便移植における腸内細菌のお届け方法が選べるようになるかもしれん【経口カプセルvs大腸内視鏡】

昨日は七夕でしたね。
晴れてよかったです。
わたしはとくに彦星と過ごすとかそういうのはなくて、髪の毛をちびまる子ちゃんみたいな感じに切って、わたしのことを大好きな父上と二人で夜ご飯を仲良く食べました。
さて、こんなにもブログを書いていなくて、まだ見てくださっている方がいらっしゃるのかどうか不安ですが、
ここはわたしの癒やしの場なので、今日は書きます。
近ごろ、勉強や情報収集に割ける時間がすごく減っていて。
収集もGoogleアラート任せやし、記事や論文を読むものも、タイトルとAbstractをつまみ読みするぐらいで、ちゃんと読むことはほぼないです。
でも、そんなんではイカンですよね!!!
わたしらよりもずっと賢い人たちが、ずっとたくさんのお金と時間をかけてやっている研究をじっくり読み込むことで、
いま自分たちがしている研究に活かせるヒントが見つかるかもしれん。
そういうわけで、週に1本、論文をちゃんと読んでみるという取り組みを始めます。
せっかく読むので、その概要と、それに対する研究員たちの感想を共有しますね。
ただし、週に1本でなくともよし。
2週間に1本でもよし。
全部わからなくともよし。
精一杯やればよし!
※漫画:ONE PIECEのウソップのセリフより (相変わらず自分に甘いな)
というわけで、医学知識も乏しく、英語力もイマイチなわたしですが、一緒に勉強しましょう。
間違えてたら、教えてくださいね。
目次
便移植で菌を届けるルートとして、経口カプセルと大腸内視鏡に効果の違いはあるか?

今回読んだ論文は、こういう内容です。
以下、原文へのリンクです。
ここから、高速でざっくり概要を説明しますね。
キーポイント
以下、キーとなるポイントを最初に書いてくれてます。
【さて、質問】
再発性のクロストリジウム・ディフィシル感染症に対するFMT(便移植)は、お届け方法(大腸内視鏡か、経口カプセルか)によって効果が違うのか?
【こんな発見があってん】
再発性のクロストリジウム・ディフィシル感染症を持つ116人の成人に、非劣性試験をしました。マージンは15%ね。
※「劣らない試験? なんなんそれ」というレベルだったわたしは、この記事を参考に、優越性試験なるものと非劣性試験なるものの存在を知りました。
要は、「そらルンバはええと思うよ。95%ホコリが取れるのはスゴい技術や。でもな、この『ロンバ』は値段も半分やし、マージン15%で80%のホコリが取れるって非劣勢試験で証明されたら、ロンバにしとかへん?」と、ご主人が奥さんを説得するときなどに使われます。(使われへんわ)
1回だけ移植して、12週間経っても再発しなかった割合は、大腸内視鏡も経口カプセルも96.2%でした!
【どういうことかって言うとな】
口からカプセル飲むタイプのFMTも、効果はあるっぽい。
アブストラクト(要約)
以下、この研究の要約。普通はこれから始まる論文のほうが多い印象。
【この研究が大事な理由】
FMTがクロストリジウム・ディフィシル感染症に有効なことは知られてるけど、お届け方法については全然研究進んでませんやん?
【目的】
だから今回は、口から飲むタイプのカプセルが、大腸内視鏡に負けず劣らずの効果があるんじゃないかってことを確かめようと思ったわけです。
【前提条件、参加者など】
カナダの3箇所で、無作為の非盲検試験をしました。(プラセボとかはなし)
経口カプセルと大腸内視鏡の参加者比率は、半々です。
【効果測定方法】
一番大事なのは、FMTのあとに12週間クロストリジウム・ディフィシル感染症が再発しないこと。
二番目に大事なのは、以下の3つ。
- 有害事象の有無(FMTの関係あるなしに関わらず、患者さんが具合悪くなること)
- 36項目の質問で、QOLが0(まじ生きるの辛い)から100(生きてるって素晴らしい)まで、どのように変化するか
- 患者さんの治療の感想を1(不快感は全然なし)から10(この上なく不快)で、満足度を1(最高)から10(最悪)までで測る
【結果】
この実験に最後まで参加したのは、105人でした。
1回だけ移植して、12週間経っても再発しなかった割合は、大腸内視鏡も経口カプセルも96.2%でした!(いや、それさっき聞いたわ)
どっちのグループでも1人ずつ、FMTとは関係のない病気で亡くなられました。(心からご冥福をお祈りします)
ちょっとした有害事象は、カプセルの方で5.4%、大腸内視鏡のほうで12.5%起こりました。
QOLの改善度はどっちも似たような感じでしたが、不快感が全然なかった患者さんの割合は、66% vs 44%で、経口カプセルの圧勝でした。
【まとめると】
経口カプセルは大腸内視鏡に負けず劣らず効果的でした!(いや、それもさっき聞いたわ)
と、ここからようやく本文なんですが、上記のことを徐々に詳しく書いていくだけで、言いたいことは同じです。
悪いけど、最近読み終えたレイ・ブラッドベリの『さよなら僕の夏』のほうが、一億倍面白かったわ。
本文を訳していくのもつまらないので、以下、本文に対するわたしたちからの感想です。
やっぱりクロストリジウム・ディフィシル感染症での実験が圧倒的多数

これだけいろんな病気が腸内細菌と関わっていると明らかになっているのに、どういうわけかクロストリジウム・ディフィシル感染症の論文ばっかり出てきますね。
その背景には、クロストリジウム・ディフィシル感染症(何回も打つのめんどいから、以下CDIと呼ぶ)以外の疾患で、あまり思わしい効果が出ていないという事実が隠れているようです。
ちなみに、日本にいるとあんまりCDIのことって耳にしませんよね。欧米では罹患者や死者がめちゃくちゃ多いのに。
これについては理由があるんですが、その話は今度に回しますね。
面白いことがあったんで、まとめてお伝えします。
どんだけカプセル飲むねん

この実験では、なんと1回の服用で40カプセルも飲まないといけません。
それやのに、不快感が全然なかった患者さんが66%って、CDIってほんまにしんどい病気で、大腸内視鏡ってほんまにしんどい方法なんやなあと実感しました。
それに、うんこを口から飲むのとお尻から入れるなら、圧倒的に後者のほうが不快感が少ない気もしますが、そのカプセルは見た目があんまりうんこっぽくなかったんですかね。。。
遠心分離機にかけて、極力不純物を取り除いたみたいです。
菌は胃酸で死なないのか?

乳酸菌サプリメントは、胃酸でほとんど死滅してしまい、わずかしか生きて腸まで届かないという事実が物議を醸したことがありました。
結果的に、「死菌でも体にエエんや!」という報告があり、とりあえず終結したみたいです。
でも、FMTとなると、生きて腸まで届いてほしいですよね。
今回の実験では、胃酸を抑える薬も、胃酸に強いカプセルも使わなかったようです。
胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、CDIのリスク因子と考えられているそう。
考察のところで筆者が述べている理由は、
「胃酸を抑える代りに、腸内細菌をいっぱい入れたから、胃酸で多少のロスが合っても成功したんやと思う」
でした。
なるほど、人海戦術ですね!
けど、なんで腸溶カプセル使わへんかってんやろう、、、謎すぎる。どっかに書いてたんかな。。。
IBDの患者さんは2人悪化

大腸内視鏡を使用したグループで、IBD(炎症性腸疾患)の患者さんがお二人、症状が悪化なさったようです。
原因は不明とのこと。
これは、大腸内視鏡という方法そのものの負担によるところも大きい気がしますね。
あと、大腸内視鏡は潰瘍の位置をめがけて移植できるからいい、みたいなことを聞いたことがあるんですが、潰瘍がある場所は腸のバリアも薄くなっていて、下手したら菌血症とかの危険性もあるかもしれんから、かえって潰瘍は避けたほうがいいような気すらする。
免疫抑制中の患者さんも含まれている

先日、悲しいことにFMTで死亡事例がありました。
免疫抑制中の患者さんに、アメリカでは保菌者の少ないESBL産生タイプの大腸菌を移植してしまって、死なせてしまった悲しい事例。
今回紹介している論文は、2017年に発表されたものですが、大腸内視鏡と経口カプセルの両グループに免疫抑制中の患者さんが合計17名含まれていました。
つまり、免疫抑制中の患者さんでもFMTそのものは危険ではなく、むしろドナーのスクリーニングが重要なようです。
ドナーによって結果に違いはなかった

どのドナーを使った場合でも、CDIの患者さんはFMT後に腸内フローラの多様性を取り戻されたようです。
この、「ドナーによってFMTの効果に違いはない」というのは、CDI以外の疾患には当てはまらないと思うんですが、ここではこの議論は避けておきましょう。
すでにわたし、書きすぎていますし。
カテーテルによる注腸移植がなぜもっと用いられないのか

これ、なんでなんでしょうね。
我が研究所が所属する、腸内フローラ移植臨床研究会では、現時点で100%カテーテル移植です。
正直、カプセルを40個飲むより断然楽だと思います。
この方法が普及しない理由は、「お尻から入れた液体が腸の奥まで届かない」という常識があるからではないかなと思う。
ただ、腸管内では通常の状態で逆蠕動が起こっていることは案外知られていて、
(参考:大腸運動の生理、小腸・大腸の逆蠕動例)
これと、体位変換を組み合わせたら、大腸の奥まで届くのではないかと考えています。
加えて、生物活性電位などのおかげで、菌たちは自分が行くべき場所を知っているし、
さらにさらに、虫垂は菌たちのナビをしてくれます。
そこに、浸透圧の低い菌液(特許出願中)となると、もうこれは鬼に金棒なわけですが、今日は宣伝をしに来たわけではないんで、このへんで。
長々とお付き合いありがとうございました。
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
-
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)