過敏性腸症候群(IBS)の人に対するFMT(便移植)の、一番エビデンスレベル高い方法での臨床試験結果

ちひろです。

「日本人は〜、胃腸が弱い〜」っていうCM、覚えてます?
テレビを見なくなって何年か経つんで、今もこのCMしてるんかどうかわからないんですが、巷では胃腸薬のCMがめちゃくちゃ流れているイメージがあります。

胃の不快感にはとりあえず胃薬を飲む傾向にありますが、腸の症状に対しては気軽な薬・サプリはビオフェルミンぐらいしかない気がする。

下痢をしやすい、便秘をしやすい、下痢と便秘を交互に繰り返す、おならが止まらない。
過敏性腸症候群と呼ばれるそういった症状に悩まれる方は、年々増えています。

日本だけではなく世界中で。
わたしの海外の友達にもいます。

この厄介な過敏性腸症候群の原因として腸内細菌のバランスに焦点が当てられはじめ、自然な流れでFMT(便移植)にも注目が集まっています。

外から見えにくい症状であること、内視鏡検査をしても潰瘍が見つけられないことなどから、軽く見られがちな疾患ではあるんですが、患者さんによっては日常生活に支障が出る場合もあります。

患者さんの年齢や性別、過敏性腸症候群のうちどの症状が強く出ているのかによって対策も様々で、FMTの効果測定も難航しているのが現状です。

今日は、「randomised, double-blind, placebo-controlled study」ということで、ランダム化比較試験であり、二重盲検試験であり、プラセボ効果も測定しているという、かなりエビデンスレベルの高い試験内容をご紹介します。

IBS患者さんに対するFMTのランダム化二重盲検プラセボ対照試験

ノルウェーのStord病院、ベルゲン大学の医学歯学部のMagdy El-Salhy氏らの研究チームにより2020年4月に発表されました。

(原文)
Efficacy of faecal microbiota transplantation for patients with irritable bowel syndrome in a randomised, double-blind, placebo-controlled study | Gut

最近、ノルウェーの文献をよく見る気がする。

ランダム化二重盲検プラセボ対照試験というのは、要は「極限まで客観化して、気持ちの問題的なのをできるだけ排除した試験」という意味です。

論文要旨

  • 165名のIBS患者に対し、プラセボ群、30gFMT群、60gFMT群の3群に分けて試験を行った。
  • プラセボ群は、自分自身をドナーとしてFMTを実施した。
  • ドナーは1名、凍結便を大腸内視鏡経由で移植した。
  • 効果はプラセボ群23.6%、30gFMT群76.9%、60gFMT群89.1%という結果になり、特にFMT施行後に腹部症状の改善、疲労感の改善、QOLの向上が見られた。

【この研究の意義】

■すでに知られている事実は?
・IBS患者と健康な人では、腸内細菌の構成に差がある。
・腸内フローラの多様性の乏しさが、IBSの病態と関係していると思われる。
・すでにランダム化二重盲検プラセボ対照試験は2件行われているが、一方は効果あり、一方は効果なしという結果だった。

■この研究での発見は?
・FMTはIBSに効果があり、特に腹部の症状、疲労感の改善、QOLの向上に効果があった。
・「スーパードナー」を使うことが、FMT成功の鍵を握る。

「スーパードナー」というワードが出てきましたねぇ。
続きが気になるパターンですねぇ。

プラセボ群に自分の便を使うというのは、なんでなんでしょうね?
他の疾患で、自分の便を移植したら症状が改善したという報告もあるので、プラセボはただの茶色い液体のほうがいい気がします。

それでもめちゃくちゃ差が出てるんで、IBSって相当なレベルで腸内フローラ荒野状態なんかな…

オープンラベルという、患者さんもお医者さんも「どの人にどんな治療をするか」が知らされているタイプの試験では、FMTは効果的という報告があります。[1]Fecal microbiota transplantation for managing irritable bowel syndrome: Expert Review of Gastroenterology & Hepatology: Vol 12, No 5

そして、IBSに対するランダム化二重盲検プラセボ対照試験は2件行われているんですが、片方は効果あり、片方は効果なしという、謎な結果に終わっていました。[2]Faecal microbiota transplantation versus placebo for moderate-to-severe irritable bowel syndrome: a double-blind, randomised, placebo-controlled, parallel-group, single-centre trial – … Continue reading[3]Faecal microbiota transplantation alters gut microbiota in patients with irritable bowel syndrome: results from a randomised, double-blind placebo-controlled study | Gut

方法・評価

患者さんは、移植当日と一ヶ月後に来院して、便の提出と問診への回答を行います。
移植から2週間後と3ヶ月後にも、問診へ回答してそれを郵送します。

ドナーから採取した便はマイナス80度で保管され、4度の環境で2日かけてゆっくり解凍されました。

これ、ほんまに大事やと思う。アメリカの標準では、凍結している状態からいきなり37度で湯煎やねんけど、それって菌にめっちゃ負担なはずやから。

解凍後の便は、30g、60gそれぞれを40mlの生理食塩水で溶かして濾過されて、また4度の冷蔵庫で移植の時を待ちました。

実験に参加する対象患者さん

対象となったのは、以下のすべてに当てはまる人たちです。

  • 18歳から85歳であること
  • IBS重症度スコア(IBS Severity Scoring System (IBS-SSS))で175以上のスコアのある「中程度〜重度」のIBS患者であること
  • 平均して17年(9から25年の範囲)の罹患歴であること

免疫系の疾患がある方や妊婦さん、他にIBSの治療を受けている患者さんなどは対象外とされています。

ドナー選定

※画像はイメージです

FMTドナーの基準として、ヨーロッパの専門家たちが話し合って作った「ヨーロピアンコンセンサス[4]European consensus conference on faecal microbiota transplantation in clinical practice | Gut」というのがあって、今回はそれに沿ってドナーを選んでいます。

本文で「スーパードナー」と書いてありますが、別にスーパーでもなんでもなくて、ドナーバンクに登録するのに最低限のレベルが求められているだけです。
基礎疾患がないとか、感染症にかかってないとか。フローラバランスも測ってます。

わたしもこのドナーと同じくらい健康やわ。(どこを張り合ってるねん)

BMI23.5で、経膣分娩で、母乳育児で、人生で3回だけ抗生物質を飲んだことがある。
週に5回、1時間のトレーニングをする。
食生活もばっちり。
36歳の、マッチョな北欧男子イケメン(たぶん)。
でも(残念ながら)サプリメントを飲んでいる。プロテインとか、食物繊維とか、ビタミン&ミネラルとか入ってるやつ。

マッチョな北欧男子イケメンがドナーなら、進んでドナーバンク管理者になりたい。

評価方法

評価に使った指標は以下のとおり。

  • 腹部症状:IBS重症度スコア(IBS Severity Scoring System (IBS-SSS))と、Birmingham IBS Symptom (Birmingham IBS-S) 
  • 疲労度合い:Fatigue Assessment Scale (FAS)
  • QOL:IBS Quality of Life (IBS-QoL)と、Short-Form Nepean Dyspepsia Index (SF-NDI)

それぞれに対して、スコアがこのくらい下がったら(上がったら)効果があったと判断しよう、という基準があります。

腸内細菌の遺伝子解析も行っています。

結果

3ヶ月後における効果は、プラセボ群23.6%、30gFMT群76.9%、60gFMT群89.1%という結果になりました。

2週間後の時点ではプラセボ群もわりと頑張ってたんですが、1ヶ月、3ヶ月と経つにつれ、FMT群との差が開きました。

面白いことに、FMT群ではIBSのタイプによって効果に差はなかった一方、プラセボ群では便秘型と混合型において明らかに1〜3ヶ月後も効果が持続する確率が高かったそうです。性差はなかったとのこと。

ちなみに上に書いている「効果」というのは、「○○の評価方法で○点以上下がったら〜」みたいな基準を満たしたかどうかです。

論文の考察に書かれているのですが、実際に患者さんが腹部症状、疲労感、QOLの項目で改善を感じたのは、いずれの項目も半数程度だそう。
わかりにくいなあ。

一年後も効果は持続するか?

この研究チームは、参加した患者さんのうちFMT群に振り分けられた患者さんにおいて、一年後も同じように効果測定を行っています。

(原文)2021年6月18日発行
Long‐term effects of fecal microbiota transplantation (FMT) in patients with irritable bowel syndrome – El‐Salhy – – Neurogastroenterology & Motility – Wiley Online Library

ありがたいことに、FMTの効果は持続したばかりか、3ヶ月後時点よりも1年後時点のほうがより症状が改善しているという結果になったそうです。

平均して17年もIBS症状に苦しんだ患者さんがやっと楽になれて、ほんまによかったなぁと思います。

(おまけ)エビデンスの適切な使い方

さて、ここで紹介した論文で使われている「ランダム化二重盲検プラセボ対照試験」というのは、非常にエビデンスレベルの高い実験方法です。

エビデンスレベルが高いということは、再現性も高いということになります。

それでも、この方法で行われたIBSに対するFMT試験では、効果があったと結論付けられたものと、そうでなかったものがありました。

「この論文は信頼できる!」と思った論文の両方が、正反対のことを言っていたとしたら、ちょっと困りませんか?

昨今、EBM(エビデンスに基づいた医療)が推奨されています。
臨床医の勘や腕だけに頼らず、科学的で客観性の高い事実に基づく医療を患者さんに提供しようという動きです。

でもこのエビデンス、現場において「使われすぎである」とする指摘もあります。[5]エビデンス つくる・伝える・使う
医師たちの隠れ蓑・思考停止の材料としてエビデンスが持ち出されることが少なくなく、かえって患者さんに適した医療が行われない危険性もあるかもしれません。

EBMのパイオニアであるHaynesはある雑誌でこう語っています。

“Evidence does not make a decision, people do.”
(エビデンスが決めるんじゃない、人間が決めるんだ!)

くぅ〜っ、シビれる〜っ!

エビデンス、上手に使っていきましょう。

この記事を書いた人

ちひろ
ちひろ研究員・広報(菌作家)
自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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