがFMTだったんです。
アメリカのCDI患者さんの動画とか見てたら、「ウンコ入れるとかムリー」なんて言っている人は一人もいません。
命がかかっているんです。
ウンコムリとか言っている人は、まだFMT受ける資格がないということでしょう。(話が変な方向に)
CDIに対してFMTがむちゃくちゃ効くじゃないか! ということで、通常の臨床試験や長期間の追跡調査などの過程を経る前に、FMTはいきなり実地診療の場で普及しました。
健康なドナーたちを集めた便バンクができ、動物実験と併行してCDIの治療が実際に行われてきました。
このあたりのフットワークの軽さが、アメリカって感じですよね。うらやましい。
「実用まで15年!?馬鹿言ってんじゃないわよ!うちの亭主死んじゃうじゃない!」という愛にあふれた声のおかげで、早めに普及したのでしょう。
人由来の腸内細菌を使うということで、心理的な面はさておき、安全性という面で他の治療法よりもハードルが低かったのかもしれません。
潰瘍性大腸炎、クローン病、アレルギー、自閉症スペクトラム、肥満、2型糖尿病などその他の疾患にも応用は試みられていますが、CDIほど劇的に効く疾患はまだないようです。
このあたり、「腸内細菌の多様性の大切さを、クロストリジウム・ディフィシル感染症から学ぶ」の記事で書きました。
目次
Fecal Microbiota Transplantation National Registryの設立
そしてついに米国消化器病学会(AGA)が動きました。
国立アレルギー・感染症研究所の資金提供を受けて、Fecal Microbiota Transplantation National Registryを設立し、短期間と長期間双方の観点から、FMTの有効性と安全性を検証していこうという取り組みが開始されました。
英語しかなくてごめん。
大丈夫、わたしも完璧には聞き取られへんから!
なんとなく、パッション感じれたらOK!(逆になんでこれ載せてん)
いろいろ動画載せてはるのに、YouTubeってやつはやっぱりこういうコアな話題は全然再生数伸びへんな。。。
一週間前に公開されたプレジデントの動画の再生数なんて、19回やもんな。
シマグニ日本の零細企業シンバイオシスの動画再生数のほうが上なんて気の毒やから、プレジデントの動画いま見ました。
ただの年末年始のあいさつでした!!!!!
でも、アメリカでのFMTに対する熱量はわかっていただけたかと思います。
そう、CDIにおける奏効率のおかげと、アメリカという「保守的」とは正反対の国の環境のおかげで、FMTはここまで進んでいます。
「4,000人規模で10年間の追跡を目指す」という言葉がウェブサイトの冒頭に書かれているように、本気でFMTを医療の常識の土台に載せようという気概が感じられます。
最初の259人の報告が公開 −FMTによるCDIの1ヶ月の奏効率は90%
FMT National Registryから、第一報として259名分の経過報告が出されました。
Kelly, C. R., Yen, E. F., Grinspan, A., Kahn, S. A., Atreja, A., Lewis, J. D., . . . Laine, L. (2020). 37 Fecal Microbiota Transplanation Is Highly Effective In Real-World Practice: Initial Results From The American Gastroenterological Association Fecal Microbiota Transplantation National Registry. Gastroenterology, 158(6). doi:10.1016/s0016-5085(20)30717-4
結果の要約を引用します。
Of the first 259 participants enrolled at 20 sites, 222 had completed short-term follow-up at 1 month and 123 had follow-up to 6 months; 171 (66%) were female. All FMTs were done for CDI and 249 (96%) used an unknown donor (eg, stool bank). One-month cure occurred in 200 patients (90%); of these, 197 (98%) received only 1 FMT. Among 112 patients with initial cure who were followed to 6 months, 4 (4%) had CDI recurrence. Severe symptoms reported within 1-month of FMT included diarrhea (n = 5 [2%]) and abdominal pain (n = 4 [2%]); 3 patients (1%) had hospitalizations possibly related to FMT. At 6 months, new diagnoses of irritable bowel syndrome were made in 2 patients (1%) and inflammatory bowel disease in 2 patients (1%).
Fecal Microbiota Transplantation Is Highly Effective in Real-World Practice: Initial Results From the FMT National Registry – Gastroenterology
CDI患者のうち、1ヶ月後の寛解率は90%でした。100%がよかったけど、人間の体というのはそう簡単にはいかんもんなんかもしれん(あ、これはわたしの個人的な感想やで)。そのうち98%が、なんと1回の移植を行ったのみ。コスパ抜群です。
6ヶ月後に残念ながら再発してしまった方が4%おられました。なんかこちらまで申し訳なくなるな…
下痢や腹痛などの有害事象がそれぞれ2%ずつで、全体の1%に当たる方が「おそらくFMTと関連した有害事象」だったとのこと。
ドナーは96%の方がドナーバンクからの第三者の便を使用しているそうです。
日本と違い、ドナーバンクがかなり大規模なんですね。いいなあ。
あ、ちなみにシンバイオシスが技術提携している腸内フローラ移植臨床研究会の便バンクは、アメリカ最大の便バンクOpenbiome並みの厳格さです。ちょっと自慢。
はよ保険適用にならないと、いつまでも手軽な値段にならないので、患者さんにご協力いただきながら臨床例集めています。
日本でFMTがなかなか普及しないのは?

これは前にブログで書きました。
日本ではなぜクロストリジウム・ディフィシル感染症が深刻化しないのか
FMTとむちゃくちゃ相性のいいCDIが、日本人にはあまり発症しないからです。
でも、CDIが多様性が失われることによって発症するものなら、
たとえば抗生物質をやむなくたくさん使わなくちゃいけなかったとか、
好き嫌いが激しいとかで、今多様性が損なわれている人たちは日本にもたくさんいるはず。
腸内細菌の多様性が損なわれることで発症する疾患はCDI以外にもいろいろ指摘されていますが、
FMTがもっと手軽になったら、これらの疾患を治療するばかりか、未然に防ぐこともできるようになるかもしれん。
抗生物質をたくさん飲んだあとはFMTをするとか、
偏食の人にはウンコサプリ飲ませるとか、
そういう方向に医療が向かってくれたらいいなと思います。心底。
そのためにわたしができることって何なんやろう。
汎用性の高いドナーになることかな。
今謝礼を支払えない分、ドナーの負担も大きいんですよねえ。会社勤めの人とかとてもお願いできへんわ。
でも、日本人は本当に世界を救う腸内細菌を持っていると思います。
アメリカの研究者たちが「あれ、日本ってCDI少なない?」って気づいて、日本人をドナーにするのがいいのではないかとひらめいてくれますように。
そのために、あんまり欧米スタイル食生活しやんとこうね。
そしてプレジデントの年末年始挨拶は、私が見たことによって視聴数20回になりました。みんなもよかったら見てあげて。
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)