新型コロナウイルスの軽症化にはFMT(便移植)が安全で有効? ケースレポート紹介

ちひろです。

新型コロナウイルスに関してはあまり言及するのを避けたかったんですが(何を言っても矢が飛んできそう)、
今日はぜひお伝えせねばならないニュースがあります。

これを書いているのは7月9日ですが、この記事が更新されるのは9月7日です、すみません。
Twitterをフォローしてくださっていた方は、7月9日につぶやいているのをご覧いただいたかもしれません。

マスク生活、つらいですね。暑いし、息ができない。
新型コロナウイルス感染症が早く収束してほしいのはもちろんですが、
「新型コロナウイルスを怖がっている人たちの目を気にしながら暮らす」という心理的なしんどさがさっさと終わってほしいです。

そんな中、重症化リスクの高い患者さんの新型コロナウイルスを軽症で済ませるのに、FMTが役に立てるかも知れないという希望の光のような報告を紹介します。

FMTを受けたあと、新型コロナウイルス感染症が早期に回復

ポーランドのワルシャワ医科大学、Jarosław Biliński氏たちの研究チームによる報告です。

(ケースレポート本文)
Rapid resolution of COVID-19 after faecal microbiota transplantation | Gut

(この論文を踏まえて書かれた英語記事)
Could a Stool Transplant Help Recovery in COVID-19 Patients? | Technology Networks

新型コロナウイルスにかかると腸内フローラの構成が変わることが報告されていますが[1]Zuo T, Liu Q, Zhang F, et al. Depicting SARS-CoV-2 faecal viral activity in association with gut microbiota composition in patients with … Continue reading[2]Ren Z, Wang H, Cui G, et al. Alterations in the human oral and gut microbiomes and lipidomics in … Continue reading(えっ、そうなん?)、腸内フローラを改善するためのFMTがここに一役買えないかというところに、このレポートの肝があります。

ちなみにレポートの中で出てくる「SARS-CoV2」ってのと、新型コロナウイルス(COVID-19)にどう関連があるんかという話ですが、SARS-CoV2はウイルス名、COVID-19は病名です。
どっちもよく見るからわかりづらいですよね。

腸内フローラは免疫システムと深い関連があるし、肺とも相互に関連しているとの報告があるので[3]Lai H-C, Lin T-L, Chen T-W, et al. Gut microbiota modulates COPD pathogenesis: role of anti-inflammatory Parabacteroides goldsteinii lipopolysaccharide. Gut 2021. … Continue reading、新型コロナウイルス感染症にFMTが有効なのではないかという推測は自然なように思えます。

今回は、新型コロナウイルス感染症の症状があるCDI患者さん二人にFMTをしたというケースレポート。
コロナ関連の記事は気分が暗くなるので避けてたんですが、腸内細菌との関連もいろいろ明らかになってるんですね。

こういう科学的なレポートは、ほんとうにちゃんと政治に反映されるんだろうか。
それとも政治は科学で成り立っているわけではないから、もっといろんな思惑を統合して、結果的に今の方向性にならざるを得んのやろうか。

まあ、科学的にはどうなってるんかを見ていきましょう。

ケース1:80歳男性、複数疾患を合併

【患者さんプロフィール】
・80歳男性
・CDI(クロストリジウム・ディフィシル感染症)の罹患歴あり
・その他、複数の疾患を合併している
・肺炎と敗血症で入院中

この方は抗生物質で肺炎の治療をしたんですが、残念ながらCDIを再発してしまい、FMTをしよう! ということになりました。(ポーランドでも、CDIの治療にFMTを積極的に行うことになってるんかな? やとしたら羨ましい)

ところがFMTの当日に熱が出て、炎症の指数であるCRPも上昇してしまいました。

検査したところ、なんと新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の陽性反応が出ていました。
そういうわけで抗ウイルス薬とconvalescent plasma (CP, 回復期患者血漿療法)を開始したわけですが、
予期せぬことに(って書いてある)、FMTの2日後に熱が下がって、CRPの数値も下がったそうです。

この「回復期患者血漿療法」ってなんやねんと思って調べてみたんですが、どうも新型コロナウイルス感染症の治療に有効かも、と試されている方法だそうです。でも効果はまだ限定的とのこと。(参考:回復期患者血漿

ケース2:19歳男性、潰瘍性大腸炎

【患者さんプロフィール】
・19歳男性
・潰瘍性大腸炎を患い、免疫抑制剤を使用中
・CDI再発のため入院

CDI治療の目的でバンコマイシンという抗生物質が投与され、症状は落ち着きました。
さらなるCDIを予防する目的で、大腸内視鏡経由でFMTを実施。

FMTから15時間後、彼は39度の発熱をし、CRPの数値が上昇してしまいました。

検査したところ、彼にも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の陽性反応が出ていました。
けれどその後は熱が下がり、CRPの数値も落ち着いたそうです。

患者とドナーの新型コロナウイルス感染状況

ここで気になるのが、患者さんはどのタイミングで新型コロナウイルスに感染したんだろう? ってことです。

ケース1の患者さん
・入院前の検査は陰性
・FMT直前の便検査では陰性
・FMTから7日後の便検査は陽性
・FMTから14日後の便検査は陽性
・FMTから30日後の便検査は陰性

ケース2の患者さん
・入院前の検査は陰性
・FMT直前の便検査では陰性
・FMTから7日後の便検査は陽性
・FMTから14日後の便検査は不明
・FMTから30日後の便検査は陰性

ドナーになった人は、便の提供時に二度の鼻に突っ込むタイプのコロナ検査と、提供した便についての便PCR検査で陰性が確認されています。

2つの事例から導かれること

筆者らは、
「FMTは新型コロナウイルスに感染している再発性CDI患者にとって、安全で有効な方法だ」と述べており、
さらに
「FMTをしたことで新型コロナウイルス感染症の臨床症状が軽く済んだのではないか」と推測しています。

この患者さん2人は、どう考えてもコロナが重症化しそうなタイプです。

FMTと同時に行った治療が効いたんじゃないかというツッコミには、先回りしてこんなふうに書いておられます。
「抗ウイルス薬は10日くらいしないと効き目が出ないし、その他の彼らが受けていた治療はいずれも新型コロナウイルス感染症に有効と示されていないものたちだった」と。

さらに、便のPCR検査において通常の新型コロナウイルス感染症の場合は27〜47日間くらい陽性が出続けるんですが、この患者さんたちはそれよりも短い期間で陰性に転じました。

実はイタリアの研究チームも似たような経験をしていて[4]Maintaining standard volumes, efficacy and safety, of fecal microbiota transplantation for C. difficile infection during the COVID-19 pandemic: A prospective cohort study – ScienceDirect、今回の報告はそれをさらに支持するような結果になったということです。

今回の発見は、とてもとても興味深く、決して見逃されるべきではない報告だと思います。
ワクチンを打てばとりあえず安心なんだから、と製薬会社と政府主導でコロナ対策が進んでいますが、FMTのほうがより安全に効果が見込める可能性もあるわけです。

止まったままの経済、FMTのコストのことなどを考えると、ワクチンがやっぱり勝ってしまうのかもしれん。
でも、この報告を出してくれたポーランドのチームに、わたしは敬意を表したい。

研究チームは、新型コロナウイルス感染症の重症化防止策のひとつに、FMTが標準的に追加されることも視野に入れて臨床試験を行っていくそうです。

たのしみ。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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References

References
1 Zuo T, Liu Q, Zhang Fet alDepicting SARS-CoV-2 faecal viral activity in association with gut microbiota composition in patients with COVID-19Gut 2021;70:27684.doi:10.1136/gutjnl-2020-322294
pmid:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32690600
Abstract/FREE Full Text Google Scholar
2 Ren Z, Wang H, Cui Get alAlterations in the human oral and gut microbiomes and lipidomics in COVID-19Gut 2021;70:125365.doi:10.1136/gutjnl-2020-323826
pmid:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/33789966
Abstract/FREE Full Text Google Scholar
3 Lai H-C, Lin T-L, Chen T-Wet alGut microbiota modulates COPD pathogenesis: role of anti-inflammatory Parabacteroides goldsteinii lipopolysaccharideGut 2021. doi:doi:10.1136/gutjnl-2020-322599. [Epub ahead of print: 09 Mar 2021].
pmid:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/33687943
PubMed Google Scholar
4 Maintaining standard volumes, efficacy and safety, of fecal microbiota transplantation for C. difficile infection during the COVID-19 pandemic: A prospective cohort study – ScienceDirect
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腸内フローラ移植

腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
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