FMTにより食物不耐症が改善した35歳IBS女性のケースレポートを紹介

食べるの大好きちひろです。
美味しくものが食べられるというのは、人間であるうえでもっとも幸福な状態のひとつであると確信しています。
冷蔵庫に好物がどっさり入っていると、それだけでメンタルが安定します。
ただ、実は恥ずかしながら結構食べられないものがあります。
正確に言うと、食べられるんだけれども、食べた後に何となく調子が悪くなるので、普段はあまり食べないようにしているもの。
皆さんありません?
玉ねぎを食べるとお腹が痛くなって、生物兵器のようなおならが出るとか。
パンを食べると若干むくむ感じがして、便秘になって、皮膚がちょっとだけかゆくなるとか。
甘いスイーツを食べると頭がくらくらするとか。
カップ麺を食べるとムカムカして、口から異臭がするとか。
血液検査でアレルギー反応が出るわけでもないのに、なんでなんやろうと長年思ってきました。
気持ちの問題に違いない! と、定期的に玉ねぎにチャレンジし、毎回敗北しています。
玉ねぎ、昔は食べれてたのに。
その正体は実は食物不耐症だったのかもしれない、と最近知りました。
目次
食物不耐症とは

イギリスのNHS(National Health Service)のサイトによると、食物不耐症(Food intolerance)はこのように解説されています。
A food intolerance is difficulty digesting certain foods and having an unpleasant physical reaction to them.
Food intolerance – NHS
「食物不耐症とは、特定の食べ物の消化がうまくできずに、不快な肉体的症状を引き起こす」
不快な症状としてよくあるのは、腹痛、下痢、おなら、腹部膨満感、皮膚のかゆみ等です。
近年、食物不耐症を持つ人の数はとても増えています。
けれど食物不耐症には科学的な診断方法がなく、多くの人が「自分は食物不耐症やわ」と思っていても、実は別の原因が隠れていることも多くて、正確な人数を把握するのは難しいんだそうです。
食べ物で不快症状を起こす、と聞くと、それって食物アレルギーやんって思いません?
でも、アレルギーと食物不耐症は根本的にメカニズムが違います。
NHSのサイトから、その2つの違いを抜粋します。
食物アレルギーと判断できる場合
- 免疫反応により症状が起こる。(だから血液検査で出るんですね)
- ほんの少し食べただけで、その直後に発疹や息苦しさが起こる。
- 原因となる食べ物がある程度限られている。(子どもなら牛乳、卵、ナッツ、といったふうに)
- 命に関わる場合もある。
食物不耐症と判断できる場合
- 免疫反応を起こさず、命に関わる心配がない。
- 食べ物を摂取したあと、数時間後くらいにゆっくり症状が出る。
- ちょっと食べたくらいでは症状が起こらない。
- 様々な食べ物に対して起こる。
食物不耐症は、アルコールやカフェイン、人工甘味料、香料、着色料なんかに反応する場合も多いようです。
抗生物質とFMTにより食物不耐症が改善したケース

さて、いよいよ本題です。
FMT(便移植、腸内フローラ移植)が食物不耐症にもお役に立てるかも知れないという症例報告が上がってきました。
オーストラリアのシドニーにある消化器病センターに所属するClancy A.とBorody T.からのレポートです。
オーストラリアの消化器病センターといえば、アリゾナ大学で行われた自閉症スペクトラムの子どもたちに対するFMTを思い出します。(参考:自閉症スペクトラム(ASD)と腸内フローラ移植は相性がいいらしい。【対象疾患と方法についての考察】)
この論文で使われていたMMTというFMTのプロトコルですが、今はCDDプロトコルという名前になっているようですね。
患者さんプロフィール
- 35歳女性、IBSと診断を受けている。
- 18ヶ月にわたり、吐き気、腹痛、頭痛、疲労感などを覚えている。
- 乳製品、グルテン、卵、大豆に食物不耐症があると訴えている。
この患者さんに、12ヶ月にわたって抗生物質とFMTの組み合わせを、頻度を下げながら実施しました。
最初の6ヶ月で32回のFMT、あとの6ヶ月は自宅での浣腸による方法で月に1〜2回程度の頻度です。
FMTを始めて12週間後の時点で、彼女の便の状態、腹痛、吐き気、疲労感はいずれも80%から90%改善されたと、患者自身から報告がありました。
24週間後の時点で、グルテンと乳製品に対する食物不耐症が劇的に改善されました。
52週間後の時点では、グルテンと乳製品を摂取してもまったく症状が出なくなりました。
詳しいプロトコルや評価方法については、論文本文を見てみてください。
食物不耐症はIBSを併発していることが多い
IBS(過敏性腸症候群)は、世界人口の12%が罹患しているとされています。
日々の生活に支障をきたすにも関わらず、いまだ対処療法のみが施される場合が多い疾患でもあります。
最近になって腸内細菌との関連性が指摘され、FMTの臨床試験も数多く行われるようになってきました。
一方で、食物アレルギーとは違う食物不耐症の人口も急増しており、なんと20%もの人々が食物不耐症に苦しんでいると言われています。
そしてその症状は、IBS患者さんに多く見られるとのこと。

今回のケースレポートは、たった一人の患者さんのケースでしかありません。
さらに、IBSや食物不耐症には明確な客観的判断指標がなく、患者さんの訴えをもとに重症度や効果を判断するしかなく、科学的根拠に乏しいという声も聞こえてきそうです。
でも、大事なことは数値の増減ではなく、患者さんご自身が楽になることです。
そのいちばん大事な目的を、このケースは達成していると言えるのではないでしょうか。
食物不耐症を持つ多くのIBS患者さんにとって希望になるこのレポートを出してくれたオーストラリアのお医者さんに感謝しなくてはなりません。
同時に、わたしたちが出会い、移植をさせていただいた患者さんたちも、二重盲検試験とか難しいこと言わんと、ケースレポートでいいからどんどん報告していかなあかんなと思わされた時間でした。
そういえば個人的体験ですが、わたしもFMTをしてもらってから食べられるものが増えて、健やかに過ごしております。
一方で、人工甘味料や白砂糖を使ったもの、いわゆるジャンクフードは相変わらず調子を崩します。
でも思うんです。
これらって、身体に悪いもんやん?
それで調子崩すのって、普通じゃない?
むしろ平気でこれらのものを食べられる人たちのほうが不健康である気が…
そういうわけで、FMTは「食べても安全なものに対する食物不耐症を治してくれる最強の方法である」と個人的には思っています。(玉ねぎは治したいけど)
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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