腸内フローラが「崩れる」とは?移植した菌が腸で活躍するか否かの分かれ道。

「あ〜、このバランスではしんどいやろねぇ」
「うーわ、この崩れ方は明らかに投薬の影響やろね」
「この人、クロスト(クロストリジウム綱)の比率ごっつい悪いで! メンタル系やな」
シンバイオシス研究所では、こういう会話が日々交わされています。
が、ちょっとふと思ったんです。
“腸内フローラバランスが崩れる”って、何なん?と。
こういうことって、よくありません?
唐揚げを作るときを想像してください。
- 秘伝のタレに漬け込む
- 美味しい唐揚げ粉でラクする
- 竜田揚げにする
- 卵液にくぐらせてから小麦粉つける
- 肉を豚肉にする
など、いろいろな作り方があります。
なんやったら、「揚げない唐揚げ」という謎の唐揚げまで登場しています。
ちょっとまって。
“唐揚げ”って、何なん?と。
これと一緒ですね。(一緒なん?)
目次
腸内フローラバランスが“崩れる”という状態

お腹の中でわたしたちの健康を守ってくれている、何百兆もの腸内細菌たち。
彼らの顔ぶれのことを、「腸内フローラ」と呼びます。
その種類、数、比率は人の数だけ多種多様で、完全に一致する腸内フローラを持つ2人の人間というのはこの世に存在しないと思います。
次世代シーケンサーから出てくる結果を見ると、「Genus:属」だけで見ても300種類以上。
しかもその300種類も、人によって違うという。
少ないやつでは、「全体の0.001527044%」なんて菌もいるわけです。
それでも、いるといないでは全然違いますよね。
そういうわけで、完全に腸内フローラが一致する確率というのは、もう「宇宙から目薬」ぐらい、ほぼありえないわけです。(いつまでも無重力空間に留まったまま一向に落ちてこない目薬。)
それを塩基配列の似ているもの同士でざっくりグループ分けして結果を見るわけですが、それでもかなり人によって差があります。
「理想の腸内フローラ」を決定するのはなかなか難しいというお話は、以前させてもらいました。
理想の腸内フローラが定まらないなら、腸内フローラバランスが崩れているという状態も定まらないのではないかと思いますよね。
確かに厳密にはそのとおりなんです。
ただ、崩れている人は、本当に崩れているんです。
検査結果を見ていて、100人を超えたあたりから「あ、崩れてる」というのが直感的にわかるようになってきます。
それは、世間一般で言われている「悪玉菌」が多いから崩れているというような単純なものではないところがまた面白くて、
一見して悪玉菌(と呼ばれる気の毒な菌たち)が多くても、それは例えば身体の中に巣食っているガン細胞と闘うためにやむを得ずそうなっているだけの場合があったりするわけです。
だから、腸内フローラバランスを見るときには、その人の年齢や性別、抱えている不調や病気なんかも一緒に見ないといけないと思うのです。
なぜ崩れるのか、崩れるとどうなるのか
腸内フローラバランスが崩れる原因として、このブログでも様々なことをお伝えしてきました。
食生活、睡眠、ストレス。
こういう基本的な生活習慣が守られていないと、腸内フローラバランスが崩れます。
それではなぜ生活習慣が乱れると腸内フローラバランスが崩れるのか、わたしが勉強した範囲でお伝えします。
腸内細菌たちは、男女がいてセックスして子供を産むという増え方ではありません。
(菌も実はセックスしているそうなのですが、これはまたの機会にお話します)
菌は、約4〜6時間をかけて倍、倍と増えます。(対数増殖)
そして入れ替わりながら、常に若い菌たちが腸で活躍してくれています。
その菌たちにはそれぞれ、「増殖しやすい環境」というのがあります。

酸性の環境を好む菌、アルカリ性の環境を好む菌。
空気があっても生きられる菌とそうでない菌。
ある温度下で生育しやすい菌。
腸管内は弱酸性であるのが理想的ですが、これが食べ物の影響でアルカリに傾いてしまったり、身体の酸化ストレスで酸化還元電位が偏ったりすると、菌によって増殖スピードが偏ってしまうというわけです。
結果としてバランスが崩れてしまうと。
ところで、酸性とアルカリ性の定義で出てくる「水酸化イオン」のやり取りと、酸化還元電位で出てくる電子のやり取りの差が何を読んでもイマイチわからないのですが、
これは中学生までしか化学を勉強しなかった呪いでしょうか。
移植直後、菌のメンツが一部だけ変わる

腸内フローラのバランスが崩れていると、身体にとってあまり歓迎できないことが起こってきます。
まず、腸管内の環境がさらに悪くなります。
身体に有毒なガスを発生させる菌が必要以上に増えたり、腸管免疫系に悪影響が出たり、菌が有機酸(前回の記事参照)をちゃんと出してくれなかったり。
腸内の環境が悪いから腸内フローラバランスが崩れたのに、それでさらに腸内環境が悪くなるんです。
結果として、生物兵器並みにクサいおならを撒き散らすことにもなりかねません。
また、症状として、免疫系の崩れに起因するアレルギー、炎症性の疾患、うつ、腎臓や肝臓など他の臓器の働きを低下させることもありえます。
一旦こうなってしまうと、なかなか元通りにするのは難しいですよね。
毎日掃除機をかけていた部屋をしばらく放置していて、
なんか部屋にホコリが溜まっているのを見ると、「掃除大変そうやわ」ってなって、その後もどんどんホコリが溜まっていきました、みたいな。
こういう場合、1回だけ誰かが手伝ってくれたら、また頑張ろかなって気になるのにって思うときありません?
その1回のエネルギーが、自分ひとりでは湧かないとき。
腸内フローラ移植は、そういうイメージです。(伝わらんよな、ごめん)
ちょっとだけ背中押してくれたら、あとは自分で頑張るのに、ってときのひと押し。
1クールの移植で、腸内細菌の顔ぶれの一部が入れ替わります。
その菌たちがうまく増殖し、自分自身の腸内フローラとして働いてくれるためには、ケアが大切なんです。
腸内フローラ移植菌液の受け入れ体制とアフターケア

患者さん、あるいは提携医療機関の先生の中には、嬉しいお声がけをしてくれる方々がいます。
「移植してもらった菌を大切にしたいから、食べ物気をつけます」
「丹精込めて作られた細菌君達に今日からは話しかけるように過ごして行くつもりです」
「菌が出ちゃったらもったいないので、移植してから三日間ウンチ我慢しました!!!」(←これは微笑ましいですが、全く必要ありません)
移植前の身体の受け入れ準備を整え、移植後はその菌たちが元気に働いてくれるように応援してやりたい、自分の健康に寄与してくれてありがたい、
そんなふうに思える患者様は、良くなっていきます。
やり方が正しいかどうかは、提携医療機関の臨床医たちがよく知っています。
患者さんの持ち物は、「心構え」だけ。
不思議といえば不思議ですが、当たり前っちゃ当たり前。
「高い金払ってんねんから治してや」とか、
「他人の菌とか気持ち悪」という心持ちの方は、菌たちを受け入れる器になるまで修行してから帰ってきてください。
今しんどくても、前向きに移植を受けてほしいんです。
そして、数時間、数日、数週間と時間が経つにつれて、移植した菌たちがいびつな増殖のしかたをしないような身体と心の環境づくりを、一緒にしていきましょう。
(おまけ)

腸内フローラは、その結果だけではなかなか読み解きが難しいという話をしました。
本人のプロフィール、今の状態、性格などを重ねると、その腸内フローラが何を表すというのが浮かび上がってきます。
これはどの検査結果を読むときにも言えることですが、「顔を思い浮かべる」というのはとても大事です。
人間は、数字の集積ではありません。
臨床に近い場所にいる者として、生身の人間の存在を決して忘れないようにしたいと思います。
お昼ご飯食べ過ぎて、またウンコしたくなってきたんで、このへんで。(記事書いてるのは昼の2時)
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
-
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)