ヒトは微生物にとって理想的な乗り物であり、ヒトはそのおかげで強くなれる
ちひろです。
今日は軽い話題です。ひとりごとと思って聞いていただければ。

いやがおうにも微生物に注目が集まり、その存在が敵視されてしまっている昨今。
「新型コロナウイルス」を滅したいがあまり、微生物ぜんぶを滅するような行動を取っている世界の人たち。
でもしょうがないんかもしれん。
「バナナ生卵クッキー牛乳ナッツ蕎麦カニ桃サバ缶のスムージー」を飲んで重篤なアナフィラキシーショックになった場合、どれが自分のアレルゲンかを考える前に、とりあえずそのスムージーを買うのやめるもんな。(その恐ろしいスムージーが資本主義経済下の食品メーカーから売り出されてるとは思われへんけどな)
そういうわけで、わたしたちは今、何十億年も前から地球に住んで、その繁栄を助け、もちろんわたしたちヒトの繁栄も助けてきた微生物たち(細菌・ウイルス)などの大先輩にめっちゃ失礼なことをしています。
ヒトの歴史は感染症の歴史とも言われます。
今日は、なぜヒトと微生物が切っても切れない関係なのか、微生物サイドと人間サイドから見てみます。
目次
ほどほどの毒性が微生物にとって都合がいい

「○○菌は非常に毒性の強い菌です。注意喚起!」
「○○ウイルスが強毒化しました」
なんてニュースを聞くと、どう思いますか?
やっべ、微生物のヤロー、進化しやがったと思いますか?
実は、ヒトを殺してしまうほど、あるいは家のベッドでウンウンうなるほど重症化させてしまうというのは、微生物にとっては都合が悪いんです。
だって拡散されて増殖できないから。
鼻がずるずる、くしゃみが出る、なんとなく熱っぽくてだるいけど、会社休むほどでもないかな。
これぐらいが微生物にとっては最高の「ほどほど毒性」です。
「いいよー! 頑張れ、『多少の不調じゃ休まない』日本人! 我々をもっと拡散して〜」
ってなもんです。
たしかにそのほうが微生物にとってもいいよな、と思いません?
インフルエンザは重症化しがちですが、ヒトの免疫系をだまして症状を出させない「潜伏期間」というのがあります。このあいだに他のヒトに移るわけです。
そして今年かかって獲得免疫に覚えさせても、来年はちょっとだけ変装して戻ってくるから、またかかるってわけ。
もう、インフルエンザと闘うのやめたくなるくらいの賢さ。
本来、微生物はこのように「ヒト(乗り物)にとって弱毒であること」を目指して進化します。
もちろん死に至る病原菌も存在するわけですが、彼らはどちらかというと劣勢・劣等民族です。
だからあんまりはびこらない。
薬によって無理に殺そうとしたりすると、「この毒性ではちょっとパワー不足やったな」と思い直して、本来とは別な方向に進化してしまいます。(耐性菌とか)
野生動物は感染症に苦しまない

実は、野生動物の多くは感染症に苦しまないそうです。
その大きな理由のひとつは「個体同士があんまり接触しない」こと。
ヒトってとにかく群れますよね。
学校行ったり会社行ったり、電車乗ったりオリンピックしたり。
群れるということは、感染る(うつる)ということです。
生物の中でも特にヒトのような社会的動物が、微生物にとっては理想的な乗り物ってわけです。
ちなみに同じように、コウモリも群れて生活するうえ、広範囲に飛び渡っているので、微生物の運び屋としては有名ですね。
そういうわけで「ステイホーム」が推奨されてヒト同士の接触を避けようとしてきたわけですが、これが長期化している現在、徐々にヒトの身体とその中の微生物に異変が起こりつつあるとわたしは思っています。
それは、ヒトは病原菌を含めて「微生物ありき」で進化してきた生き物だから。
もっというと、「他者との微生物交換ありき」で進化してきた生き物だから。
ヒトは微生物に守られている

代謝、脳の働き、免疫の調整など、ヒトの健康にとって微生物が不可欠であることはいまさら言うまでもないのですが、ここでは免疫系に及ぼす影響にしぼってお話をします。
免疫。言葉は知っているけど、それが何やと言われるとなかなか難しい、免疫。
一言でいうと「非自己を排除する仕組み」です。
ヒトの体内に侵入者が入ってくると、T細胞と呼ばれる免疫細胞たちを筆頭とした免疫系が反応します。
でも何もかもに反応するわけではありません。
正しい免疫系というのは、「自分にとって有害な非自己」のみを攻撃します。
そういうわけで、日々食べるものも、お腹の腸内細菌たちも排除されずに済んでいます。
けれど、このT細胞のチームバランスが崩れると、おかしなことが起こってきます。
本来無毒なはずの食べ物にアレルギー反応してしまったり、
花粉症になったり、
中にはどう考えても「自己」であるはずの自分自身を攻撃してしまう病気になったりします。
このあたり、前にも詳しく書いたのでよかったら見てみてください。(《もっと詳しい》免疫の要、腸管免疫のしくみ【腸と免疫シリーズ7】)
T細胞の中でもTh1、Th2、Tregなどの細胞たちのチームワークにより、正しい免疫系は保たれています。
このチームには司令官の役割のT細胞もいるのですが、実はわたしたちの体内の微生物たちが、このチームの働き方にものすごく関係していることがわかってきました。[1]Frontiers | Microbiome Dependent Regulation of Tregs and Th17 Cells in Mucosa | Immunology[2]Antibiotics exacerbated colitis by affecting the microbiota, Treg cells and SCFAs in IL10-deficient mice – ScienceDirect[3]Impaired regulatory T cell function in germ-free mice – PubMed
さらに、微生物たちはその存在自体で、外界からの侵入者に対する物理的バリアになってくれます。
彼らがいない、または微生物バランスが崩れた腸内では、腸壁が無防備になるいわゆる「リーキーガット」が起こりやすくなり、外敵の侵入をあっさり許してしまいかねない状況になります。
どうでしょうか。
やみくもに「菌・ウイルスにさよなら!」なんて謳っている商品を、買う気になるでしょうか?
微生物はわたしたちヒトを利用して繁殖しているかもしれん。
でもヒトのほうだって、そのおかげで種としても個としても恩恵を受けているんですね。
微生物を敵視した人類に待っているのは、滅亡か、はたまた「微生物抜きで生きていける進化」か。
まだ1000万年も生きていない人類よりも、何十億年もこの世界にいる微生物のほうが勝ちそうな見込みがありますが、
人間社会で賭けがあったら、オッズは後者のほうが高そうですね。
「肉体は遺伝子にとってただのキャリア(乗り物)に過ぎない」って誰かが言ってたけど、
「ヒトは微生物にとってただのキャリに過ぎない」ってのが真理なんかもしれんな。
我々が驕ることをやめれば、また微生物は我々を理想的なキャリアと見なしてくれるかもしれない。
本当に本当に、その最後の瀬戸際が今やと思うんです。
この記事を書いた人

- 研究員・広報(菌作家)
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自分の目で見えて、自分の手で触れられるものしか信じてきませんでした。
でも、目には見えないほど小さな微生物たちがこの世界には存在していて、彼らがわたしたちの毎日を守ってくれているのだと知りました。
目に見えないものたちの力を感じる日々です。
いくつになっても世界は謎で満ちていて、ふたを開けると次は何が出てくるんだろう、とわくわくしながら暮らしています。
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References

《特許出願中》
腸内フローラ移植
腸内フローラを整える有効な方法として「腸内フローラ移植(便移植、FMT)」が注目されています。
シンバイオシス研究所では、独自の移植菌液を開発し、移植の奏効率を高めることを目指しています。(特許出願中)