【海外事例】FMTでの薬剤耐性菌による死亡を含む症例報告

2019年6月、FMT(便移植)による死亡事例が世界ではじめてアメリカで発生しました。

欧米の中でも特にアメリカは、政府公認でCDI(クロストリジウム・ディフィシル感染症)に対するFMTが行われているなど、FMTの臨床応用がすすんでいます。

その他の炎症性腸疾患、自閉症、うつ病、糖尿病、移植片対宿主病の予防など、治験もたくさんあります。興味のある方はClinicalTrials.govで検索してみてください。

そんな中起きた死亡事例は、何が原因だったのでしょうか?
今後どのような対策が求められるのでしょうか?
対象疾患を限定する可能性なんかもあるんでしょうか?

今回、2019年11月21日付でこの症例に対する正式な報告が出ました。

[本文]Drug-Resistant E. coli Bacteremia Transmitted by Fecal Microbiota Transplant | NEJM

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ちなみにわたしは英語に抵抗がありますが、皆さんのために頑張って読んだので、心して読んでほしいです。(恩着せがましいことこの上ない)

人が一人亡くなっている深刻な出来事ですので、今日はNo Laughです。

【要約】FMTによる死亡事例

CDIに対する治療法としてFMTが俄然注目を浴びている中、その他の症状にも応用を目指して臨床試験がすすめられている。

ここでは、それぞれ別の臨床試験でFMTを行った2名の患者に菌血症が起こり、ESBL産生菌が検出され、うち1名が死亡した案件について報告する。

この2名には同じドナー由来の便が使われていた。

菌血症というのは、血液に菌が混じってしまうこと。腸には普通に菌がいて、血液は無菌。素人の感覚からすると不思議ですが、そういうもんだそうです。
ちなみにESBL産生菌については割愛しますが、薬に耐性を持つ菌の一種です。

【背景】疾患の多様さと他の有害事象

FMTは様々な疾患に関連しているとして、CDIを始め様々な疾患で研究がすすめられており、その治験の数はClinicalTrials.govに掲載されているだけでも300以上。

消化器疾患のみならず、神経系や代謝系の分野でもFMTが試みられており、腫瘍系、特に造血幹細胞移植後に起こる移植片対宿主病の予防などにも役立つと期待されている。

これまでの臨床試験では、免疫不全状態の患者と免疫状態が正常な患者間での有害事象発生比率に差はなかった。

FMT後にグラム陰性菌による菌血症が報告された例が今まで4例あるが、うち3例は人工呼吸器による肺炎や中毒性巨大結腸症、クローン病などほかに原因がある有害事象だった。
残る1例は本人の希望で上部消化管内視鏡で移植を行い、肺炎、大腸菌の菌血症、敗血症を経たのち死亡した。

免疫抑制でも大丈夫やと思ったし、
移植片対宿主病が予防できたらすごいし、
今までの例もFMTに関係ない有害事象が大半やったし、
亡くなった1人も上部消化管内視鏡による移植やったし、
とりあえず危険なことをしたわけではないのです。
それをわかってほしい。っていう意図が見えます。

そやんな。安全かわからんから試験するんやもんな。
でもこんなに言い訳めいた書き方せなあかんなんて、世の中大変。

堅苦しい表現がわかりにくいので、以下ちょっとフランクに書きます。
No Laugh.

ドナースクリーニング

ドナー選定に関しては、FDA(アメリカ食品医薬品局)と倫理委員会の両方から承認を受けたものを使用してはります。

このニュースを見たとき、「ちゃんと検査してないところはほんまにあかんな」と思ってたんですが、めっちゃちゃんと検査してはりました。
ただ惜しくもESBLだけしていなかった状態。

詳しくは論文の中の表を見てもらったらいいかと思いますが、ざっとこんな検査です。

ドナー便提供前 30日以内にやる検査

  • 問診 ―病歴、血液バンクと同じ問診、BMI、職業など
  • 臨床検査 ―高感度CRP、脂質パネル、その他基本的な血液検査
  • 便検査 ―基本的な食中毒菌、耐性菌(クロストリジウム・ディフィシル、VRE、MRSA)、ピロリ菌

ドナー便提供前 14日以内にやる検査

  • 血液検査 ―A型B型C型肝炎、エイズ、梅毒

提供された最初と最後の便にやる検査

  • EBウィルス
  • サイトメガロウイルス

[参考]腸内フローラ移植臨床研究会で使用する便バンク(Japanbiome)の検査はこちら

FMTカプセルの準備

さらっと書いてますが、経口カプセル使ってるんですね。
確かにカプセルは、医療提供側からすると移植がラクですが、カプセルが大きくなりがちやし、口から入れたときにどうなるんやって検証がちょっと不十分な気がする。
まあ話逸れそうなんでこのへんにしときます。

作り方としては、こんな感じ。

  1. 便を溶かす
  2. 濾過する
  3. 再懸濁 →これどういう意味? 濃縮還元ジュースみたいにするってこと?
  4. 「ヒドロキシプロピルセルロース胃酸に溶けない」カプセルに入れる
  5. マイナス80度で、9ヶ月保管(許可がおりるのに時間かかったらしい)

実は、2019年1月にFDAの表明に応える形で検査範囲を拡大したそうです。
そこにはESBL産生菌も含まれてたし、ノロウイルスもヒトTリンパ好性ウイルスも始めたとのこと。

ただ、それ以前に作ったカプセルを再検査することはなかったし、捨てることもなかった。
FDAはそこまで求めてなかったし、この新しい基準を他の臨床試験にも適用せよとの命も下ってなかった。

今回報告する2名の患者に使われたのは、2018年11月に作られたカプセルやった……

後から責めることはいくらでもできるけど、彼らは彼らなりにそのとき必要やと思われる最大限のことをしていた。そう思わざるを得ません。
後出しジャンケンで大きい顔するのは誰でもできる。
そう思っても、身内が死んだら同じことを言えるだろうか。

患者1について(抗菌薬で回復)

年齢と性別:69歳 男性

現病歴:C型肝炎ののち肝硬変を発症

FMTの内容
2019年4月、3週間にわたり15カプセルを5回使用。

経過
17日後まではなんともなかったが、その後38.9度の発熱。
検査してみると菌血症になっており、メロペネム抗菌薬で回復。

患者2について(死亡)

年齢と性別:73歳 男性

現病歴:骨髄異形成症候群の治療のため、同種造血幹細胞移植を実施予定。HLAのマッチしていないドナーから移植を受けることになっていた。
造血幹細胞移植の前後にFMTカプセルを飲んで腸内細菌の多様性を回復するという臨床試験のフェーズ2に参加していた。

FMTの内容
造血幹細胞移植の4日前と3日前に、15カプセルずつ使用。

経過
造血幹細胞移植の3日後と4日後に、移植片対宿主病を防止するために免疫抑制剤を飲んだ。
5日後(最後のFMTカプセル服用から8日後)に39.7度の発熱。
その日の夜にICUに入り、メロペネム抗菌薬などの治療を施すも、2日後に死亡。

菌の特定と検証

この患者さん2人は別々の臨床試験に参加していましたが、同じドナーの同じロットの経口カプセルが提供されていました。

この事例に対する検証として、論文では2つの後追い試験が行われています。

ドナーの便と患者2人の血液から検出されたESBL産生菌の感受性検査

これうまいこと説明できるかわからないんですが、耐性菌っていうことは、薬(抗生剤)をぶつけても倒せないってことなんです。
で、抗生剤にもいろいろありますよね。

仮に、あくまで仮に、「清水菌」っていう耐性菌がいたとします。
それに対してこちらが使える薬は抗生剤A〜Eの5個。

抗生剤Aをぶつけて清水菌が死ねば「Susceptible(S)」、つまり感受性ありということになります。

逆に抗生剤Aをぶつけても清水菌にはまったく効果がなければ「Resistant(R)」、つまり耐性ありとなります。
「Intermediate(I)」はその中間、ちょっと弱るぐらいですかね。

仮に1個の菌に対して抗生剤A〜Eの欄にすべて「Resistant(R)」が並んでしまうと、その菌はこちらの持つどんな薬でも倒せないということになり、マジで怖い耐性菌ということがわかります。
わかるだけでどうもできない人間たち。

※ここで登場した「清水菌」は、我ら研究員が崇める菌職人である清水師匠とは一切関係がありませんのであしからず。

論文の表はそのまま持ってこられないので、Japanbiomeのドナーの検査結果を見てみましょう。(ドナーの許可は得ました)

見事に「Susceptible(S)」が並んでいますね。
これは簡単に言うと、ここにあるどんな抗生剤を使っても倒せる菌ですよということです。つまり耐性菌はいませんと。
非常に優秀ですね。このヒトは抗生剤飲んだことないんでしょうか。

今回の論文では、ドナーの便と患者2人の血液から検出されたESBL産生菌に対して、感受性検査を行っています。

その結果に対してのコメントは「似ているけど同一ではない」ということでした。

そもそも、ドナーは便やのに患者は血液で検査するって、それで同じ条件で検査できるんかな。

そのほかの患者にも検査を行った

同じロットの経口カプセルを使った患者さんが、今回の報告の2人の他にも20人いました。

患者1さんと同じ肝炎の臨床試験に参加してた人、
患者2さんと同じ造血幹細胞移植の臨床試験に参加してた人、
それからCDIの治療を行った人。

全員を追跡することは出来なかったそうですが、亡くなった1名を除く12人に対してESBL産生菌の有無を調べています。
ちなみに調べた時期は、FMT後4週間から28週間のあいだ。

結果は12人中5人が陽性で、あくまでも我々の意見やけど、比率的に考えてもたぶんFMTが原因と考えるのが妥当、と論文では述べられています。

【考察】FMTのリスクとベネフィット

  • FMTによる菌血症というのは非常にまれである。
  • 基準が変わる前には、このドナーは決して危険なドナーではなかった。
  • 他の患者ではこのようなことは起こっていない。
  • この2つの事例では、FMT間際に抗生剤を服用したり、他にも患者側に菌血症リスクがあった。

これらの要点を挙げた上で、CDIへの劇的な効果などを含むFMTの可能性については引け腰になりすぎないで、リスクとベネフィットのバランスを大事にしていくべきであると述べています。

日本でも耐性菌が非常に問題

CDIは日本人の場合はあまり深刻化しないと書いたことがありますが、実は耐性菌の問題は国をあげて取り組まれる問題になっています。

国立国際医療研究センター病院(東京)などの研究チームは、2017年の一年間で耐性菌が原因で死亡した人が8,000人にのぼると報告しました。

FMTは、耐性菌によって死亡する事例を出すのではなく、耐性菌によって死にかけている患者さんの希望の光になるものだと信じています。

医療機関に行けば、抗生剤も未だに気軽にぽんぽん出していただけますし、これから絶えず新しい耐性菌が生まれてくるでしょう。

それに対抗する解決策は、特定の耐性菌を倒す抗生剤を生み出すことではない。
そんなことをしたら、どんどん新しい耐性菌を生むばかりです。
わたしたちの何百倍、何万倍ものスピードで遺伝子レベルの進化をするんですから。

大事なのは、多様性。
いろんな菌がたくさんいれば、耐性菌がいても悪さをできません。

善玉菌増やそう運動とか、
悪い食べ物は絶対に口にしない運動とか、
そうじゃなくてもっと顔ぶれを豊かにしないと彼らの力に呑まれてしまいます。

わかりやすいものだけに飛びつかないように。では。

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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。 でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。 いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。