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自閉症と腸内フローラ移植は相性がいいらしい。【対象疾患と方法についての考察】

自閉症と便移植

腸内フローラ移植(便移植、FMT)界隈は、日々新しい報告が盛りだくさんです。

腸内細菌と各疾患の関連がつぎつぎと報告されていて、もはや言ったもんがちみたいな感じになっている気がします。
菌たちはわたしたちの一部でもあるので、「全く関係がない」不調や疾患は、大怪我ぐらいではないかという前提に立って話を始めたほうが早いかもしれません。

むしろ、腸内細菌と関連のある疾患名を調べ上げるよりも、もっと体全体とのつながりとして、こっちのボタンを押したらAが光るけど、Aの電池がない場合はBが鳴る、みたいな感じで考えることに労力や研究費を費やすべきではないかと思う。

こういうこと、知識と経験と人間力が不足しているせいで、いつもうまく言えんくて、「いーーーーーーっ!!!」ってなる。

わたし、小さい頃から「ウンコしたくなったら、事前に言わなあかんねん。トイレ行きたいって、前もって言わなあかんねん。そうしないと、パンツ汚れちゃうからね」
ってお母さんに力説しながらウンコ垂れ流してた子やったんで(なぜいざとなって、トイレの三文字が言えない)、
論理的にベラベラ喋ることには自信があるんです。

腸内細菌の仕事をさせていただいていると、「思ってることはあるのに、うまく言葉にできないもどかしさってこれか!」と、むちゃくちゃ痛感します。
想定されるあらゆる質問や反論に対して、しっかりと胸張って答弁できる自信が持てない。
よって、すぐに文系的な曖昧さで乗り切ろうとする。

そんなナヨナヨな状態を、ちょっとでも武装するべく始めた「論文感想文」シリーズ。

今回は、自閉症スペクトラムのお子たちに腸内フローラ移植をした論文をご紹介します。

腸内細菌移植療法が腸の生態系を変化させ、胃腸症状と自閉傾向を改善させる

脳腸相関

2017年、アメリカのアリゾナ州立大学の環境バイオテクノロジー・バイオデザイン・スウェット・センターのローザ・クライマルニック=ブラウン教授を筆頭とする研究チームが行った研究です。

Microbiota Transfer Therapy alters gut ecosystem and improves gastrointestinal and autism symptoms: an open-label study

まずは、要約から行きましょう。

背景

ざーーーーっと読むときは、背景は基本的に無視します。
この読み方は、わたしのように当該疾患に関して十分な知識を備えていない場合にはおすすめできません。
結果と考察だけをつまみ食いしても、本当に有用な洞察は得られないなあ、とようやく気づきました。

というわけで、背景もちゃんと読みましょうね。

  • 自閉症スペクトラム障害は、社会性やコミュニケーションが苦手分野で、同じ行動を繰り返したり、興味や行動がワンパターンになりがち。
  • (ちょっと待って、わたしのことやん……)

  • この障害は、腸内フローラと関係があると思う。だって胃腸の調子が悪い人が多いし、自閉傾向の強さとも関わっているから。
  • 今までの研究で、自閉症は腸内フローラと関わっていることや、抗生剤治療で胃腸症状や自閉傾向が改善した報告がされている。

この研究では、18人の自閉症スペクトラムの子供たちに対して、「Microbiota Transfer Therapy(MTT)」という方法を用いた腸内フローラ移植がどういう効果を示すかを評価しようとしています。

結果はっぴょーーーう!

2週間の抗生剤事前投与のあと、腸管洗浄をして、腸内フローラ移植をしました。
ガッツリ系の移植と、その後の日々のメンテナンス的な移植を含めて、全部で約10週間のスケジュール。

胃腸症状の指標であるGSRSが80%も改善して、自閉症状も大幅に改善しました!
し・か・も!
移植期間が終わってから8週間は、効果が持続していました。

あと、腸内フローラ解析検査もやってて、ドナーの菌が部分的に生着していることも発見!
特に、腸内細菌の多様性っていう点と、ビフィズス菌(Bifidobacterium)、プレボテラ(Prevotella)、デス…ルフぉ…言いにくいな、Desulfovibrioの3つの菌が増えていることが認められました。

つまりどういうことかというと(結論)

このMTTという方法は、腸内細菌やウイルスの構成を入れ替えて、胃腸症状と自閉症状を改善してくれました! よっ、希望の光!
しかも、8週間効果が持続したということは、結構効果が長続きすることを示唆しているんじゃないですかね、とのこと。

すごいですねー。
うちの方法も、これにあやかってNTTとかにしよかな。(大企業からクレーム来るわ)

あと、サラッと「ウイルスも入れ替える」って書いてるところがすごい。
ちなみに、ウイルスも真菌も細菌も、「微生物」というカテゴリに入りますが、これらの違いはご存知でしょうか?
前のブログで書いたので、よかったら見てください。

菌とウイルスは違う! インフルエンザの賢い増え方や治療法

自分で言うのもあれですが、わたし、半年前に比べて面白さとわかりやすさのクオリティ下がってません?
やっぱりしばらく筆を置くと、鈍るんですかね。しょぼん。

以下、気になった点について。

MTTという方法が画期的なのか?

自閉症と便移植

腸内フローラ移植の標準的なプロトコルというのは、まだ確立していません。

ヨーロッパの専門家たちがFMTの方法についてまとめた下記の文献や
European consensus conference on faecal microbiota transplantation in clinical practice

アメリカの消化器学会が中心となってまとめた下記の文献
Fecal Microbiota Transplant National Registry

などが非常に参考になり、うちもドナーバンク運営や提携医療機関からの評価&有害事象報告の指針にさせてもらってますが、
いずれも「これをやっておけば安全だろう」「こういう方法もある」といった、最低限のラインや現状の総括にとどまり、効果的なプロトコルの解明には至っていません。

いろいろなFMTプロトコルが存在しますが、私は今回はじめてMTTという方法を知りました。

簡単に書くと、このような手順です。

  1. 14日間のバンコマイシン服用
  2. 半日から一日の絶食と、腸管洗浄
  3. 経口でも直腸からでもどちらでもいいから、ガッツリの腸内細菌移植(2.5×10の12乗の菌数)
  4. 胃酸抑制剤を飲みつつ、経口でメンテナンス的な意味合いの腸内細菌移植(2.5×10の9乗の菌数/日)

この方法は、1987年からオーストラリアで腸内フローラ移植を臨床応用しているらしいThomas Borody教授が考え出したものだそうです。

うちの菌職人と仲良くなれるのではという気がします。我らが菌職人も、腸内フローラ移植を初めてやりだして、ドナーに「ウンコください」って言いに行ったときは、「ソッチ系の趣味の人」という誤解を受けたらしい。

それにしても、抗生剤を使う移植方法、多いですよね。
今の菌に退却してもらってから、新しい菌を入れるほうがいいというのは、理屈としては理解できなくもないのですが、不自然な感じが否めません。

菌たちとしては、宿主を守ろうとして、全力でこのバランスになっているわけです。
子供の成長に応じて、自分の書斎を潰してまでコツコツと家を改築したお父さんのように。
それやのにある日、脊椎ハウス(セキツイハウス)の業者が来て、「耐震とか問題あるんで、一旦さら地にしますねー」と容赦なく家をぶっ壊すような、そんな切なさに襲われるのはわたしだけかな。。。

あと、生物活性電位も利用できなくなって、移植された菌たちが自分のテリトリーを見つけにくくなりそうで、どうなんでしょうと思ってしまう。

使った菌液が特殊なのか?

自閉症と便移植

今回使われた移植菌液についても記載がありました。

Standardized human gut microbiota(標準化されたヒトの腸内細菌)、略してSHGMという名前を冠した菌液で、すでに商品っぽい響きを持っている。

これについて詳しく読んでみました。
ドナーの検査は、最低限の感染症検査のみという印象。
むしろこれで実施OKなら、弊所ほどアホみたいにドナー検査やらんでもええんではと思うほどですが、法律が整わないうちは、やりすぎでちょうどぐらいなんでしょうね。。。

そのドナー便を、嫌気環境でめちゃくちゃろ過して、GMPの基準に従って、99%以上が細菌のみの状態にした、とあります。
このGMPという方法が素晴らしい方法なのか!! と思って調べると、なんてことはない「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(GMP,Good Manufacturing Practice)」のことでした。
参考:誰でもわかる簡単GMP

この菌液をマイナス80度で凍結しておいて、毎週患者さん宅にドライアイス満載で届けられます。
家族は、移植の直前に湯煎して菌液を溶かすように指示されているようです。

ここでちょっと疑問が湧いてきます。
ガッツリの移植も、メンテナンス移植も、口からの移植が行われていますよね。大腸内視鏡が優勢な中、珍しいことです。

ただ、どうも経口カプセルではなさそうなんですよ。
どういうことかというと、「菌液を口から飲んでいる」みたいなんです。
チョコレートミルクやジュースに混ぜて飲んだという記述があるんですが、ウンコ臭は全くしないのだろうか……
あと、菌などの異物が胃を通過してしまうと具合が悪いから胃酸のpHが低い仕組みになっているのに、胃酸を抑えてしまって大丈夫なんだろうか……

疑問は尽きません。

腸疾患よりも自閉症のほうが腸内フローラ移植と相性がいいのか?

自閉症と便移植

いろいろと普通の腸内フローラ移植とは違う方法で行われた今回の研究ですが、目覚ましい成果を上げています。

クロストリジウム・ディフィシル感染症は頭抜けているので置いておいて、潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群など、ほかの腸疾患での成果が劇的ではないのに比べて、これだけの奏効率はすごすぎます。
実は、確かに弊所の提携医療機関でも、症例数は少ないものの、自閉症のお子さんへの移植は奏効率が高い感触があります。

脳腸相関といえばそれまでですが、やはり腸内細菌と全身の健康が関わっていることは間違いなさそうです。

それにしても、まずは腸から良くなっても良い気がしませんか?
この問題、もっと深く掘り下げる必要があるかと思いますが、かねがね考えていたことと関連があるのではと思っています。

どういうことかというと、「腸疾患の人は、移植した腸内細菌が活躍できないほど腸内環境が悪すぎるのではないか」ということ。
自閉症スペクトラムの子などは、胃腸症状はあるにしろ、真夏の練習に励む野球部員にマネージャーが渡す凍ったアクエリアス的な存在として、まだ送り込まれた腸内細菌部隊が活躍する場が残っている。

でも深刻な腸疾患の場合は、噴火中の火山に凍ったアクエリアスを投げ入れるような感じで、焼け石に水状態になっているのではないか。
そんなことを考えています。

例えば、有機酸が適切に出ている場合は、便のpHは弱酸性になるはずです。これがアルカリに傾いている人は、腸内環境が悪い可能性がある。
あるいは、腸内細菌が利用して元気になれるような、食物繊維や多糖類系の穀物を摂取していない人。(糖質制限中の人とか)

そういう人の場合、腸内細菌を移植するときに、せめてお弁当を持たせてあげたらどうかしら、という話は出ていました。(具体的にはまだどうするか探求中です)

この理屈で、腸に症状が現れている場合は、かえって移植した腸内細菌は育まれにくいのでは、という仮説がうまれてきます。

研究チームの温かさについて

自閉症と便移植

まだまだ書きたいことはあるのですが、相当長くなってきたので、最後にひとつ。

それは、この研究に関わる人たちの温かさが、論文から伝わってくるということ。

この研究では、プラセボ効果は排除していません。
また、コントロールとして参加した一般の子どもたちは、患者さん家族の友人ファミリーや、研究員のお子たちです。
そして、研究に参加した患者さんが経口か直腸経由かを選べたり、12歳以下の子供は朝ごはん食べてもいいよ、お腹すくもんね! という配慮のもと行われています。

だからといってこの研究が適当かと言うと決してそうではなく、胃腸症状も自閉傾向も、複数の指標を用いて統計分析し、腸内細菌だけではなくウイルスの検査も行っています。

誠実であり、寛容である。
この研究チームの姿勢が、今回の奏効率アップにつながったのではないかと、個人的には思います。

治療法ではなく、主治医を選べ、ということなんでしょうか。
とても示唆に富んだ、よい論文でした。

ただ残念すぎるのは、統計分析やDNA解析の専門用語が難しすぎて、存分にこの論文を味わえなかったことです。
次回は、この研究の2年後の経過について、ご紹介します。

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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。 でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。 いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
腸内フローラ移植(便微生物移植)を知っていますか?
わたしたちの腸に暮らす腸内細菌たちと健康との関連が、世界中で次々に明らかになってきています。 「すべての病気は腸から始まる」と言われるように、腸内環境が崩れると病気を引き起こすことが知られています。
健康な人の腸内フローラを移植することで、ふたたび健康を取り戻そうという治療法に期待が高まっています。
腸内フローラ移植(便移植)とは

当研究所について

一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会

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コメント (2)
  1. タペタ王子 より:

    短期間のうちに2本の記事をありがとうございます。
    いつか書いていただけるとうれしいのですが、嫌気性菌を経口摂取(?)した場合、うまいこと腸にまで「生きたまま」届くと考えられるのでしょうか?
    また、城谷先生がご本で紹介されていた「マイクロバブル水」も、嫌気性菌を「生きたまま」届けることができるのでしょうか?
    しばらく前の『嫌気性菌は酸素で死ぬ訳ではない』とおっしゃっていたちひろさんの記事を読み返してからコメントすべきですが、素人のあつまかしさ(自分で言うか)、辛抱たまらんでコメントしました。

    ほんま、「いつか」でかまいませんので、記事のなかで言及していただければうれしいです。
    よろしくお願いします。

    1. ちひろ より:

      タペタ王子さん、ありがとうございます!
      いつも温かいコメントをいただき、とても励みになっています。
      さらに、記事のリクエストまでいただき、感激しております。
      経口摂取で死なないのか問題は、永遠の課題ですよね。お任せください、そのあたりについても、ばっちり書きますね!

      今の移植方法の特許公開が8月末なので、それが済んだらたっぷりお伝えしますね。
      いつもありがとうございます。

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