FMT(便移植、腸内フローラ移植)の未来を真剣に考える会

ちひろです。

腸内細菌。腸内フローラ。FMT(腸内フローラ移植)。

菌たちが主役のこの世界にいるからか、
ヒトは、自分という自我の中に、菌たちを内包しているのだという考え方をごく自然にするようになりました。

ついでに、ウンコをはじめとするヒトの分泌物に対して「汚い」と思うこともほとんどなくなりました。

91歳で亡くなったおじいちゃんが、食事中に入れ歯が外れてフゴフゴなってたとき、何の抵抗もなく手を入れて入れ歯外して洗ってあげられたのも、この仕事をしていたおかげです。

さて、そんな愛すべき菌たちとわたしたちは一心同体で助け合って、いやむしろ菌に助けてもらってばかりで暮らしているわけですが、
運悪く菌たちとの共生がうまくいかなくなる人たちがいます。

菌たちとうまくやっていけなくなるということは、自分の中で内部分裂が起こるようなものです。
当然、健康も損ないます。

そこでFMTという方法に白羽の矢が立ちました。

自分の身体で育てた菌たちのコミュニティには敵わないかもしれないけれど、ヒトの身体に合った菌のコミュニティを健康なドナーから借りてきて、それをベースに自分の菌のコミュニティを立ち上げ直す方法です。

そんなFMT、実は期待されている一方で、ほんのすこし風向きが変わるだけでその将来がガラッと変わってしまうかもしれない岐路に立たされています。

今日は、菌たちをめぐる人間界の動向を見ながら、FMTの未来を真剣に考える会を開きます。(参加者リスト:ちひろ、以上)

○○菌を奉ったり忌み嫌ったり

ダイエットを経験したことのある方、ダイエットにはブームがあるのをご存知ですよね?

バナナダイエット、
スムージーダイエット、
ゆで卵ダイエット、
糖質制限、
おにぎりダイエット、
地中海食ダイエット、
オートミールダイエット、
8時間ダイエット、
加圧式ダイエット etc…

健康になる、という本来のダイエットの目的とわかりやすさを天秤にかけて、わかりやすさを重視した結果、このように名前のつけやすいダイエットが流行っては廃れていきます。

実は、腸内細菌の世界でも同じことが起きかけています。

少し腸内細菌の世界を知っている人なら、こんな単語を聞いたことがあるかもしれません。

善玉菌と悪玉菌、
乳酸菌とビフィズス菌、
デブ菌とヤセ菌、
酪酸菌、
アスリート菌、
アッカーマンシア、
クロストリジウム、
バクテロイデス、
短鎖脂肪酸 etc…

そうなんです。
論文の世界では「○○菌が○○病の患者さんの腸内に多いことが判明」など、特定の菌がクローズアップされる傾向ばかりが目立ちます。

それがビジネスの世界に持ち込まれると、さらに誤解をはらんだ形で商品化されてしまうという流れが生じ始めています。

菌は、特定の1種類だけでいい働き、悪い働きをすることはまずありません。

大事なのは、いろんな菌がいることと(多様性)、そのバランス。
地味ですが、これに尽きるんです。
正解の比率はないし、わかりにくいけど、これがわかってないと「万年ダイエッター」みたいになるどころか、腸内細菌たちにとって住みにくい身体になるばかり。

遺伝子レベルの分類の限界

「乳酸菌」ってありますよね。乳酸菌の定義って知ってます?

グラム陽性、形態(桿菌または球菌)、カタラーゼ陰性、運動性がなく、内生胞子を形成しない、消費したぶどう糖に対して50%以上の乳酸を生産する(乳酸発酵形式homo 型またはhetero型)細菌とされています。

乳酸菌・ビフィズス菌と健康 | 東京医療保健大学

難しいですが、ブドウ糖を栄養源にするところは他の菌たちと同じで、その代謝の過程のあとに乳酸を出す菌ということですね。
ちなみに50%未満だとビフィズス菌に分類されます。

ここでちょっと話を変えます。

人間の歴史は、発見と発明の歴史でもあります。

戦後、洗濯機やテレビ、冷蔵庫のいわゆる「三種の神器」が誕生し、人々の生活スタイルは一気に変わりました。

それから10年ほどあと、三種の神器が普及した頃合いに、消費を推し進めるために3Cが生まれました。
そう、カラーテレビ、自動車、クーラーです。

発見と発明は、初期の頃は「誰かの悲しみをなくす」ために為された達成だったと思います。
それがいつのまにか「経済を回す」ことが目的になり、不便を生み出して便利を提示するスタイルに変わってきた気がします。

まあ、その話はさておき、20世紀後半の人類の発明の中に「次世代シーケンサー」があります。

次世代シーケンサーのおかげで、本来は目に見えないはずの「遺伝子の情報」をわたしたちは知ることができるようになりました。

ヒトの細胞だけではなく細菌の細胞も丸裸にしてしまったこの装置は、これまでヒトに認識されていなかった、培養の難しい様々な菌にスポットライトを当てることになりました。

そしてそれらの菌が認識されたことで、菌たちとヒトの健康がどれほど密接に関わっていたのかがわかってきたのも事実。

でも、この遺伝子レベルの分類、実はわりと偏った見方しかできないんです。
先ほど話に出た乳酸菌は、遺伝子レベルで分類し直すと、6科33属にもまたがった形で分類されることになるそうです。[1]乳酸菌・ビフィズス菌と健康 | 東京医療保健大学

「乳酸菌」という分類は、最終アウトプットの働きに注目した分類でした。
遺伝子レベルで菌を見られるということは、このように「菌の働き」ごとの分類を軽視してしまう可能性があります。

いろんな論文で「次世代シーケンサーで分類した○○属の菌が、○○病の改善に役立つのでは」という見解がときに矛盾するのは、たぶんこの遺伝子レベルの分類の限界にあります。

今後の分類では、次世代シーケンサーによる遺伝子レベルの分類と、ざっくりとした働き別の分類の、ハイブリッド分類が進んでいけばいいなあと個人的には思っています。

製剤化の流れ

いま、FMTの世界は製剤化の流れに舵を切っています。
つまり、ウンコのくすり化です。

有益と認められた特定の菌を取り出して培養し、おくすりの形にします。
くすりにすると、いろんなメリットがあります。

  • 単価が安くなる
  • 処方や処置が簡単になる
  • 品質が画一化される
  • ABテストがしやすい
  • 意図した菌しか入らないため、安全性が高まる
  • (既得権益を享受している人たちがさらに儲かる)

ドナーの便を処理して、その菌たちのコミュニティをまるごと患者さんの腸に届けるという今のFMTは、この製剤化の流れに押されて消えてしまう可能性があります。

ただ、FMTという方法に関して言うならば、製薬会社主導の製剤化はベストな答えではないかもしれません。

すでに多くの人が知っているように、微生物は短期間で「変異」します。
それをわたしたちは「進化」と呼びますが、人工的に培養をすると、よからぬ方向に変異しやすくなってしまいます。

さらに、菌たちは「特定のいい菌」だけで働いているのではなく、全体でひとつの集団であり、それでバランスを取っていかなくてはならないこともご存知のとおり。

個別化医療が進んでいくということがよく言われます。
この個別化医療、細かいデータの組み合わせが無数にあって、そこから選んでいくという意味ならば、たしかに無数のパターンの製剤を用意すればいいのかもしれません。

でも、患者さんとお医者さんの関係、個々の性格や生活習慣などまで要素として入ってくる個別化医療なら、「同じ菌を患者さんに入れてどうなるか」という再現性を目指すことはナンセンスですよね。
ましてドナーの個性もそこに混じってくるならば、なおさら。

ドナーバンク

製剤化の流れとは別に、ドナーの便をそのまま使ったFMTの可能性を追求していくために、ドナーバンクも急速に整備が進んでいます。

アメリカではドナーに報酬が出ていますが、日本では倫理的なこともあり、当研究所の利用するドナーバンク(Japanbiome)では、ドナーたちに報酬をお支払いできていません。

定期的な血液検査や便検査に加え、便の提出や問診への回答の負担も考えると、献血のように多くの人に協力してもらうことは正直難しいだろうと思います。(ウンコは血液と違って、出すタイミングを調整しにくいし)

それに加えて、腸内細菌のドナーに求められる健康度は、血液のドナーに求められるそれよりもシビアなものになっていくでしょう。
現代的な生活のおかげで、ドナーになれる人はどんどん減っています。

培養して製剤化の流れになるのは止めようがないのかもしれませんが、いまのうちに健康なドナーたちの便はストックしておかないといけません。

シンバイオシスでも、最近マイナス80度の冷凍庫を買い足しました。

FMTは、まだまだ未知の治療法です。
でももしかしたら、健康なドナーから腸内細菌のコミュニティをまるごと受け継ぐことのできる今のFMTは、今のうちしかできない方法になっていくのかもしれないな、なんてことを考えてしまいました。

誰もが自分の自前の腸内細菌たちと仲良く暮らして、それだけで健康に生きていけるならばそれに越したことはないんですけどね。

FMTの未来がどうなっていくのか。
シンバイオシス研究所としては、微力ながらその未来をつくるお手伝いがしたいなと思って活動しています。

さて。今回で、わたし個人の産休前に書き溜めた記事は最後です。
これが公開される頃には、たぶん子供が産まれています。

この子が心身ともに健やかに生きていける世界を、少なくともわたしの周りの小さな世界だけでも、つくって守って行かなくちゃな。
そんなふうに思います。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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《特許出願中》
腸内フローラ移植

腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)